導き手の王
おれと妹は冒険者組合を出てエクスオラシオンへと向かう。
その間、妹と交わす言葉はない。
なんせ妹は終始民に声を掛けられたり、子どもが近寄ってきたりと人気者っぷりを発揮しているのだから。
目立ちたくないわけではない。
しかしその対象はおれではなく妹。
何ともいたたまれない。
早く終わってほしい一心で歩いていると、ようやく城の内部へ辿り着く。
「集合は明日じゃなかったか?」
「テルミ様が今すぐに会いたいって」
だからボットかよ!
なんでそんな同じ言葉ばっか繰り返すんだよ!
そしてなんでまだ敬語なんだよ!
背筋が凍るわ!
ってそうか。そういやメイドさんがいた。
あくまでも超越者の前以外では聖人の顔としているわけな。
妹はおれの頭を優しく撫でてくる。
そして屈むとおれの目線に合わアクルこう囁いた。
「仲間に手ー出してみろ。ぶっ殺す」
「……お、おう」
猛獣だ。
聖獣の皮を被った猛獣だ。
傍から見たら子どもを撫でる優しいお姉さんにしか見えていないのかもしれない。
けど実際には埋葬するのかってくらい、ここだけ重力が強い。
やっぱり、二次元の妹は所詮幻想であったか。当たりが強すぎる。
妹はアレイサス像近くの階段を登っていく。
この階段。
気にはなっていたけど、なんでこんな場所にあるんだろうな。
……って魔法陣?
ちょうど像の真後ろの壁に魔法陣が刻まれている!
しかもこの魔法陣見覚えがある!
妹は宝玉のついた籠手を迷いなく魔法陣に当てた。
途端に転移陣から漏れでた光が、雪崩のように視界を埋め尽くす。
痛くないし熱くない。
目を焼かれるような感触もしない。
次の瞬間、眼前に広がっていた
光景におれは目を奪われていた。
「転移か!」
よく遺跡やら迷宮にあるあの!
一定の場所に繋がるワープ装置!
ゲーム時代じゃ転移陣について詳しく調べていたほどなのに。
現実になると仕組みを理解できるようになるのか。
不思議だ。
「ほらっ」
妹が指をくいと動かしてくる。
続いて感じる花のにおいがおれを現実に引き戻す。
ここは円卓とその玉座。
その一面が表現されたかのような場所だった。
銀色の巨大な円卓。
それを囲むように並ぶ十二の席。
床は妹の姿が映るほど研磨された大理石。
慎ましやかな花の香りが、おれの花を強く刺激していた。
ここは……聖の世界と表現すればいい?
それとも影をも飲み込む光の国といえばいい?
正直、内なる本能が暴れているような気がする。
死する者の存在を完全否定するかのようだ。
円卓の奥。
男女をひとりづつ両脇へ従わせ、ちょうど時計の十二時に当たる席に女性が座っている。
あの両脇にいる二人。
もしや、【
聞いたことしかないけど、十二の導き手に数えられている人たちだよな。
ならその二人に挟まれている女性がテルミさん?
「マジかよっ……!」
男の方であるヤーティは、聖剣を引き抜きその切っ先を向けてくる。
相変わらず魔王軍みたいな、黒く禍々しい聖剣と
血管のような線がそこかしこに浮かび上がっている。
世間一般的に爽やかそうな青年は、あからさまに顔を歪め、敵意マックスで睨んでくる。
「質の悪い真実ですね」
その反対側にいるのはポニーテールの女性、シグレさん。
噂には聞いていたけど、本当にお淑やかそうな黒髪和風美人。
忍びに近い真っ白な装束。
靴下と裾の間からは、肉付きの良い太ももが見えていた。
銀色の和弓。
矢を番える場所に、神彩の宝玉が埋め込まれているのが分かる。
穏やかそうな顔から一転、目を細めて弓を番える姿は堂に入っていた。
ピリピリとした空気を感じる。
あちらは完全に敵意マックスだ。
いつでも応戦できるよう準備しておいた方が――、
「……手を出すな」
妹がおれをちらっと一目見てそう一言。
遮るように体でおれを隠した。
この一触触発の状況でか。
きっと何か策があるのかもしれない。
おれはただ、「分かった」とだけ頷いて一歩下がった。
あちらから会いたいって言ってたし。
こちらも別に戦うつもりで来ているわけじゃない。
あくまで妹を助けるためにおれはいる。
しかしどうやってこの状況を切り抜けるのか。
「二人とも。大事な御前ですよ」
優しく暖かい、慈愛のような第三者の声。
戦闘を始める一歩手前のピリッとした空気が緩和されていく。
おれを隠すように立っていた妹が離れていく。
「初めまして小さき魔王。わたくしはテルミと申します」
真ん中の十二時の席に座っている女性は、自身の胸に手を当てた。
聖国の、この国の女王。
なるほどこの人が。
なんて朗らかな笑みだろうか。
見ているだけでどこか安心感を覚えてしまいそうだ。
オッドアイ。赤と青。
宝石のように奥行きのある深い輝きを放つ瞳。
ゆるやかに流れる薄い金の髪に至っては、まるで天の光を受けて育ったかのようだ。汚れを感じない新品同様の純白の衣。
頭には黄色いティアラ……であっているよな。
ここまで完璧な聖職者が存在していたのか。
妹といい、そこの導き手たちといい、妙に闇を纏った奴しかいないから勘違いしていた。
清楚な女性は実在する。
妹に頭を指で突かれる形で、おれは現実に戻ってこれた。
……しかしこう煌びやかに挨拶されると、どう返していいのか困るな。
できる限りおれも威厳があるよう演出しよう。
「おれはバリル。【黄泉の巫女】とも呼ばれている。お初に御目にかかる、聖国の女王よ」
十つほど呪いで汚染したドロドロの五芒星を浮かべてみる。
さらにおれの足元から黄泉の瘴気を渦巻くように放出する。
瘴気が辺りに蔓延していく。
バチバチと黒い電気が迸り、神聖なこの場を汚していく。
負けないよう、できるだけ演出してみたわけだけど。
はぁぁぁぁっっっずいなぁーーーーこれーーーー!
しかも隣の妹様からの視線がやばい!
なんかもうやばい!
言葉にできない程痛い!
冷たすぎる!
「……お前何してんの? ほんとに仲間になろうって気ある?」
……確かに。
なんかヤンキーが殴り込みついでに荒らしていくみたいにしか見えんわこれ。
けど仕方ないじゃん!
こちとら作法とか知らない野良だぞ!
ボッチにそんな高等テクニック要求すんなっての!
とにかく話が進まないのでこのまま突っ切る!
「女王テルミ。多分プレイヤーだよな。ぶっちゃけると、おれはサクヤの実兄だ。妹が苦しんでいるなら助けてやりたい。だから、おれにできる範囲であれば協力したい」
後ろのヤーティは目を見開き、シグレさんは少し眉を動かした。
テルミは……何も反応を示さない。
既に分かっていたか。
それとも予想していたか。
それと妹さん、妹さん。
なんであなた様は若干体を引かせているのですか。
目じゃなく遂に体まで使い始めましたね。
「それはわたくしたちの聖国を助けてくれると。そう受け取ってもよろしいのですね?」
「あくまで妹、サクヤがこの国を守ろうとするならな。もしいなくなるんだったら、この先どうなろうと知ったことじゃない」
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