第三章:アイリス

 会議が終わり合格したことを池田さんのメールへ送信する。

働き始めるのは数日後からだそうだ。

 ――池田さんが出勤し始めた数日後、僕は彼女の様子を見にい行くことにした。

定時少し前にカフェに到着し、彼女を見つける。

「池田さん、こんばんは。調子はどうですか?」

「清水副社長! お疲れ様です! 調子は良いですよ!」

「それは良かったです。この後一緒にディナーに行きません?」

「え、良いんですか⁉︎」

「勿論です。何か食べたいものでもありますか? 僕の奢りなのでなんでも言って下さい」

「じゃあステーキが食べたいです!」

「ふふっ、良いですよ。では裏口で待っていますね」

「有難う御座います!」

「ではまた後で」

そう言って池田さんと別れるのだった。

 その後彼女と近くにある父の経営しているうちの一つであるホテルのステーキハウスへと向かった。

「好きなものを頼んでもらって構いませんよ」

彼女は値段を見て驚いていた。こういう店に慣れている自分からすると普通なのだが。

「じゃあこれを……」

彼女はおすすめと書かれたものを指差した。

「飲み物も頼んでもらって結構ですよ?」

「いえ、お水で結構です!」

「そうですか」

僕は店員を呼び彼女と同じものを頼んだ。

「同じものを頼まなくても良かったんですよ?」

「いえ、同じものを食べたい気分だったので」

 その後は彼女とのディナーを楽しんだ。

彼女は目の前の鉄板で作っていく様子を見て目を輝かせていた。

そして終始おいしいと言っていた。

 食べ終わる頃にはもう遅い時間であった為解散となった。

「今日はご馳走様でした! 美味しかったです!」

「それは良かったです。また一緒にディナーしませんか?」

「是非是非! 宜しくお願いします!あ、連絡先交換しておきまらせんか?」

「あ、そうですね!」

 そうして連絡先を交換した後、彼女を近くの駅まで見送り僕も家に帰るのだった。

 ――家に帰ると詩が拗ねて待っていた。今日は一緒に晩御飯を食べられなくて拗ねているのだと思う。

一緒に行きたいと言われたのだが池田さんと食べようと思っていたので断ったのだ。

「おかえり、アオ君!」

「ただいま」

「アオ君! 寂しかった!」

「はいはい、ごめんね」

やっぱり、いつも通りの理由だと思ったよ。

「アオ君! んっ!」

そういっていつも通りハグを求めてくる。

「はいはい」

そう言って抱きしめてあげると彼女は微笑むのだった。まったく、可愛いな。

その様子を彼女の両親に間近で見られているのだが、もう慣れたものだ。

「じゃあアオ君、寝る準備してね!」

「分かったよ」

「一緒にお風呂入る?」

「入らない!」

「アオ君のケチ~! 小さい頃はよく一緒に入ってたのに~!」

「それはまだ何も分かってなかったから!」

彼女の怖いところは本気で言っていることである。この子、他でそんなこと言ってないだろうか……心配である。

 ――翌朝いつも通り詩に起こされ学校へと向かう。

登校中、偶然池田さんを見つけ声をかけようか悩んでいた。

すると彼女は僕に気がついたみたいで声をかけてくれた。

「清水副社長! おはよう御座います!」

「おはよう御座います。あの、プライベートでは普通に接してもらえませんか?」

「分かった! じゃあ、蒼君って呼んでも良い?」

「良いですよ」

「私は澪って呼んで!」

「澪さんですね」

「うん! あと蒼君、私も普通に接して欲しいな~」

「普通に接していると思いますが」

「それ! 敬語! タメ口で話そ!」

「うん、分かった」

「うんうん! 良いね!」

 そんなことを話しているともうお別れの時間だ。

澪さんと話していると心が温かくなるそして、時間が直ぐに経ってしまう。

 その時僕は気が付いた。彼女のことが好きなのだと。

 ――放課後僕は澪さんが働いている時間に合わせてカフェへと向かった。

今日から彼女に会う為に、彼女が働く時間に出来るだけ通おうと思ったからだ。

  カフェに着くと澪さんが迎えてくれた。

「副社長! お疲れ様です! 今日はどういったご用件ですか?」

君に会いに来た、なんて言えないしな。

「普通にここでゆっくりしようと思って」

「そうなんですね! お一人様でよろしいですか?」

「はい」

「お席の希望は御座いますか?」

「じゃあカウンターでお願いできますか?」

「かしこまりました。それではご案内致します」

 席について早速注文する。

僕は好きな紅茶であるダージリンを頼んだ。

ここのマスターは何を淹れても美味しい。

 少し待っていると澪さんが運んできてくれた。

「お待たせ致しました。ダージリンです」

「有難う御座います」

「ごゆっくりお過ごし下さい。失礼します」

 そう言って彼女は去っていった。

彼女は非常に気遣いが上手く、働き者だ。本当に雇って良かったなと思う。

 ――あまり長居しても迷惑なので一時間ほどで帰った。

 翌日からも同じように通った。その度に彼女に惹かれていく。

しかし、この思いはまだ伝えるべきではない。きっと困惑してしまうだろう。

彼女は今、僕に理解できないほどのショックを感じているはずだ。

しかし、そんな雰囲気を感じ取らせないように振る舞っている。

本当は泣き叫びたいだろう。自殺まで考えていたくらいなのだから。

 この思いはいつ伝えられるのだろうか……その時まで待つとしよう。

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