第8話 事後報告

「あら、おかえりなさ……、あら、霧崎さん? 顔色が悪いわよ」

 立華達はギルドに帰ると、真っ先に管理部へと向かっていた。管理部には、朝もいた眼鏡の女性が自席に座っていた。眼鏡の女性に心配された霧崎だったが、なんでもないかのように振る舞った。

「……なんでもないです。ただいま戻りました」

「……? 立華さん、何かあったんですか?」

「……まぁ、この件も含めて、依頼の報告に来ました」

「……うん、いつものね」

 立華は依頼書を机に置き、眼鏡の女性はそれらに目を通し始めた。

「えーっと、依頼の内容は、マーサの洞窟での魔鉱石5kgの採掘と、フォートデビル1体の討伐ね。うん、二人ともよくやってくれたわね」

「ありがとうございます」

「でも、どうやら勝手にピーチク森に行っちゃったみたいね」

「えっ、……あっ」

 立華は霧崎を睨むように見る。

「……行ってないですわ」

 霧崎は目を逸らして言った。

「嘘おっしゃい。行動履歴は残ってるんだからね。その様子だと、相当思い知らされたようね。生きてるだけマシだと思いなさい」

「立華が勝手に森に行ってしまうから……」

「え!? 霧崎さんが行こうって言ったんじゃないですか!!」

 濡れ衣を着せられた立華がすかさず反論する。

「霧崎さん。申し訳ないけど、あなたの今までの行いのせいで、あまり信用出来ないわ」

「どうしてですか!? 私はギルドのためを思って主を討伐しようとしたのですよ!!」

「失敗しているじゃないですか。……っていうか、その物言いだと霧崎さんから森に向かったと言ってるようなものじゃないですか」

「あっ、うぐぐっ……」

「はぁ……。霧崎さんと一緒に行かせてしまったギルドにも非はあるけど、ギルドの方針に反した行動であるには変わりないのよ。何かしらの罰が下されることを覚悟しておいて。特に霧崎さん」

「はい……」

「それと、立華さんは強引にでも帰ってきなさい。……後のことを気にしたのかもしれないけど、そういうのはギルドが守ってあげるからね。今後は気を付けてちょうだいね」

「はい……、ご迷惑をおかけしました……」

 立華は眼鏡の女性に頭を下げた。

 すると、眼鏡の女性は立華達に近づき、真剣は表情で口を開く。

「さて、今日のことは、全て、絶対に、口外してはいけないわよ。分かった?」

 眼鏡の女性は、『全て』と『絶対に』を強調して、立華達に忠告した。

「はい、分かりました」

「霧崎さんも、約束して」

「……はい」

 霧崎の返事を聞いた眼鏡の女性は、立華たちから離れ、いつもの明るい表情に戻った。

「よし、今日はもう仕事は済んだでしょう? もう帰って良いわよ」

「はい、お騒がせしました」

「……失礼します」

 立華と霧崎はそれぞれ部屋を出て行った。


「霧崎さんのせいですよ」

「うるさいですわね……、お仕置きいたしますわよ……」

 立華と霧崎はまだ口論を続けていたようだが、霧崎には朝のような活発な雰囲気は感じられなかった。

「……やはり、森の主の討伐に失敗してしまったのがいけなかったのですわ。もし成功していたら、間違いなく称賛されていたでしょうに……。私もまだまだのようね」

(そういう問題でもないような……)

 立華は思ったが、立華の疲労も相当なものだったため、口には出せなかった。


『今日のことは、全て、絶対に、口外してはいけないわよ』


 立華は、眼鏡の女性の忠告を思い返していた。

(あの言い方。もしかしたら、ドラゴンの事もバレてるのかも……)

 立華は続けて思う。

(もし、ドラゴンが……。霧崎さんは、黒竜って言ってたっけ。黒竜が、霧崎さんの言うような存在だとしたら、本当に絶対に喋っちゃいけないなぁ)

 立華は霧崎と別れ、着替えを済ませる。

(もし、私がドラゴンを拾って家の中に居させてるってバレたら、……きっと大騒ぎなんてものじゃ済まないかも。最悪、私とドラゴンが捕まえられて、あんなことやこんなことをされちゃうのかも……)

 立華はギルドの出口であるエレベーターに乗り、一般の生活に溶け込むようにギルドを後にした。


(……。あれ? そう言えば。あの子、どうやって家から出たの!?)

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