第二章:サネカズラ

 僕の両親は二人とも大企業の社長をしており、一般的にみて非常に裕福な三人家族の家庭だ。

そして、何不自由ない幸せな生活をさせてもらっている。

お父さんもお母さんも一人っ子の僕を非常に可愛がってくれ、本当にいい家庭だなとつくづく思う。

この幸せはいつ崩れるか分からない。あれから数日たったのだが、池田さんが言っていた言葉が時々フラッシュバックする。

ここ数日、僕はいつも通りの毎日が崩れてしまった時、どういう行動をとるかについて考えている。

しかし、この問題には様々な選択肢があるので最適解を出すのは非常に難しい。まさに難問だ。

 この難問を解いていると、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。

「ご主人様! 聞いていますか!」

そんな声で目が覚めた。どうやら呼ばれていたようだ。

「失礼します!」

誰かが僕の部屋の扉を四回ノックし、返事を待たずにズカズカと入り込んできた。まるで借金取りかのように。

「僕の家系ってヤから始まる家系だったっけ?」

「どうして私を見てそんな事を言うんですかね~?」

凄い殺気が全身から溢れ出ている。どうやら失言してしまったようだ。

「……すいません」

「はぁ、仕方がないですね……。ご主人様、お食事の準備ができました」

先ほどの殺気はなんだったんだ、と考えたくなるほど切り替えが早いな。

「……分かった、今行く」

今のは僕の専属住み込みメイドの滝口 詩と言い、僕の専属メイドとして働いてくれている。

彼女は大学一年生で学校に通いながら働いてくれている。彼女も池田さんと同じく、清楚な雰囲気をしており、顔もスタイルも良い。

違うところとは茶髪であることくらいだろう。ちなみに染めているのではなく地毛だ。

 彼女とは昔からの長い付き合いがあり、とても仲が良い。

というのも、彼女の両親も僕の専属の住み込み執事・メイドである。

そのため、昔から彼女も同じ家に住んでおり、何事にも一緒に行動していた。

しかし彼女が高校一年生になった時、彼女の両親に影響されてか、僕の両親に僕の専属メイドにして欲しいと直談判しに行ったようだ。

彼女の両親も僕の両親も大賛成し、即僕の専属メイドに決定となったようだ。

 その後の彼女の初出勤日、僕は新しい専属メイドが付くということだけを聞かされていたので驚いた。

いつもタメ口で話していた子が、急に敬語を喋り出し、態度も非常に丁寧になっていたからだ。

彼女とはもうこれまでのようには居られないのかと思い、悲しくなったのを覚えている。

 しかし、この態度は”業務時間内〟だけだった。業務時間外になるや否や僕の元に来てべったりである。

それは今も続いている……。まったく、困ったものだ。

 ――後は寝るだけとなった頃、誰かが僕の部屋の扉を三回ノックした。

「アオ君~! 入って良い~?」

「詩? 良いよ~」

彼女は毎晩僕の部屋に添い寝しに来る。

こうなった経緯を話すと、昔から僕は彼女と一緒に寝ており、それが今も続いているという感じだ。

中学生になった時にそれぞれ自分の部屋で寝ようと提案したのだが、彼女はその提案を受け入れず、結局僕が折れることになったのだ。

詩は僕のベッドに入り、僕も入るよう誘ってくる。

「アオ君、寝よ~?」

時計は二十三時を指している。先ほど仮眠をとっていたとはいえ眠くなってきた。

「うん、寝よっか」

そう言って僕もベッドに入るのだった。

「おやすみ、アオ君」

「おやすみ、詩」

 ――朝の日差しや鳥の鳴き声と共にいつも通りの元気な声で起こされる。

「おはよう御座います! ご主人様!」

「ん~」

まだ眠い。もう少しだけ寝ていたい……。

そう思っていると布団を掻っ攫われてしまった。季節は秋というだけあって朝晩は少し肌寒い。

仕方がない、起きるか。

 今日は休日なので家でゆっくりしたい……のだが、実は僕は父の経営しているホテル業と母の経営している飲食業それぞれ二つの会社の副社長をしている為仕事が入っている。

 僕が副社長となったのは高校入学後直ぐだ。理由は両親に会社の後を継いで欲しいと言われたからだ。

両親には僕しか子供がいない為、後継が僕以外に居ない。なので将来的に継ぐことになると思っていたのだが思ったより早くになってしまったのだ。

 今日の仕事は母が経営しているうちの一つであるカフェに来たアルバイト希望の方の面接官をすることである。

こういうのは店長がするものだと思うのだが社会勉強の一環としてすることになった。

朝の準備などを終え、仕事場へと向かう。どんな人が来るか楽しみだ。

 アルバイト希望の方が来たと連絡が入り、少し待っていると扉を四回ノックされた。

「どうぞお入り下さい」

「失礼します。本日は宜しくお願いします」

僕は入ってきた人を見て驚いた。

なぜならその人とは数日前に出会った池田さんだったからだ。

どうやら彼女も驚いているようだ。それもそうだろう。

「今回面接官を務めさせて頂く清水 蒼です。どうぞおかけ下さい」

彼女は凄く緊張しているようで動きがロボットみたいだ。少し緊張を解いてあげようか。

「偶然の再会ですね! まさかこんな形で再開するとは思っていませんでしたよ!」

「私のセリフです! どうしてここに居るんですか⁉︎」

「僕はこのカフェを経営している会社の副社長を務めさせて頂いているんですよ。ちなみに母は社長です」

「そ、そうだったんですね……!」

 自己紹介や世間話などもそこそこで切り上げ、ありきたりな質問を始めていき、面接は終わった。

「それではお疲れ様でした。後日合否をメールにてお伝え致します」

「はい! 有難う御座いました!」

僕の意見として彼女は特に問題はない為合格だ。

一応店長の許可も必要だが、僕が合格と言えば合格となるだろう。

 ――一週間後、カフェで合否の会議があった。

会議には店長だけで良いのだが母は僕の働いている姿を見たいと参加してきた。

別に構わないのだが、わざわざ忙しいのに時間を使ってまで見たいものなのか。

「今回のアルバイト希望の方の件です」

「えぇ、どうだったかしら?」

「今から配るプリントを見て下さい」

母と店長にプリントが配る。

「結論から言うと合格であると思います」

プリントには池田さんの個人情報や志望理由などの大事なことが書かれている。

母と店長は一通りプリントに目を通した。

特に問題ないと判断されれば合格だろう。

「特に問題もないし、うちのアオが合格と言っているのだから合格よね?」

「はい。勿論です」

母の有無を言わせない言葉と態度で不合格だとしても言えないだろう。

 やはり僕の家系はヤから始まる家系なのではないかと思ってしまう。

 それよりも、池田さんが働き始めるのが楽しみだ!

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