第3話おやおや…

 おっさんは、目を覚ます。いつの間にかあたりは暗く既に夜のようだ。随分と寝こけていたなぁ。と少しぼんやりとした頭で考えていた。

 体を起こすと、ゴンっと何かが頭に当たる。触るとゴリゴリとした手触りだ。なぜなら彼は天井スレスレにいるのだ。もう少し間があればもっと勢いがついて頭が危なかったかもしれない。たんこぶではすまないだろう。

 彼は徐ろに何かを口ずさむと小さな灯りを灯した。どうやら建物内であろうことを確認すると、下を向く。

 

 女性が寝ていた。気持ちよさそうに柔らかな布団に収まっている。中々の美人さんである事を確認すると寝ている彼女の足元の方へ行くとゴロンと寝っ転がった。大き目な寝具の為かかなり余裕があり寝心地も良かった。何か良い香りもする。いたずら心を出したがまだ少し眠気を感じていおっさんは、そのまま目を閉じて眠りにつこうとする。

 しかし、女性の僅かな身動ぎと薄っすらと開いた目が、何かを探している事に、気がつく。

 何かに異変を感じたのか定かではないが非常に危険な案件だ。見知らぬ女性の寝所で足元にはおっさん…

 見つかってはどうにも言い訳など出来ない。


 おっさんは、ゴロンと寝っ転がった自分を呪った。静かに寝っ転がればよかったのだ。迂闊。ならば見つからないように息を殺して静かに、微動だにせずこの場をやり過ごすのみ。


 違う、違うのだ。そもそも女性の布団に寝ようとしていた事が間違いなのだ。そんな事はしてはいけないし、明るい内でそれなりの知り合いならば冗談めかしに行けたかもしれない。だが顔も知らなければ縁者でもない。見知らぬ誰かで、夜中、布団の上、おっさん…


 


 が、おっさんは、勝負に勝った。


 女性は、また寝息を立て始めたのだ。


 じーと女性の方を見ながら動かざること数十分… 完全に寝入った事を確認するとおっさんは、体の力を抜く。彼はやりきった。乗り切ったのだこの危機を。弛緩した体を投げ出すとはぁ〜と息を吐き出す。ここ最近で一番の緊張だったかもしれない。ぐで〜と体は布団に沈み込む。柔らかで良い香りのするここはおっさんにとって天国の様なものだった。


 


 おっさんも気づけば寝息を立てていた。



 おやおや…


 おっさんは、勝負には勝ったが試合には負けていた。

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