大会議室のアナウンサー
大会議室のアナウンサー:1
「さぁ、いよいよ始まりました。カードバトル頂上決戦! 今回は待ちに待った決勝戦となります。最後までお楽しみください! 実況は私、
「はい、こんにちは」
「今日の戦いはどのように考えていますか?」
「そうですね、いよいよ決勝戦ですからね。すごく楽しみにしてきましたよ」
「そうですか、楽しみですね。それではよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願いします」
牛飼と甲斐は、銀色の四角いマイクを前に実況を始めた。場所はとある会社の大会議室である。会議室にはロの字型に長テーブルが配置されており、二人は会議室の入口を背にした場所に小ぢんまりと座っている。黒縁眼鏡で髪をきっちり七三に分けているビジネススーツ姿の男が牛飼勤、白髪混じりでカジュアルなジャケットを着ている男が甲斐節夫である。
入口からみて右側、つまり上座側のテーブルには既に一人、席に着いている。入り口からみて左側の下座側には対面するように二人が着席している。
「さあ、どうですかね。
「水川選手は本番に強いですからね。今日も勝てると思いますよ」
「しかし、今日のボスは強敵ですからね」
「確かに『カード破りのデーモン伊達』との異名を持つボスですからね。なかなか強敵かもしれません」
「ではやはり敗戦の可能性も?」
「大丈夫。彼女なら大丈夫ですよ。それに今回は
「そうですか。では、若松選手・水川選手の活躍に期待しましょう」
牛飼と甲斐が試合前のトークをしていると、ドアがノックされた。
「おっと。動きがありましたね」
対面の男がドアに向かって歩き出す。
「両選手も立ち上がりましたね」
男がドアを開けると二人が軽く挨拶をして会議室に入ってきた。
「おおっ! ボスの登場だ!」
牛飼が大げさに実況する。
「威厳が違いますねぇ」甲斐も感想を漏らす。
「お待ちしておりました。こちらです」
男が席に案内すると、若松と水川と対面するような形で、前に座った。
「若松課長、水川さん、準備して」男が若松に指示を出した。
「はい」若松は返事をすると席を立ち、プロジェクターの準備を始めた。
水川もノートパソコンを開き準備を始める。
男はやってきたボスたちと談笑を始めている。
「さあ、それでは対戦までまだ少し時間がありますので、ここで改めてボスたちを紹介しておきましょう」
「そうですね。今日のコンディションもこの談笑で分かりそうですしね」
「まずはナガマキ・エーギョー・トーカツ・ホンブ・チョー!」
牛飼が大声で名前を呼ぶと、天井から赤や黄といったカラフルなライトが不規則に動きながら一人を照らした。
水川、若松と一緒に大会議室にはじめからいた男で、入り口から見て右側の席の一番手前に座っている。
ライトに照らされているが、ナガマキは動じず、ほかの二人と談笑を続けている。
牛飼と甲斐の背面の壁には大型の液晶モニタが備え付けられており、そこにはライトに当てられたナガマキが映されており、画面左上には「LIVE」と表示されている。さらに画面下には「ナガマキ・エーギョー・トーカツ・ホンブ・チョー」とスポーツ番組の選手紹介のようにテロップが表示されている。
「彼はどのようなボスでしょうか?」牛飼が甲斐に解説を促す。
「そうですねぇ。彼は『スネーク長巻』と呼ばれており、敵に対して非常にねちっこい攻撃技を仕掛け、上司に対してはとにかくごまをするヒーリング魔法を使いますね」
スネークという名前の割には、アメフトでもやっていたかのように肩幅が広く、大柄でどっしりとした体格だ。丸顔で一見優しそうに見えるのだが、粘着質な性格である。歳は五十代半ばといったところだ。
「なかなか厄介そうな相手ですね」
「そうですね。彼は手持ちカードをうまく使って、エーギョー・ブチョーから、エーギョー・トーカツ・ホンブ・チョーに今年、レベルを上げましたからね。手強いでしょうね」
「なるほど。今日のコンディションはどうでしょうか?」
「今日はそこまで力を出してこないと思いますよ」
「と言うと?」
「今日は彼のほかにボスが二人もいますからね。致命傷を与えるような攻撃技は彼らがしてくれますから。気は楽なんじゃないでしょうか」
「なるほど。確かに前回の試合では、若松選手、水川選手の二名に対して、ひとりで戦ってましたね。前回は引き分けでしたが、その結果が影響したりしますか?」
「そうでしたね。前回の試合は長期戦にもつれ込み、結果はドローでした。ただ、決勝戦へ進んだことを考えると若松・水川ペアの勝ちと判定出来ます。スネーク長巻は前戦でかなり納得いってなかったようにも見えましたから、ここで反撃してくる可能性は確かに十分にありますね」
「それは注意しないとですね。さあ、それでは次のボスを紹介しましょう! 次はカトー・シャチョ・サン!」
今度は真ん中の男性にライトが降り注がれ、液晶モニタにも名前が表示された。長巻の右隣である。
「カトー・シャチョ・サンはどのようなボスでしょうか、甲斐さん」
「そうですぇ。彼は『四字熟語使いの微笑み加藤』と呼ばれており、ボスにしては温厚なタイプです」
「ほほう。ということは勝機ありと考えても?」
「えぇ。微笑み加藤は、対戦相手のことを考えるタイプで、時には負け試合と分かっていても「まずはやってみよう」と対戦相手側に立ってくることもありますからね。ただ頭が冴えるボスなので、その行動は予測不能です」
「なるほど。突然大技が出ることもありそうですね。では最後のひとりを紹介しましょう! 『カード破りのデーモン伊達』ことシャガイ・トリシマリヤク・ダテー!」
伊達にライトが照らされる。入り口からみて右側、上座の一番奥の席に座っている。
「デーモン伊達はどんなボスなのでしょうか? 甲斐さん」
「彼はかなりの強敵ですねぇ。『カード破り』の異名の通り、こちら側が出してきたカードを見事にカットしてきますね。その否定技は、まさしく彼のポジションにふさわしい」
「どうですか、若松・水川ペアに勝ち目はありますか?」
「それはもちろん。大丈夫。自身を信じればもちろん勝ち目はありますよ」
「そうですね。彼女たちには自信を持ってもらいたいですね!」
入り口からみて右側の席には、手前から、長巻、加藤、そして一番奥には伊達が座っている。
牛飼と甲斐がいる実況席に一番近いのは長巻である。彼らの対面には、奥に若松、実況席側に水川が座っている。
「じゃあそろそろ始めようかね」
長巻が現場を取り仕切った。さっきまで談笑していた三人が身体をこちらに向き直した。
プロジェクターの準備をしていた若松も席に戻る。
「じゃあ若松課長、後はよろしく」
長巻は若松に進行を任せた。
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