大会議室のアナウンサー:2
「さぁ、準備が整ったようですね。いよいよ決勝戦が始まります! ではここで、簡単にルール説明を行いましょう」
牛飼のアナウンスと同時に壁に掛かった液晶モニタに、ルール説明用のアニメーションが軽快な音楽とともに流れ始めた。
「ルールは簡単。六十分一本勝負! お互い持っているカードを出して技を召還します。直接攻撃する攻撃技のほか、味方に対して、攻撃力を上げるカードなどもあります。それらを駆使しトークバトルを繰り広げます。若松・水川ペアの提案企画が通ったら、彼女たちの勝ち。反対に提案が却下されたらボスたちの勝利となります。試合はフリーセッション制! 攻撃を仕掛けただけ有利になりますので、どんどん技を召還して相手にダメージを与えてください! さぁ! それではいよいよ開催です!」
液晶モニタに「試合開始!」と大きな文字でテロップが表示され、決戦が始まった。
「では、WEBサイトのリニューアルプロジェクトに関して、私、水川が説明させていただきます。前方のスクリーンをご覧ください」
スクリーンには提案資料のタイトルが映し出された。大会議室にいる全員がスクリーンを見る。
「まずはじめに、WEBサイトをリニューアルすることによってのメリットをひとつ、お伝えします。それはサイトへのアクセス数が今の倍になる見込みがあります。その理由とその他のメリットについては後ほどお話します」
すると、水川のノートパソコンの横が突然光り出した。大きさは名刺サイズほどで、その外枠が光っている。やがて内側も光り出し、その光の中から人物が姿を現した。
「おおっと! 水川選手! さっそくカードを出してきましたね。さて何を繰り出したのか!」
光の中では、小さな水川がジグソーパズルをしている。小さな水川はなぜか魔法使いのような格好だ。ジグソーパズルのピース数は多くなく、3×3の9ピースのパズルで、リアルなライオンのイラストが描かれている。パズルはほとんど完成していて、残り2ピース嵌めるだけの状態である。
「水川選手、パズルをしていますね」
小さな魔法使い水川は、また一つピースを嵌め、残り一つ、ライオンの顔部分にピースを嵌めればパズルの完成だ。
だがしかし、小さな魔法使い水川はその段階で光の中に消えて行ってしまった。
「おおっと? どういうことでしょう? もう完成間近のパズルを放棄してしまったぞ! これは一体?」
「これは『ツァイガルニク』というカードですね」
「ツァ……? 初めて聞くカードですね。甲斐さん、解説をお願いします」
「ええ。これは簡単に言うと続きが気になる状態をキープしておくことが出来る魔法技です」
「魔法技! 水川選手、先制攻撃は魔法技だぁー!!」
牛飼と甲斐の後ろにある液晶モニタには、顔ハメパネルのような状態になっているライオンのジグソーパズルが映され、テロップで「魔法技『ツァイガルニク』」と表示された。
「テレビなどで「続きはCMの後」とするのと同じですね。未完の状態で止めてしまうと、その続きが気になって仕方なくなる、という効果があります。水川選手はWEBサイトのメリットをひとつだけこのタイミングで伝えつつも、その理由と他のメリットを後回しにしました。これがまさに『ツァイガルニク』の攻撃技です」
ジグソーパズルのライオンがパズル平面から起き上がり立体的になった。顔部分はもちろんない。
そしてそのままボス側に向かって大きな雄叫びをあげた。
「おおっと! ライオンが吠えた! 召喚魔法だ! ボス勢三人スクリーンに食い入るように見ているぞ! 攻撃が効いたのか!? 『ツァイガルニク』恐るべし!」
水川は現状のWEBサイトの問題点を話し始めた。
「伊達さん。WEBサイトを見ているときこんなことを感じたことありませんか?」
するとまた、水川のノートパソコンの横でカードが現れ光り出した。
「おおっと! 立て続けにカードを出したぞ! 次は何でしょう?」
カードから現れたのはバーテンダー姿の小さな水川だ。手にはフルーツの乗った美味しそうなカクテルを持っている。カクテルを伊達の方に向かって差し出した。
「あぁ。これは『カクテルパーティー』ですね。デーモン伊達にロックオンしましたね」
「甲斐さん、これはどういうカードですか?」
「固定ダメージ系の毒属性カードです。ロックオンされた相手に一定ダメージを与えることが出来ますね」
液晶モニタには「毒属性『カクテルパーティー』」と表示された。
「飲み会やパーティなどのような喧噪の中でも、自分の名前を呼ばれると、聞き取れることってありませんか? 自分に関係する情報だと思うと自然に耳を澄ますわけですね。水川選手は話し始めに「伊達さん」と声を掛けました。これが『カクテルパーティー』の攻撃ですね」
「なるほど! それはすごい!」
「例えば『文字が小さくて読みにくい』、『もっとイラストや写真があったらいいのに』、『スマホでも見たい』などです」
水川はWEBサイトを見るときに感じる不満点をいくつか挙げた。すると『カクテルパーティー』のカードの横にさらにもう一枚カードが現れ光り出した。
「おぉ! 水川選手! まさかの三枚連続出しだー!」
光から現れたのは占い師の格好をした小さな水川で、目の前の水晶玉に両手をかざしている。
「ははぁん。これは『バーナム』魔法ですね! 甲斐さん」
「そうですね。『カクテルパーティー』と『バーナム』のセット技ですね」
「これは、より多くの人が当てはまりそうなことをあたかもその人だけが当てはまるような言い方をする手法ですね。占い師が「あなたは今、悩みがありますね?」と問いかけるのもそういった効果ですよね。「スマホでも見たい」なんてもはや誰でも思うことですもんね」
牛飼が『バーナム』について解説した。
「そうです。『カクテルパーティ』によってデーモン伊達をロックオン、そしてデーモン伊達に当てはまりそうなことを『バーナム』で追攻撃。実に素晴らしい」
「さぁ、デーモン伊達、ダメージは大きいか!?」
そのまま水川が一通り説明し一区切りつくと、伊達が話し出した。
「まあ、確かにそう思うこともある。でも今のサイトでも十分出来てると思うけどな。だって、文字サイズなんかはユーザー側で選べるようになってるじゃん。しかもどうせ、リニューアルする費用も高いんだろうし」
伊達のテーブルで名刺サイズのカードが光り出した。
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