6
灯りを消した部屋に、月明かりが窓から差し込む。
天蓋付きのベッドには、美しい女神が眠っている。
「リリーディア」
彼女が起きている時には決して呼べない名前を、シルヴィオは口にした。
その名を呼ぶだけで胸が締め付けられる。
「……リリーディア」
音にすれば心が甘く疼く。
しかし同時に、罪悪感と、憎悪と、後悔がシルヴィオの感情を支配しようとする。
そして、美しい思い出も、思考も、心も、すべてが黒く染まっていく。
「俺が君を許す日はきっと来ない……でも、ごめんね」
リリーディアは、シルヴィオを裏切った。
あの日の記憶のせいで、何も知らないリリーディアの笑顔にまで苦しくなる。
きれいなままの彼女が羨ましくて、憎らしい。
それでも、もしリリーディアが記憶を取り戻して、シルヴィオから逃げようとしても、逃がすことはできない。
リリーディアがいなければ、シルヴィオはきっと死んでしまうから。
シルヴィオはリリーディアを愛している。
心から、彼女だけを。
――狂おしいほどに。
(君が俺のしていることを知ったら、きっと泣いてしまうだろう)
自分のせいで泣いている彼女を見るのも悪くない。
リリーディアを悲しませるのも、苦しませるのも、シルヴィオでなければ。
他の誰にも渡さない。
他の――誰にも。
もうあんな思いは二度としたくない。
胸が張り裂けそうな痛みを思い出し、シルヴィオは口角を上げた。
「……俺が歪んでしまったのは、君のせいだから。これからも、俺だけを見て」
余計なことは考えないで。
リリーディアの人生に刻まれた記憶に、シルヴィオ以外は必要ない。
「君は、俺だけを知っていればいい」
宝石のようにきれいなピンクの瞳が映すのも、眩いばかりの笑顔も、透き通るような声も。
見つめるのも、笑いかけるのも、話しかけるのも、シルヴィオだけでいい。
「リリーディア、愛しているよ」
シルヴィオの手には、月明かりのような淡い光が集まってくる。
光をまとったその手で、シルヴィオは穏やかに眠るリリーディアの頭を優しく撫でた。
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