妹と合流

 今回の門兵はあの時とは違うようだ。

 冒険者カードを取り出しチェック。

 結界避けの方は効力を発揮して難なく門を通過する。

 これすら防げなかったら単なるゴミになっていたけどな。


 リーフと話しをしながら冒険者組合へ。

 なんかいろいろあったような気がするけど、時刻で言えばまだまだお天道様は真上。

 大体昼くらいか。

 岩場に隠れていればいいのに。

 クソメンヘラがッ。


「ラナ。太陽を睨まない」

「おのれアマテラス!」


 太陽神の癖に巫女ってなんだよ!

 というかお前はなんでそんなに有名なんだよ!

 太陽だからか?

 司るのが太陽だからか!?

 太陽だからツクヨミの件といいスサノオの件といい太陽を隠した件といい許されるのか?

 黄泉の穢は必要ないってか!

 ああっ!!


「アマテラス?」

「天を照らすと書いてアマテラス。まぁ、超越者なら誰もが知っている、太陽神だよ」


 リーフが呆れ気味に言う。


「種族バレするよ」


 それでもおれの体は反射的に太陽を睨んでしまう。

 呆れた眼差しを向けてくるリーフはおれの服の襟を掴み、冒険者組合まで引きずっていた。

 到着後、真っ先におれとリーフは報告へ向かった。

 当たり前だけど、自己申告するには仲間内で行く必要がある。

 ひとりでは他に証人がいないからな。

 最初こそ虚偽の報告と一蹴されるかもと思った。

 けど、おれが超越者であるからか書類を一枚書くだけですんなりと通った。

 あんまりにも速すぎる。


 そんなによく起こるのか。

 超越者たちだと。

 そしておれの手元にある麻袋には魔精霊三体分のガウルが入ってきた。

 駆け出しが貰う量にしてはかなり多い方だ。

 最後に倒した魔精霊はほぼほぼリーフが削ったようなものなので譲ることにした。

 止めを刺しただけだからな、おれ。


 ……魔精霊を倒しただけで冒険者ランクが上がるとは。

 実力的には問題ないんだろうけど……。

 おれまだ冒険者のいろは、まったく叩きこまれていない状態なんだけど。

 おれが困惑している間、リーフは風呂でも入ってきたのだろう。

 完全に臭いが取れていた。


「なんだか騒がしいね」


 おれは自分で稼いだガウルを使って、料理が届くのを待っている間のことだった。

 リーフの言葉通り、入り口付近に人だまりができていた。

 確かに騒々しい。

 どうせ有名な冒険者でも帰ってきたんだろ――


「っていも……サクヤ!?」


 危ない危ないっ。

 つい立ち上がってしまった。

 近くにはリーフもいる。

 流石に妹という単語はまずい。

 というかなんでもう来ているの?

 約束は明日だったはず。

 妹は集まっている人達に笑みを浮かべて手を振っている。

 ……サイン。

 書きなれているように見えるし、導き手ってこの国だとスター同然なんだな。

 歩きにくそう。


 適当に大幣でも振って見るか。

 意外とうるさいな、このしゃらしゃらとした紙の音。

 妹も瞬時にこちらに気づいたようでニコニコ笑顔でこっち来た。

 いつもであれば到底見せることのない貼り付けた笑みを。

 待って待って……なんか怖いんですけど。


「テルミ様が今すぐにでも会いたいって」

「明日じゃなかったっけ?」

「今すぐに会いたいって」

「いやあの」

「会いたいって」


 気のせいじゃないよな。

 後ろで鬼神が幽霊のように浮かんでいるんですけど。

 えっ、何この迫力。

 なんで他の人達には何も見えてないの?

 なんでそんな遠巻きから声援を叩きこむだけなの?

 なんでこんな断ったらどうなるか分かってんだろみたいな、不良もはだしで逃げだす聖力ガッチガチな構えしてんのに気づかないの?

 しかしなぁ……。

 明日までだと思っていたから。

 ちらとリーフは見る。


「いいんだよ。国からの頼みじゃしょうがない」


 諦めたような口調で、リーフは首を横に振った。

 女神だ。

 正直ここまでリーフが女神に見えたのは初めてかもしれない。

 だけどせめてその、悲しげな表情は止めてぇぇ!

 心に来る!


「なぁ、リーフも一緒じゃダメか?」


 マナの使い方については城内でもできるだろうし。

 何なら病気に関しても治せるかもしれない。

 はっきり言って、おれは呪術と妖術以外は基本専門外だ!

 けど病気や怪我の治療を出来るのは知っている。


「んー、今回ばかりはよしてくれるとありがたいな」


 ……外面完璧だな妹よ。

 本当に聖人みたいだ。


「んっ?」


 なんか一瞬、妹から物凄い量の聖力が出たような……。

 ……もしかして心の中を読まれた?

 周りはこの行動をここの悪い気を払ったんだと自己解釈しているし。


 えぇ……この妹怖い。

 やっぱり妹は妹キャラに限るよなぁとしみじみ。


「ありがとラナ。気持ちは嬉しいよ」


 リーフはおれの手を握ってきた。

 ぎゅっと。それから行ってきてと言わんばかりに、軽く背中を押された。

 リーフ……。


「ごめんな」


 気付けばおれはそう口にしていた。

 結局、何にもしてあげることができなかった。

 術も、マナも、病気に関しても。

 それからおれは顔を上げて、精一杯の笑顔を浮かべた。


「じゃあな。会いたい人たちに会えればいいな!」

「……。うん、じゃあね!」


 手を振り別れを告げるリーフの顔は、行きと変わってなんでか雲が晴れたように笑顔で。

 おれも手を振り返して別れを告げ――、あっその前に頼んだ料理分のガウルは置いていこう。

 これでよしと。


「……気を付けた方が良いよ、ラナちゃん」


 不意に妹がそんなことを口にしてきた。


「なんでだ?」

「あの顔、多分何か含んでいる」


 そうなのか?

 そんな風には見えなかったけど。

 妹だからこそ何か分かったのかもな。

 人の表情に関してはおれよりも敏感だから。

 妹の言う何かを含んでいるという言葉が若干に気になりつつも、おれは妹を連れて昨日の城を目指した。

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