第四章:アルストロメリア
私はあの日、自殺をしようとしていた。その日の前日に両親が亡くなり、私の幸せは一瞬にして崩れ落ちた。
もういっそ死んだ方が楽だと思った。
だから絶対に落ちたら死ぬであろう近くの崖に来ていた。
誰にも見られずに死のうと思っていたのに制服を着た男子高校生が来てしまった。
彼は私を一瞬見たが直ぐに読書をし始めた。
彼は私の好きなタイプドストライクの見た目をしていた。
彼は綺麗な黒髪をしており、爽やかな雰囲気をしている。
遠目からでも分かる程顔は整っており、細身であるということが分かった。
そんなことを思っていると彼に話しかけられた。
まず私は彼の名前を聞くことにした。彼の名前は清水君と言うらしい。
そして彼は私に自殺するのかと質問してきた。
私は素直に頷いた。どうせ嘘をついても直ぐに目の前で死ぬのだから。
そんな私に彼はこの崖で死ぬなと怒ってきた。彼は私の自殺を止める気なの?
そんなことはさせない。どんな思いでここまで来たか彼には分からないからそんなことが言えるのだ。
でもそうなるとどこで死ねと? ここ以外で迷惑を最小限に抑えて死ぬ場所があると?
そんなことを考えていると腹が立ってきた。このまま言い争いを続けていると本格的に止められてしまいそうだ。
――そう思った私は崖から飛び降りた。
しかし彼に手を掴まれて引き上げられた挙句、拘束されてしまった。
抵抗しても流石男子高校生というべきか意味がなかった。
細身であるのに意外と筋肉がある。まさかの細マッチョであった。
その後逃げないという約束をし拘束を解いてもらった。
逃げたら警察を呼ばれてしまう為彼の言うことに従う。
自己紹介や世間話を交わした後、なぜ自殺しようとしたのか質問された。
私は誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。溢れ出るように話してしまった。
彼は相槌を打ちながら何も言わず聞いてくれる。話しやすくしてくれているのだろう。
そして話終わった頃には堪えていた涙が溢れそうになっていた。
そんな私に泣いても良いと言ってくれ、私のお願いを聞いてくれた。
優しく抱きしめて頭を撫でてくれる。私は彼の腕の中で大泣きしてしまった。
お父さんのように優しくて暖かく、包み込むように抱きしめてくれる。
泣き終わる頃には彼が着ていた服は私の涙で濡れていた。
申し訳ない。謝ると彼はニコニコしながら許してくれた。
なんて心の広い人なのだろうか。性格まで良いとか完璧人間かなと思う。
こんな人、もう二度と出会えないだろう。私はもう彼に一目惚れしてしまった。
初めはいらないことをされたと思った。けど、気付いてしまった。彼が私の運命の人なのではないかと。
そう考えるには理由がある。なぜなら彼と出会うタイミングが良すぎると思うからだ。
きっと両親と神様はまだ私に生きて欲しいというメッセージとして彼と出会わせたのだろう。
両親が亡くなってしまったことはとても辛くて悲しい。
しかし、ここまでされて自殺する気にはなれない。
彼に私を好きになってもらおう。
そう意気込んで私達は別れたのだが、一つ重要なことを忘れていた。
彼の名前以外知らないのだ。連絡先などを聞くのを忘れていた。
しかし、本当に運命の相手であるなら、再開できると信じることににした。
――その後本当に再開出来たのだ。これは間違いなく運命だと感じた。
再会はなぜかアルバイト面接時であったのだが。
どうやら彼は今回の面接官らしい。
気になった私は質問してみることにした。
すると驚いたことに、アルバイト希望先であるこのカフェは、彼の母親の会社が経営しているらしい。
そして彼はその会社の副社長であり、社会勉強として面接官をしに来たそうだ。
このカフェの経営をしているということは、世界的に超有名会社だ。
その会社の副社長ということは、只者ではないということだ。
初対面の時、私タメ口で喋ってたよね……いくら知らなかったとはいえ失礼過ぎた。
取り返しがつかないことをしてしまったと反省する。
その後なんとか面接も終わり、後日合格の通知が来た。
まさか合格になるとは思いもしなかった。つい嬉しくて思わず飛び跳ねてしまった。
見間違いではないか再度確認するがしっかり合格と書いてある。良かった……。
これで彼との距離が縮まれば良いなと期待をする。
出勤しだして数日後、清水君が私に会いに来てくれた。そしてディナーに誘ってくれた。
場所は世界的にも超有名な超高級ホテルにあるステーキハウスだった。
このホテルは会員制であるため一般人は入れない。
彼はなぜここに入れるのだろうか。
気になった私は質問してみることにした。
どうやら彼の父親の会社が経営するホテルだそうだ。やはり彼は只者ではない。
値段を見ると一般人には手を出せない価格の品物ばかりで驚く。
しかし、値段相応というべきか。どれも美味しく思わずにやけてしまう。
その後は彼とのディナーを楽しんだ。
奢ってもらったのでお礼を言い、連絡先を交換して解散となった。
今回のディナーで清水君との心の距離が少し縮んだ気がする。
――翌日の登校中、偶然清水君を見つけ声をかけた。
彼は私に先に気付いていたみたいだが声をかけにくかったそうだ。
その後彼と途中まで一緒に行くこととなった。
私は緊張で心臓が破裂しそうだった。まるでこれは登校デートだ。
彼はそうは思っていなさそうだけど。
私は彼のことを副社長と呼んでいたが、彼はプライベートでは恥ずかしいのか違う呼び方をお願いしてきた。
なので、私は彼を蒼君と呼ぶことにした。
そして私も澪と呼んで欲しいとお願いし、お互い下の名前で呼び合うこととなった。
今日もまた蒼君との心の距離が少し縮んだ気がする。
放課後、清水君は私の出勤する日は必ずカフェに来てくれた。
彼はダージリンという紅茶が好きらしい。
茶葉などには詳しくない私でも、世界三代紅茶の一つであるということは知っている。
どんな味がするのだろうか。今度飲んでみよう。
そう思いながら彼と同じ空間で仕事を頑張るのだった。
今度彼とお茶でも誘って、蒼君の好みなどを知ろう。そう心に決めるのだった。
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