第12話 嵐をぶち壊す

「いきなりなに言ってんだてめぇ?」

「言葉のとおりだ。なぁ、いいだろ?」

「そこの女、てめぇの彼女じゃねぇのかよ」

「セフレだ。見りゃ分かんだろ」

「……」


 その言葉に、星名はバツが悪そうな顔をする。


「もし他に女がいんのが気に食わねぇってならコイツは切るぜ」

「ちょっとー、酷くない雄我ゆうが-?」


 名前も分からんギャルはそう言って口を尖らせる。


 んー、なんか雲行きが怪しくなってきたな。

 つーかあのギャルセフレだったんか。彼女かと思ったぜ。


「……他に女がいるとかンなことカンケーねぇ。ウチはてめぇのモノにはならねぇよ」


 ――ダン!!


 瞬間、そんな音が響く。

 ヤンキーの親玉、榊って野郎が足で強く地面を踏みつけた音だ。


「おいおい、あんまナメた態度取ってんじゃねぇぞ……?」


 榊の鋭い視線が星名に向けられる。


「中学のときはてめぇには勝てなかった。けどなぁ……俺は不良の巣窟、阿久アク高で強くなった! 今のてめぇよりもなぁ!」


 声高らかに言う榊。

 その顔面は自信満々って感じだ。

 

「はぁーん?」


 が、当の星名はまったく動じてない。

 むしろ鼻で笑ってる。


「あぁ?」


 そんな星名に、榊はあからさまに苛立っていた。


「てめぇはウチに勝てねぇよ。ンなことも分かんねぇのか?」

「千聖、てめぇ……!!」

「前置きはいいからよぉ。さっさとかかって来いよ……分からせてやっから」


 そう言って、星名は榊の方へ向かって歩き出した。


「あー……マジでプッツンきたぁ!! 生意気いったことぉ、後悔させてやるヨォ!!」


 挑発に乗るように、榊はダッと星名めがけて走り出す。


 おいおいマジで来やがったぞアイツ! あんな煽って大丈夫か星名のやつ……!


 と、俺が心配したのは……。


 ドォン!


「ぐはぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」


 一瞬のことだった。

 パンチ一撃で榊を数メートル先まで吹っ飛ばした星名。

 俺は思わず叫んでしまった。


 いや、まぁ普段からなんとなく分かってたことだけど、まさかこんなに強いとは……。


「雄我、だいじょぶ!?」


 吹っ飛ばされた榊に駆け寄るセフレのギャル。


「てめェ!!」

「よくも榊さんをぉ!!」


 それを横目に、腰ぎんちゃくAとBが怒りの声を上げる。


「あぁ? 文句あんならてめぇらもかかって来い」

「「っ!?」」


 睨み付ける星名。明らかに榊よりも弱い奴らは足をすくませた。


「おぉい……!! ヒヨってんじゃねぇお前ら!! 突っ込め!!」

「で、ですけど榊さん!!」

「あ、あの女ヤバいですよ……! 榊さんが負けたヤツに俺らが勝てるワケ……!!」

「負けてねぇバカ……!! だったら頭使えぇ……!!」

「「あ、頭……」」

「いいから行けぇ……!! 行かねぇとあとでどーなるかぁ、分かってんだろうなぁ……!?」


 絶え絶えの息で脅しという名の発破ハッパを掛ける

 普段からかなりパワハラ的なモンを受けているんだろう。AとBはこちらへ向かって走り出した。


「らぁ!!」

「ぐふぅ……!?」


 さっきと同じように、強烈な一撃をAの方に見舞う星名。

 だが……。


「今、だぁ……!!」


 死にそうなAの声を置き去りにするようにBは星名の横を素通り。

 そして……。


「げ……」


 Bは真っすぐこっちに向かって来た。


「へへ!! あっちの軽犯罪者顔とチビ女、てめぇの連れだろ? アイツら人質に取りゃあ形勢逆転!! 俺たちの勝ちだ!!」

「っざけんな!! クソッ!! おい離せぇ!!」

「誰がぁ、離すかよぉ……!!」


 星名に一撃を食らったAは辛うじて意識を保ちながら星名の腕を掴み、星名が俺たちの方に駆け寄るのを妨害していた。


 打ち合わせも無しにこの連携……やるな。

 

 思わず俺は感心してしまう。

 

「どっけ!!」

「ぐほぉう!!」


 数秒後、Aの拘束を無理やり振りほどき、星名はBの背中を追う。

 だが間に合わない。ローとはいえヒールを履いてる星名は足が遅い。

 星名が到着するより前に、Bは俺たちの方に到着する。ンで俺たちを人質にするだろう。


 キーン。


「ごぉう……!?」


 ま、そうはならないんだけどな。


「て、てぇ……めぇ……ひ、卑怯だぞぉぅ……!!」

 

 俺の蹴り上げが息子にクリティカルヒットしたBはピョンピョンと飛び跳ねながら、俺を睨みつけた。


「いやー、俺って軽犯罪者顔だからよぉ、そーゆーのあんま気にしねぇんだわ」

「こんのぉ……!!」


 ピョンピョン効果で息子の痛みが少しはやわらいだのだろう。

 完全に俺へとヘイトを向けているBは思い切り拳を振りかぶり、足を前に出そうとする。


 ――だが今それをするのはおススメしないぜ。


「うぇっ……?」


 キョトンとした声を漏らしたBは……。


 ズッテーン!!


 そんな効果音が似合う、盛大な転びっぷりを見せた。


「な、なん、だぁ……?」


 なにが起きたか分からないといった様子のB。

 しかしすぐに、奴は理解した。


「っズボンが……!? いつの間に……!?」


 そう、Bのズボンはずり落ちていた。

 だから俺に殴り掛かろうと足を動かした瞬間、足元が狂って前に倒れ込んだのだ。


「お前の息子を蹴り上げたのと同時にベルト抜き取った」


 手先の器用さにはちょっとばかし自信がある。

 我ながら見事なモンだと、俺は自分を褒め称えた。


「く、そぉ……」


 地面に激突した衝撃が効いたのだろう。

 Bはそのまま気絶した。


「ナイス、やるじゃねぇかミナト! ヤベェって思ったけど、心配なかったみてぇだなぁ」


 バシバシと笑いながら俺の肩を叩く星名。とても痛い。


「大丈夫ですか? 根上さん」


 ひとまず、俺は後ろにいた根上に声を掛けた。


「湊斗が守ってくれたから、だいじょぶ」


 根上は俺の手を握るとブンブンと腕を振った。

 よく分からん感情表現だ。


「さて、と」


 星名は悔しさ全開って感じの表情をしてる榊へと目を向ける。


「まだやるか? 榊」

「ざ、ざけんなよ千聖ぉ……!! 許さねぇ、てめぇとそこのスカジャン野郎は絶対許さねぇ……!! 後悔させてやる、絶対後悔させてやるからなぁ……!!」


 俺を入れるな俺を。

 

 思わず声に出そうになるツッコみを、俺は寸前で耐えた。


「クソが!!」

「あ、ちょっと待ってよ雄我ー!」


 捨て台詞を残し、その場から逃げ出す榊。

 セフレのギャルもそれに続く。


「「……」」


 気絶した腰ぎんちゃくAとBは置き去りにされていた。


「うーし、これで帰れるなー! んじゃ行こーぜー」

「ういうーい」


 そう言って、駅に向かって星名と根上は何事も無かったかのように歩き出す。


「おーいミナトー! なにボーっと突っ立てんだぁ? 行くぞー」

「あ、はい!」


 なぜか無意識に立ち止まっていた俺は、星名に背中を押され、二人の後を追う。


 目指すは根上の家。

 さっさと荷物置いて、さっさと帰ろう。



◇◇◇

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