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「私、何かまずいことを言ってしまったの……?」
シルヴィオがなかなか戻ってこないことに不安になり、リリーディアは自分の言葉を思い返す。
――私は、シルヴィオのプラチナのようにきれいな白銀の髪が好き。神秘的な金の瞳が好き。落ち着いた低い声が好き。優しいこの手が好き……だから、少しはシルヴィオ自身のことを大切にしてほしいわ。
そして、みるみるうちに羞恥に頬が火照った。
リリーディアは自分の両頬を押さえる。
「…………な、な、これって告白になるのかしら?!」
あの時は、シルヴィオが自分自身のことをもっと大事にしてほしいという一心だった。
しかし、いざ自分の言葉を思い返せば、シルヴィオを好きだと連発している。
これを告白でなくてなんだというのだろう。
事実、リリーディアはシルヴィオのことが好きだ。
しかし、伝えるつもりはなかったのに。
浮かれていたのだ。
記憶喪失以前の自分も経験したことがない、シルヴィオとの思い出を作ることができたから。
(私は嬉しかったし、幸せだったけれど……)
シルヴィオがリリーディアに背を向けたのは、仕える姫に恋情を持たれて戸惑ってしまったからではないだろうか。
従者である彼は、姫であるリリーディアの気持ちに応えることすらできない。
王女と従者が結ばれるはずがないのだ。
たとえ、今は二人きり、穏やかで幸せな時を過ごしているとしても。
「これが本の世界なら、私たちが結ばれることもできたかもしれないのに……」
シルヴィオを思いながら、リリーディアはテーブルに突っ伏した。
大きなため息を吐いて、唇を尖らせる。
「あ~もう、どうして私、姫なんだろう」
この屋敷でたくさんの物語を読んで、リリーディアは身分差の恋がどれだけ難しいのかを知った。
だからこそ、その恋は燃え上がり、読者に感動を与える。
しかし、現実ではそううまくいかない。
きっと、リリーディアの告白はなかったことにされるのだろう。
今この場にいないのが、その答えのように思えた。
それに、ちゃんと告白をしたところで、受け止めてくれたかは分からない。
シルヴィオは、リリーディアには甘いくせに自分のことには深く踏み込ませてはくれないから。
それもこれも、すべてはリリーディアが王女という立場にあるせいだ。
王女としての記憶すらないし、シルヴィオと二人だけで過ごしているから、身分差なんて感じたことはない。
しかし、シルヴィオは違う。
だから、彼の意思を汲んで、リリーディアも彼を好きだと言ったあの言葉たちに特別な意味などないというふりをしなければ。
そうでなければ、今の関係が変わってしまうかもしれない。
とても、とても寂しいけれど。
「シルヴィオもシルヴィオよね……自分からは私に近づいてくるくせに」
どうしてリリーディアが近づこうとすると離れていってしまうのだろう。
いつもリリーディアを優先してくれるシルヴィオ。
言葉で、目線で、態度で、リリーディアを特別だと伝えてくれるシルヴィオ。
それでも、彼はけっして愛の言葉を口にしない。
大事にされていることは分かるのに、リリーディアはこの埋まらない距離感がもどかしくてたまらない。
「私が何かひとつでも思い出すことができれば、もう少し近づけるの?」
ぽつり、とこぼしたリリーディアの問いに応えるように、目の前に赤い蝶が現れた。
リリーディアを誘うように、赤い蝶はひらひらと舞う。
不思議な蝶に導かれるようにして、リリーディアは立ち上がった。
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