ギルド登録
さてと、冒険者組合はっと。
目印は確か赤い旗が立っている木造建築だったはず。
道行く人を潜り抜け、時折足取りを緩くしながら先を行く。
思えば冒険者組合なんてものもなかったんだよな。
とあるプレイヤーがファンタジーには冒険者みたいなノリで始めたのが最初だったっけか。
あの時の祭り騒ぎといえば本当にすごかった。
まさか本当に創設できるとは。
NPC も意識があるのかってくらい名声があればついて来てくれるし。
何ならパーティも組めた。
今や現実か……。
なんか感慨深いものを感じる。
陽気な空気に飲まれてか、軽やかに足が右や左へと曲がっていく。
時折屋台から流れてくる匂い。
思い出したように腹がぐぅーと鳴る。
神社の祭りとか行くとき、こんな感じだよな。
毎年ひとりで屋台を回っているけど。祭りの日に参拝はしたくない。
おっ、あったあった。
吸血鬼の超視力が赤い旗を捉えた。
木造建築だし多分間違いない――ってデカッ!
軽く屋敷レベル。
えっ、冒険者組合及びギルドって豆腐建築でもう少し小さいイメージが
というかゲーム時代はそうだった……よな?
……まっ、いいか。
そんなの関係ない。
さてさて、冒険者といえばまだ見ぬダンジョンや宝に思いを馳せ、いつの間にか世界を救う職業!
どうなっているのやら。
おれは希望を胸に扉を叩く!
「――やっぱ俺はバリルちゃんだ!!」
バリルちゃん?
バリルちゃんって……おれのキャラのバリル?
なんか組合の一角ですごい人ごみができている。
ちょっと覗いてみるか。
「
フム、鋭いな。
確かにおれの力は
使用用途が違うだけだからな。
間違っているのは、誰からも力を借りうけていないという点だ。
いざという時力を行使できなくなるのは嫌だし、なんか誰かの下につくのも嫌だ。ハッキリ言って縛られたくない。
「すなわち――」
考察か。
面白そうだしもう少し聞いて――。
「力を与える神の立場を利用して、普段罵倒気味のバリルちゃんを好き勝手したい」
……。
…………。
はっ! 今頭が空白になっていた。
待って、待って待って。
えっ、何の話ですこれ?
「何言ってんだお前。雑魚である人間の手でやられるからこそバリルは映えるんだろう が!」
妙に興奮した様子で演説している男の横から、別の男が口出ししている。
そしておれはいつの間にか冒険者組合から外に出ていた。
……ここなんの会場?
冒険者組合……であっているんだよな?
怪文書を語るちょいと小綺麗なネット掲示板じゃないよな?
目印の赤い旗。
他にないよな?
間違いなくここが冒険者組合のはず……。
もう一度そっと開けて……。
「はぁ、我ら同士がその程度だとは思いもよりませんでした」
なんかまた別の男性の声。
人ごみから「お前が言うな」とか「帰れ」といった野次が。
「サファイムちゃんこそ至高! 感情豊かな表情、それでいて周囲を巻き込む天真爛漫さ。全身もれなく可愛いが詰まった御身! このような娘がいるというのに、バリルなどという【メスガキ】を語るとは笑止千万!」
……
…………
………………今、あいつ。なんて言った?
集団を通り過ぎざま、おれは呪術を掛ける。
さっきバリルにその言葉を吐いてくださった男性は、千鳥足から脈略も無く崩れ落ちた。
しばらく頭だけ
誰もおれがやったということに気づいていないようだな。
おれは知らん顔で冒険者組合内を見渡した。
どちらかといえば酒場?
冒険者と思しき人達が注文を頼んでいたり、依頼を受注していたりしている。
和気あいあいとしていて陽のお手本みたいな世界。
……若干、日本のアニメ衣装に侵食されている節はあるけど。
この人たちもNPC だよな。
神彩の宝玉つけていないし。
ああ、そういえば漫画も結構普及していたっけ。
プレイヤーやNPC の反応を見た後、賞に出すかどうか決めるって魔族プレイヤーが言っていたような。
これに六魔の一角であるヤマタは、多様性に大らかすぎて独自の強みを失くした国など見るに堪えんとかほざいていたけど。
ほんと、八つも首伸ばしたやつが何言ってんだって話だよな。
窓口は全て一括しているようだ。
三つある受付から、おれは人気のない方を選んで進む。
「その……依頼……でしょうか?」
近づくにつれて受付の女性は、身なりを正しながら妙にたどたどしく対応してくれる。
何でだろう。
久しぶりに黒髪を見たような……。
おれは手を横に振る。
「いえ、冒険者登録です。何か必要な物ってありますか?」
「こちらの紙に記入していただけるだけで問題ありません。推薦状はお持ちでしょうか?」
推薦状?
そんな制度もあったのか。
妹よ、そんなものがあるならくれても良かったじゃないか。
そんな邪な考えをすぐゴミ箱に放り投げる。
そうだよな。
序盤は一から始まる。
どこのゲームでも……いや、推薦状から始まる物語の方が多いか。
早速書類に記入しようとおれはペンに手を伸ばし……パキンッ!
んっ?
……折れ……た?
えっ……ペンダントの力を抑制する効果はいずこに?
「超越者の方ですか?」
速攻でバレた。
ってそういえば、妹がプレイヤー用の道具があるとか言ってたな。
それなら誤魔化す必要もないか。
おれはリボンにつけられた神彩の宝玉を指さし、「当たりです」なんて言って笑みを作る。
またペンを砕くのも忍びないので、おれは受付の女性に頼んで書いてもらった。
「陰陽道でラナさんですね。超越者の方でも始めは E ランクからになります。まぁ、超越者ですのでA ランクなんてすぐですよ。頑張ってください」
受付の女性はそう言うと、プレイヤーの力でも壊れないケースに入れてくれた。
月をバックに、到底やりそうにない無邪気な笑みを浮かべたバリルがプリントされた可愛い系の奴。
こんなのがあるって、なんか顔が引きつってきた。
おれのバリルと瓜二つ。
この場合著作権か?
それとも人権侵害?
はたまた肖像権?
どれに当たるかなんてくだらないことを考えていると、申し訳なさそうに受付の女性が口を開く。
「あの……他に質問はございませんか? 悩みごとでも聞きますけど」
悩みごと? 質問?
あるよそんなの。
今さっきちょうどできたわ。
おれは未だ盛り上がる一角を指さす。
あっちはまだ騒がしいな。
もう解除されているというのに。
「あそこでやっている討論についてなんですけど。クソ共、六魔王って人類の敵ですよね?」
だって妹曰はく六匹の魔族がいるわけだし。
五年前だっけ? になんか滅茶苦茶やられたって聞いたし。
だから受付の女性さん。
なんでそんな首をかしげているんですか?
「えと、本当に知らないんですか? コスプレしているのに」
コスプレっていうか、本人なんだけどな。
そんなことを言えるはずもなく、おれは「ははは」と乾いた笑みで誤魔化した。
受付の女性は机を叩いて身を乗り出した。
「六魔王はそれぞれ違う漫画の主人公です! そのキャラがひとつに集まった作品をきっかけに、彼女たちは六魔王って呼ばれるようになったんですよ!」
* * *
結論、異世界が日本のミーム汚染を受けていた。
まさか六魔王が漫画コンテンツと化しているのは想像できないわ。
それも実在する奴らと性格がほとんど違うっていうな。
そして全員、もれなく女体化。
ほんと……この漫画でバリル描いた奴、覚えていろよ。
冒険者登録を終え、組合から外に出たおれは、妹に教えてもらった宿を目指す。
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