大会議室のアナウンサー:3

「デーモン伊達の反撃だ! しかも二枚同時に光り出しているぞ!」

 一枚目から現れたのは野球選手の格好をした小さな伊達だ。ヘルメットには「YES」と言う文字が重なり合っているチームロゴが描かれており、バッドを持っている。

 そして二枚目のカードには小さな伊達が3Dポリゴンで出現し、カクカクした動きをしている。

「これは『イエスバット』と『3D』の複合技ですね。『3D』は厄介でしょう」

「どういうことでしょう? 甲斐さん」

 甲斐の解説によると、『イエスバット』とは、相手の意見に対して一度「YES」と受け入れつつも、その後に「BUT」と反対意見を言うことで、反発心を減らしながら意見を通す攻撃技だそうだ。

 そして『3D』とは「でも、だって、どうせ」の三つの否定的な「D」を表すことで、相手の思考をネガティブにする毒属性カードだという。

 3Dポリゴンの小さな伊達が、横にいる野球選手の格好をした小さな伊達に向かって、まるでノックの練習をするかのようにボールを投げ入れた。野球選手の伊達が思いっきりバッドを振りボールを飛ばす。それを三連打してきた。

 打たれたボールは水川のカードの方に向かって飛んでいく。そして、その一つがカクテルを持った小さな水川に当たりカードが消滅した。立て続けに今度は占い師の小さな水川にも当たり、カードが消滅。そして終いには顔なしライオンにも当たりカードが消滅してしまった。

「でた! 『カード破りのデーモン伊達』の必殺技!「でもだって」攻撃だ!」

「割と早い段階で出してきましたねぇ。これをやられると建設的な会話が出来なくなるのですよねぇ」と甲斐の解説。

「なんということだ! これで水川側のカードがゼロになってしまったぞ!」

 するとそこで今度は長巻のテーブルが名刺サイズ上に光り出した。

「僕も今のままで十分見やすいと思うけどなァ。費用だって今、うちの経営状態はそんなに良くないですし、そこまで掛けられないですよねェ」

 光の中から小さな長巻が出てきて、「うんうん」と頷いている。さらに同じカードが二枚、三枚、四枚と多数出てきて全員が「うんうん」と頷いている。

「スネーク長巻だ! ここでスネーク長巻も攻撃を仕掛けたぞ!」

「そうですねぇ。これは『同調圧力』ですね。孤立したくない思いから周りの意見に合わせる攻撃技です。しかも数が多ければ多いほど圧力は大きくなりますね。スネーク長巻はカードのコピー技を使い『同調圧力』カードを増やしていますね」

 カードは最終的に十枚以上コピーされ、小さな長巻が「うんうん」頷いている。

「これは非常に厄介だー! 頷き声も煩わしいぞ!」

「スネーク長巻の得意技。「長いものには巻かれろ」ですね。デーモン伊達に完全に同調しています」

「水川選手! 言葉が出ないぞ。これはかなりのダメージだ!」

「一旦、説明を最後までした方が有利だと思いますが、このまま進めても否定されると思うと、何か納得する答えを先に言っておかないと、なかなか先に進めないのでしょうね。さあ、どう出るんでしょうね」

 牛飼と甲斐の後ろの液晶モニタには「LIVE」と表示され、水川の黙り込む顔が大写しになる。

 しばらくの間、時が止まったように気まずい空気が流れる。

 すると、加藤がゴホンと席をして、長巻に向かって微笑んだ。

 それを見た長巻は、姿勢を正し焦ったように話し出した。

「ま、まァ、あくまで一意見だから気にしないで。水川さん、先進めましょうか」

 長巻がそう言うと、伊達の『イエスバット』と『3D』カードと、数十枚出ていた長巻の『同調圧力』のカードが全て消滅した。

「は、はい。では続けさせていただきます」

 水川が提案書の続きを話し出す。

「おおっと! これはどういうことだ? 微笑み加藤が何かカードを出したのか? それともスネーク長巻がカードを出したのか? しかしよく見えなかったぞ。甲斐さん、何か分かりますか?」

「んー。ちょっと私も分かりませんでした」

「そうですか。ではリプレイしてみましょう」

 牛飼と甲斐の後ろにある液晶モニタの左上に「REPLAY」と表示され、画像がコマ送りで動く。

「さぁ見てみましょう。微笑み加藤が咳払いをします……、あ、ここです! ここ! おや、カードが出ていますね」

「一瞬の出来事ですね」

「さらにコマ送りしてみましょう――、これは……書道家ですね、はい」

 そこには書道家の格好をした小さな加藤がいた。

「何やら文字を書いていますね――。これはなんと書いたのでしょう。ズームしてみましょう」

 液晶モニタには柔らかな文字で『拈華微笑ねんげみしょう』と書かれていた。

「あぁ。これは『拈華微笑』カードですね」

 コマ送りされたリプレイ画面を見ると、無数の蓮の花が加藤の『拈華微笑』カードから吹き出して、そのまま両端にあった伊達と長巻のカードの上を通過して全てを消滅させていた。

 甲斐の説明によると、『拈華微笑』とは、言葉を用いずに思いを伝えることが出来ると言う意味の四字熟語だそうだ。

「さすが『四字熟語使いの微笑み加藤』!」

「これは『同調圧力』よりも強い無言の圧力、と言ったところでしょうか」

「まさか味方チームのカードを消し去るなんて! これは面白くなってきましたね!」

 水川はそのまま準備してきた提案資料に沿ってWEBサイトのリニューアル計画を一通り説明した。



「あれから双方目立った攻撃を仕掛けずに水川選手の説明が終わりましたね」

 牛飼が渋い顔をしながら黒縁眼鏡の位置を直す。

「そうですねぇ。すでに試合開始から四十分経過していますからね。若松・水川ペアとしてこのまま勝ち点を得たいところでしょうし、デーモン伊達としてはこの提案書の抜け漏れを突くタイミングに差し掛かったと言えるでしょう」

「スネーク長巻と微笑み加藤の動向はいかがでしょうか?」

「スネーク長巻はゴマすりが上手いですからねぇ。出したカードの威力を倍にする可能性が秘めていますね」

「やはり厄介ですね。スネーク長巻」

「えぇ。まあ、彼は前戦でも戦っていますから、若松・水川ペアも弱点は研究しているでしょう。微笑み加藤は未知数ですね。味方になってくれるのか、ボスとして戦うのか」


「――以上がWEBサイトリニューアルの計画となります。この後費用面について説明いたしますが、一旦ここで何か質問はございますか?」

 水川が質問を受け付けた途端、長巻が身を乗り出して「じゃア、僕から」と話し出した。

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