第2話女はあたふたする
その日その時まで、その女性は慎ましく生きていた。
子供のときはお転婆だったであろう女性で、10歳の頃事故で動かなくなった足、そのせいで周りに気を使われ、気を使わせてしまっている事に、気をもんでいた。お転婆は鳴りを潜め、でも、明るく振る舞っていた。しかし偶に陰鬱になってしまうのも人の性。
その日は、仲の良い侍女に少しあたってしまい。自己嫌悪になっていた。何時も周りの事をしてくれる侍女で、気心もしれている。なので、そんな事も初めてではないので、少し時を置けば仲直りできる。
そんな誰にでもありそうな一日、開け放たれた窓からおっさんがゆっくりと風に揺られてやってきたのだ。見たことのない光景に声を発する事もできずに唯その行末を見守った。天井まである大きめの窓の為、本当に天井スレスレを進んで、そのまま向いの壁で止まった。
人って空を飛べるんだ。
そんな事を思って居ると、部屋の扉をノックする音が聞こえて、侍女が入ってきた。我に返って何か言おうとするが、あわあわと何を言ったらいいのか考えが纏まらなかった。侍女は何やら慌てている女性に、お待ち下さいと一声かけるとお茶の準備をして差し出してきた。そうして結局一服する。そのお陰だろうか、落ち着いて考えを巡らせ
「ねぇ。人って空を飛べる?」
聞かれた侍女は静かに答える。飛べるといいですねぇ楽しそうです。こんな天気の良い日は、更にそう思いますよと、呑気に返した。女性もそうよねと、あれやこれや話す。1時間は話していただろうか、侍女はそろそろ風が冷え始めるからと窓を閉じてしまった。そうして用事を思い出して部屋を出ていった。
おっさんを残して。
女性は考える。
自分の頭がおかしくなったのだろうかと、だが今だにそれはそこに浮かんではいるのだ。そうなると確認するしかなくなる訳で、ならば後は手段になる。
あ〜、もしもし…
あ〜の〜
少し声を張るが応答はなかった。大声を出そうかとも思ったが、女性の部屋に見知らぬ男性が居るのはそれだけで醜聞となる。大事になってしまいかねない。つい自分や周りの事も考えてしまい手が出せないでいたのだ。なまじ、一旦考える余地があると余計にだ。
ここ何年か忘れていたワクワク感と怖いもの満たさの間の子の様な気持ち。
何か棒のようなものでつついて見るのもよいかもしれない。自衛にもなるしね。しかし通常部屋に棒のような何かがしれっと置いてある家は少ない。無論、部屋を見渡すがなかった。ちょっとしょんぼりしてしまう女性。
そうして悩んでいる間に、食事の時間となった。名残惜しくもあり、結局答えも出ぬままに、部屋をあとにした。食事の間に、いつの間にか気にする事もなくなっていた。お腹が膨れたからだろう。食後の一時の団らんのあと、女性はいつも通りお風呂に入った。足の不自由な事もあり、一番に入るのが常だった。どうしても他の人より時間が掛かってしまうからだ。そうしていつも通りの時間を過して床についた。
そういつも通りに
───────
────
───
女性は瞑っていた目を開ける。天井を見渡すが誰もいない。独り納得して眠りにつく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます