第3話 鈍紫の魔女
「ふぅー、やっと終わったー!」
「おーっほっほっ!ミス立華ぁー? 休み明けとはいえ、堂々と遅刻してくるなんて、良い度胸してるじゃないのぉー?」
立華が振り向くと、そこには紫色のロングヘアーを持った女性が、黒を中心としたきらびやかな衣装を着て高笑いをしていた。
「き、霧崎さん……。すみません、色々あ──」
「言い訳は管理部にでも吐いて頂戴な。そんな体たらくでは貴方はずーっと底辺のままですわよぉ!」
霧崎と呼ばれた紫ロングヘアーの女性が、顔を立華にぶつける勢いで近づけて言った。立華は堪らず後ろに飛び退く。
「あらあら、そんなに怯えなくて良いのですよ? それとも、私の華麗な姿が貴方には眩しすぎたかしら?」
霧崎は豊満な胸と蜂のようにスリムなウエストを持っていて、モデルでも十分通用しそうな体型だった。しかし、過剰なほどの装飾と傲慢な態度のせいか、その美貌は廃れてしまっているように見える。
「著者? 何か言いまして?」
……いえ、何も。
「とにかく、さっさと遅刻届けを管理部に提出なさい! 今日は貴方とパートナーなんですからね!」
「えっ、霧崎さんと……?」
立華は嫌な気持ちをぐっとこらえたが、声の調子と表情にうっすらと出てしまった。
「そうよ、インターバットである私の闘いを見れる良い機会でしてよ。私のような超優秀生が貴方に付いていって差し上げているのですから、感謝しなさい。おーっほっほっ!!」
霧崎は高笑いをしながらこの場を去って行った。
……インターバットというのは、ギルドの階級のことで、だいたい中間くらいに位置している。
(……そんなに優秀ならもっと上の方にいても良いのにね)
立華は心の中でそう思いながら、管理部の方へと歩いて行った。
「ああ、立華さん。電車が遅れたんでしょ?」
「え!? 知ってたんですか?」
立華が管理部の部屋へ入ると、眼鏡をかけた女性が話しかけてきた。
「今朝ね、線路の上でマンモスが寝てたのを一生懸命退かしてたニュースが入ってきたの。あまり刺激すると暴れちゃうから、慎重にやってたわ」
「それでかぁ……」
「……立華さんも何か変だと思ったら自分で調べてみなさい。情報は知ってると知らないとでは大違いだからね」
「分かりました」
立華が返事をすると、眼鏡の女性が立ち上がり、一枚の紙とペンを立華に手渡した。
「はい、遅刻届。これに名前とギルドに着いた時間を書いてね」
立華は静かに遅刻届に筆を入れ始めた。
「まぁ、立華さんはそう何度も遅刻することはないでしょうから、大丈夫だと思うけど、次から気を付けてね」
「はい、気を付けます」
立華は記入し終えた遅刻届を眼鏡の女性に手渡した。
「うんうん、オッケー。それじゃ、お仕事頑張ってね」
「はーい」
立華は管理部の部屋から出た。
「お仕事頑張ってね、かぁ……。霧崎さんとなんだよなぁ、やだやぁ……」
一方、立華の家に残されたドラゴンはというと、立華のベットの上で仰向けで静かに寝転がっていた。
(俺、なんでこんなところにいるんだ?)
ドラゴンは過去のことを思い返していた。
(確か昨日は嵐だったな。テキトーにふらついてたら変なやつに会って……、デカい音がしたと思ったら、いつの間にかここにいた……)
ドラゴンはふと部屋を見渡した。目が覚めた時に自身の下に敷いていたタオルの山、立華が服を引っ張り出したクローゼット、洗面所にあるドライヤーなどが目に入る。
(あの変なやつが、俺をこの場所にワープさせた? なんで??)
ドラゴンは腕を組みながら考えた。その考えは実際の答えとはかけ離れているが、自身の記憶を辿って推測してみると、こうなってしまうようだ。
(はぁ……、全然分かんね。っていうか腹減った。あんだけじゃ足んねーって……)
ドラゴンはベットから飛び起き、窓の方を見た。
(外行って、何か食いもん探すかー)
そして、ドラゴンは翼を1回だけ羽ばたかせ、閉まったままの窓へと突進した。
パリーン!!
窓ガラスが盛大に割れた。
『え? うわっ!? 壁あったのかよ!? 見えない壁とか聞いてねーよ!!』
自身の頭に見えない壁(ガラス)がぶつかる衝撃を感じたドラゴンはすぐさま急ブレーキをかけ、窓の方を見た。そこには散乱したガラス片と解放された窓があった。
『どーすんだよこれ……、どーやって直すんだよぉ!?』
ドラゴンは窓の周りでくるくる飛び回りながら考えたが、何もできずにあたふたするだけだった。
『……もうしょうがねぇ、ほっとこ。それより飯だメシっ!』
やがてドラゴンは諦め、どこかへと飛び去って行った。
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