第13話 ギャルのお家でお泊まり
根上に案内され、俺は根上が住んでいるというマンションの前まで来た。
「ここの一番上がコトハの部屋」
デカいマンションだな。家賃とかヤバそう。小遣いもすげぇもらってる感じだったし、根上の親って金持ちなんだな。
なんてことを思いながら、俺は中に足を踏み入れる。
◇
「着いたー!」
根上が住んでる部屋に到着した瞬間、星名は大声を出しながら、家主の根上より先にバタバタと奥へ進んでいく。
まるで自分の家みたいな感じだ。
「荷物とかてきとーに置いてー」
「分かりましたー」
根上の言葉に従い、持たされていた大量の荷物をリビングの端っこに下ろす。
腕に掛かっていた負荷が消えて、解放感がハンパない。
よっし!
「じゃあ俺は帰りますね! また学校で!」
「ちょい待ちミナト」
颯爽と帰宅しようとした俺の肩を、星名はガシッと掴んだ。
「な、なんですか星名さん……?」
「萎えること言うなよ。メシくらい食ってけ」
「MESI?」
「おう。今日の感謝代ってやつだ。いいよなコトハ?」
「モチ。湊斗は琴葉守ってくれたから、お礼する。ぜったい」
どうやらメシを食わすまで根上も俺を帰すつもりは無いらしい。
……はぁ、仕方ねぇか。
俺は観念して星名と根上の言葉に従うことにした。
「分かりました。ゴチになります」
「そーこなくっちゃな」
「うぇーい」
「じゃあちょっと家に電話してきますね」
「わざわざ連絡すんのか? 意外とマメなんだなミナト」
「いや、マメって言うか……まぁ家庭内事情ってのがありまして」
俺は言葉を濁しつつ、スマホを持って席を外す。
「ホントはメッセージがいいんだけど、直で掛けないと気付かねぇからなぁ」
そう言いながら玄関先まで来て、俺はLINE電話を掛けた。
~~♪
数秒の呼び出し音。そして直後、スピーカーから向こうの声が届いた。
『へーいへい。愛しの姉ちゃんだぞー』
通話の相手は束橋えま、俺の姉だ。
「おーアネキ。ワリィけど今日帰んの少し遅れっから」
『うぃー分かった。じゃあご飯は冷蔵庫だなー?』
「いや、それなんだけど今日はもともと作る予定だったからさ。作り置きが無いんだよな。だからテキトーになんとかしてくれ」
まるで親が子供にするような連絡だが、これが俺の家の普通だ。
俺の親はどっちも普段家を空けてる。
家には俺とアネキの二人だけ。
そーなると、家事も当然俺とアネキが分担してやることになる。
……だが、段々とアネキは家事をしなくなり、今では家事全般は俺がやっている。
気付けば俺は、アネキの世話係(飼育員)になっていた。
今回の連絡はその延長ってワケだ。
さてアネキの反応は……。
『なん、だと……!?』
納得いってないことはスピーカー越しに嫌でも分かった。
『ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダァ!!』
駄々をこね始めるアネキ。
ドタドタという音から、床に寝っ転がり手足をバタバタ動かしてる姿が容易に想像できる。
『姉ちゃんは湊斗のご飯食べないと死んじゃうんだぁ! 姉ちゃんを殺す気かぁ!』
「死なねえだろ。二、三日帰って来ないのザラのくせによ」
『正論パンチやめてぇぇぇぇ! 大学から留年を突きつけられて姉ちゃんのライフはもう0なのぉぉぉぉ!』
「うるっさ!? 急に叫ぶなって! じゃあそーゆーコトだから。もう切るぞ」
『うわっ! なんて無理やり終わらせる気!? なんて愛が無いの私の弟は!! お姉ちゃんはそんな弟に育てた覚えはございません!』
「育ててやったのはむしろ俺の方だけどな」
『だから正論パンチ禁止カードだってぇ!? もー! お姉ちゃんにご飯作るより大事な用ってなんなんだよぉぉぉぉぉ!!』
「うっ、い、いやそれは……」
『お? なんだぁ、ガチで動揺してんな? 姉ちゃんに誤魔化しはきかねぇぞ?』
「う、うっせぇな! 色々あんだよ俺にも!」
『まさか……女か?』
「っ!?」
ドンピシャなアネキの予想に、心臓がドクンと跳ねた。
「……ち、ちげぇよ」
『おい今の間!! ぜったいそーじゃん!!』
「だからちげぇって!!」
このままでは面倒なことになりかねない。
俺は音圧でなんとかごり押しするが……。
「おーいミナト? 大声出してどしたー?」
「あ」
『あ?』
そう聞いてきた星名の声は、スマホのスピーカーを通り、ばっちりアネキに届いてしまった。
『おぉい!? やっぱり女じゃん!! 姉ちゃんに内緒で彼女作っとるやんけぇ!! ダメダメダメ!! 姉ちゃんの審査を通ってないのに許さ』
ピロン♪
「あ、だいじょぶです。今終わりました」
全てを諦めた俺は、通話終了ボタンを即押しして、星名にそう言った。
――顔が引きつってんのは自分でも分かった。
◇
「湊斗、うまい?」
「うめぇっす」
「ドンドン食べて。たくさんある。全部琴葉のおススメ」
根上に勧められるがまま、俺はメシをごちそうになる。
ちなみに言っておくと、これは根上が作ったワケじゃなく、根上がウーバーで頼んだモンだ。
あの流れでお前が作るんじゃないのかよと思ったが、これが根上なりの感謝の気持ちなんだろう。
自作なのかウーバーなのか、なんてのはどーでもいいことだ。
うん、やっぱうめぇ。
そうして、俺が口に入れたメシの美味しさを実感していると……。
「はぁーあ。にしても今日は運が悪かったな。まさかあんなのとバッタリ会っちまうなんて」
ラフな格好に着替えた星名が現れ、近くにあったソファに脱力するように座った。
「さっきの奴、星名さんと同じ中学みたいでしたね」
そんな星名を見て、俺はそう尋ねた。興味本位ってやつだ。
「あぁ。全然覚えてねぇけど」
「はは……。あ、あとアレですね。メチャクチャ強かったですね星名さん」
「まぁなー」
なんてことないように、口にポッキーを加えながら星名は答える。
「なんか格闘技とかやってました?」
「いんや? 力はもともと男より強かったし……あー、でも中学までは不良とケンカばっかしてたな」
「さ、さいですか……」
え、なに? なんで一昔前の不良漫画みてぇな経歴してんのこの女?
サラッと放たれる星名の爆弾に発言に背筋が凍る。
なんとかそれを表に出さないようにしながら、俺は言葉を続けた。
「で、でもそれじゃあなんでウチの高校に入ったんですか?」
俺たちの通う私立
が、それでもヤンキーみたいな生徒は数えるほどしかおらず、ガチの不良高には遠く及ばない。
「別にケンカすんのが好きってワケじゃなかったからな。突っかかって来た奴をブッ飛ばしてただけだし。そーいうの無さそうでウチが入れそうなトコ選んだって感じ。あと……」
そこまで言って、星名は突然口をつぐんだ。
「あと?」
俺は思わず聞き返すが、
「……なんでもねぇ」
そう言ってはぐらかされてた。
なんだろうか、言いたくないって感じだ。
「あ、そーだミナト。上はウチのパーカーとか貸せっけど下はサイズ的にムリだからよぉ、このあと近くのドンキで買い行くぞ」
「え?」
そして気付けば、俺はサラッと泊まることになっていた。
◇◇◇
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