第13話 ギャルのお家でお泊まり

 根上に案内され、俺は根上が住んでいるというマンションの前まで来た。


「ここの一番上がコトハの部屋」


 デカいマンションだな。家賃とかヤバそう。小遣いもすげぇもらってる感じだったし、根上の親って金持ちなんだな。


 なんてことを思いながら、俺は中に足を踏み入れる。



「着いたー!」


 根上が住んでる部屋に到着した瞬間、星名は大声を出しながら、家主の根上より先にバタバタと奥へ進んでいく。

 まるで自分の家みたいな感じだ。


「荷物とかてきとーに置いてー」

「分かりましたー」


 根上の言葉に従い、持たされていた大量の荷物をリビングの端っこに下ろす。

 腕に掛かっていた負荷が消えて、解放感がハンパない。


 よっし!


「じゃあ俺は帰りますね! また学校で!」

「ちょい待ちミナト」


 颯爽と帰宅しようとした俺の肩を、星名はガシッと掴んだ。


「な、なんですか星名さん……?」

「萎えること言うなよ。メシくらい食ってけ」

「MESI?」

「おう。今日の感謝代ってやつだ。いいよなコトハ?」

「モチ。湊斗は琴葉守ってくれたから、お礼する。ぜったい」


 どうやらメシを食わすまで根上も俺を帰すつもりは無いらしい。

 

 ……はぁ、仕方ねぇか。

 

 俺は観念して星名と根上の言葉に従うことにした。

 

「分かりました。ゴチになります」

「そーこなくっちゃな」

「うぇーい」

「じゃあちょっと家に電話してきますね」

「わざわざ連絡すんのか? 意外とマメなんだなミナト」

「いや、マメって言うか……まぁ家庭内事情ってのがありまして」


 俺は言葉を濁しつつ、スマホを持って席を外す。


「ホントはメッセージがいいんだけど、直で掛けないと気付かねぇからなぁ」


 そう言いながら玄関先まで来て、俺はLINE電話を掛けた。

 

 ~~♪


 数秒の呼び出し音。そして直後、スピーカーから向こうの声が届いた。


『へーいへい。愛しの姉ちゃんだぞー』


 通話の相手は束橋えま、俺の姉だ。


「おーアネキ。ワリィけど今日帰んの少し遅れっから」

『うぃー分かった。じゃあご飯は冷蔵庫だなー?』

「いや、それなんだけど今日はもともと作る予定だったからさ。作り置きが無いんだよな。だからテキトーになんとかしてくれ」


 まるで親が子供にするような連絡だが、これが俺の家の普通だ。


 俺の親はどっちも普段家を空けてる。

 家には俺とアネキの二人だけ。

 そーなると、家事も当然俺とアネキが分担してやることになる。


 ……だが、段々とアネキは家事をしなくなり、今では家事全般は俺がやっている。

 気付けば俺は、アネキの世話係(飼育員)になっていた。


 今回の連絡はその延長ってワケだ。

 さてアネキの反応は……。


『なん、だと……!?』


 納得いってないことはスピーカー越しに嫌でも分かった。


『ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダァ!!』


 駄々をこね始めるアネキ。

 ドタドタという音から、床に寝っ転がり手足をバタバタ動かしてる姿が容易に想像できる。


『姉ちゃんは湊斗のご飯食べないと死んじゃうんだぁ! 姉ちゃんを殺す気かぁ!』

「死なねえだろ。二、三日帰って来ないのザラのくせによ」

『正論パンチやめてぇぇぇぇ! 大学から留年を突きつけられて姉ちゃんのライフはもう0なのぉぉぉぉ!』

「うるっさ!? 急に叫ぶなって! じゃあそーゆーコトだから。もう切るぞ」

『うわっ! なんて無理やり終わらせる気!? なんて愛が無いの私の弟は!! お姉ちゃんはそんな弟に育てた覚えはございません!』

「育ててやったのはむしろ俺の方だけどな」

『だから正論パンチ禁止カードだってぇ!? もー! お姉ちゃんにご飯作るより大事な用ってなんなんだよぉぉぉぉぉ!!』

「うっ、い、いやそれは……」

『お? なんだぁ、ガチで動揺してんな? 姉ちゃんに誤魔化しはきかねぇぞ?』

「う、うっせぇな! 色々あんだよ俺にも!」

『まさか……女か?』

「っ!?」


 ドンピシャなアネキの予想に、心臓がドクンと跳ねた。


「……ち、ちげぇよ」

『おい今の間!! ぜったいそーじゃん!!』

「だからちげぇって!!」


 このままでは面倒なことになりかねない。

 俺は音圧でなんとかごり押しするが……。


「おーいミナト? 大声出してどしたー?」

「あ」

『あ?』


 そう聞いてきた星名の声は、スマホのスピーカーを通り、ばっちりアネキに届いてしまった。


『おぉい!? やっぱり女じゃん!! 姉ちゃんに内緒で彼女作っとるやんけぇ!! ダメダメダメ!! 姉ちゃんの審査を通ってないのに許さ』


 ピロン♪


「あ、だいじょぶです。今終わりました」


 全てを諦めた俺は、通話終了ボタンを即押しして、星名にそう言った。


 ――顔が引きつってんのは自分でも分かった。



「湊斗、うまい?」

「うめぇっす」

「ドンドン食べて。たくさんある。全部琴葉のおススメ」


 根上に勧められるがまま、俺はメシをごちそうになる。

 ちなみに言っておくと、これは根上が作ったワケじゃなく、根上がウーバーで頼んだモンだ。

 

 あの流れでお前が作るんじゃないのかよと思ったが、これが根上なりの感謝の気持ちなんだろう。

 自作なのかウーバーなのか、なんてのはどーでもいいことだ。


 うん、やっぱうめぇ。


 そうして、俺が口に入れたメシの美味しさを実感していると……。


「はぁーあ。にしても今日は運が悪かったな。まさかあんなのとバッタリ会っちまうなんて」


 ラフな格好に着替えた星名が現れ、近くにあったソファに脱力するように座った。


「さっきの奴、星名さんと同じ中学みたいでしたね」


 そんな星名を見て、俺はそう尋ねた。興味本位ってやつだ。


「あぁ。全然覚えてねぇけど」

「はは……。あ、あとアレですね。メチャクチャ強かったですね星名さん」

「まぁなー」


 なんてことないように、口にポッキーを加えながら星名は答える。


「なんか格闘技とかやってました?」

「いんや? 力はもともと男より強かったし……あー、でも中学までは不良とケンカばっかしてたな」

「さ、さいですか……」


 え、なに? なんで一昔前の不良漫画みてぇな経歴してんのこの女?

 

 サラッと放たれる星名の爆弾に発言に背筋が凍る。

 なんとかそれを表に出さないようにしながら、俺は言葉を続けた。

 

「で、でもそれじゃあなんでウチの高校に入ったんですか?」


 俺たちの通う私立歩和高校ふわこうこうはかなり校則が緩く自由な校風のため、いろんな奴らがいる。

 が、それでもヤンキーみたいな生徒は数えるほどしかおらず、ガチの不良高には遠く及ばない。


「別にケンカすんのが好きってワケじゃなかったからな。突っかかって来た奴をブッ飛ばしてただけだし。そーいうの無さそうでウチが入れそうなトコ選んだって感じ。あと……」


 そこまで言って、星名は突然口をつぐんだ。


「あと?」


 俺は思わず聞き返すが、


「……なんでもねぇ」


 そう言ってはぐらかされてた。

 なんだろうか、言いたくないって感じだ。


「あ、そーだミナト。上はウチのパーカーとか貸せっけど下はサイズ的にムリだからよぉ、このあと近くのドンキで買い行くぞ」

「え?」


 そして気付けば、俺はサラッと泊まることになっていた。



◇◇◇

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