茜空の下で君への思いを語ろうと思う。
愛し子様
第一章:ハーデンベルギア
僕はとある崖に来ていた。崖の下には海が広がっている。
僕はそこからの景色を見ながら読書をするのが好きで、ほとんど毎日来ている。
今日は綺麗な茜空が広がり、非常に綺麗だ。
いつもは誰も居ない場所なのに、今日は美少女が居た。
彼女は綺麗な長い黒髪をしており、清楚な雰囲気をしている。
遠目からでも分かる程顔は整っており、スタイルも抜群だということが分かった。
年齢も同じ位だろう。
僕はいつも通り読書を始めようと思ったのだが、何か嫌な予感がした。
彼女がいるのは崖の淵。そして今にも投身しそうな様子だった。
「これは見過ごせないな……」
ここは僕のお気に入りの場所だ。ここで何かあってたまるか!
「ねぇ君、何をしているの?」
まだ自殺しようとしていると決まったわけではない。
僕はなるべく警戒されないように話しかけた。
「え? 君は?」
「僕は清水 蒼、十六歳。君は?」
「もう直ぐ死ぬ私の名前なんて知っても意味ないよ」
「君は今からここで、自殺するつもり?」
「うん、そうだよ」
はぁ……やっぱりそのつもりだったんだな。
病気の可能性もあったのだが。
「ここ、僕のお気に入りの場所なんだ。だからここで自殺されると困る。どこか違う所でやってくれ。」
自殺を止めようとは思わない。それが彼女の選んだ結果であるなら。
しかし、ここで自殺をするというのなら話は変わる。
「あなたのお気に入りの場所なんて知らないわ!」
――そう言って彼女は崖から飛び降りた。
「え……ちょ……!」
僕は間一髪で彼女の手を掴んだ。
すると彼女は僕の手を解こうと抵抗する。
「ちょ、抵抗しないで!」
「嫌! 離して!」
僕はそう言う彼女を無理やり引き上げ、拘束する。
彼女は逃れようとしばらく抵抗するが、無理だと悟ったのか大人しくなった。
「今から警察を呼ぶから申し訳ないけどこのまま拘束させてもらうね。」
「お願い……警察だけはやめて……!」
彼女は僕に縋るような目を向ける。
「……そんな目をされると困るんだけど」
「お願い……もう自殺なんてしようとしないから……だから……」
本当に彼女は自殺しようとしなくなるのか……? 到底そうとは思えないが……。
「とりあえず、警察を呼ぶのはやめるよ。その代わり僕の質問に答えてくれる?」
「うん。分かった……」
「まず、君の名前と年齢は?」
「池田 澪、十七歳」
ということは高校三年生か二年生だ。とりあえず年上だということは分かった。
「年上だったんですね……失礼な態度を取ってすみません」
昔から年上は敬う物だと教えられているため謝っておく。
「それは良いんだけど、とりあえず拘束解いてくれない?」
「分かりました。しかし逃げないでくださいね?」
「うん……約束するから……」
逃げようとしたら警察を呼べば良いと思い拘束を解いた。
「やっと解放された……痛かった……」
「すいません、こうでもしないと駄目だと思ったので……」
「まぁそうだよね……。」
そうしてお話を始めた。しばらく話していると落ち着いてきたようだ。
「なんで自殺をしようとしたんですか?」
ヒステリック状態でこの質問をすれば、ヒートアップする可能性がある為タイミングを見計らって質問した。
「昨日、私の大好きな両親事故で死んだんだ……」
そう言って彼女は話し出してくれた。
「私のお父さんもお母さんも凄く優しくて私の憧れの人だった」
相槌を打ちながら彼女の話しやすい環境を作る。話せば少し楽になることもある。
「一般的に見て裕福な三人家族の家庭で、何不自由ない幸せな生活をさせて貰っていた。でも昨日、その生活が一瞬にして崩れ落ちた。私には面識のない親戚とかしか居なくて、その人達が私を引き取ってくれるって言うんだけど、もうどうすれば良いか分からなくなってて。いっそ死んだ方が楽なんじゃないかって。それで今に至るっていう感じ」
彼女は泣くのを我慢しているようで目には涙を浮かべている。
「泣きたければ泣けば良いと思います。我慢する必要はありません」
「うん……有難う……。じゃあ一つ、お願い聞いてくれる?」
「勿論構いませんよ。なんでも言って下さい。可能な範囲でなんでも叶えます」
「じゃあ、私を強く抱きしめて、頭撫でて」
「良いですよ」
彼女を抱きしめ、頭を撫でていると、心に抱えていたものが溢れ出してきたのか、僕の腕の中で大泣きしだした。
僕は何も言わず、ただ彼女を抱きしめ、頭を撫で続ける。
しばらく泣くと落ち着いてきたようで僕から離れた。
「ごめん、君の服、濡らしちゃった」
「大丈夫ですよ。少しでも気が楽になりましたか?」
「うん。ありがと。はぁ……君と話してたら自殺する気無くなっちゃった……これからどうしようかな……」
彼女の言葉を信じることはできない。このまま放っておくとまた自殺しかねないからだ。
「とりあえず、もう帰ろうかな」
かといって、彼女をこのまま引き止める理由もない。
「そうですか、さようなら」
僕のできることはした。あとは彼女が決めることだ。
「気をつけて帰って下さいね」
辺りが暗くなり始めていたのでそう声をかけた。
「うん、ありがと。じゃあね!」
彼女のお見送りをし、僕もそろそろ帰ろうと思うのだった。
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