第17話 全ての謎は検視団に通ず
突如現れた三体の怪物はとうとうマスメディアやSNS経由でその存在を知られてしまった。大災害の後に現れたためにとうとうこの世の終わりではないかとまでささやかれ、今こそ神に帰依するときだとインスタント狂信者の煽り投稿がSNSで炎上したり、これは地球を裏から操る組織の陰謀だと叫ぶ陰謀論者のアカウントがスパム認定されて凍結されたりと、ただでさえ混乱極まる状況はさらに入り乱れることになった。
クロハは体にまとわりついたプラスチックの怪物の唾液をどうにか拭い去って、這う這うの体で城戸がいる避難所の方へよろよろと帰ってきた。クロハにしては憔悴した様子に城戸は驚き、思わず駆け寄る。
「ど、どうしたのクロハ!」
「くそう・・・こんなのはもうこりごりだ・・・」
ほのかに漂う油臭さと心底嫌そうな表情のクロハを見て城戸は彼に何が起こったのかはそれ以上聞かないようにした。とにかく一旦休もう、とクロハに肩を貸して避難所内に置いてあった空きのソファまで誘導し、そっと横に寝かせる。ソファの目の前にはテーブルが置かれており、そこにはボランティアが持ち込んだ簡単なラジオと非常用アンテナにケーブルが伸びているテレビ、そして一日合計一時間まで使える無線LANが置いてあった。
クロハは早速無線LANに己の意識をつないでネットの海に意識を潜らせてSNSを確認し、大衆に三体の怪物がどのようにとらえられているか確認したが、陰謀論だのディープフェイクだのこの世の終わりだの極端な意見しかTLにめぐってこない為検索するだけ無駄であった。だが、5分後に流れてきたマスメディア系のアカウントの投稿を見て、クロハは一瞬目を――正確には投稿を表示している疑似網膜を――疑った。フェイクかと思い他のアカウントの投稿も見てみたが、他のアカウントもおおむね同じ報道内容であった。
[政府、謎の巨大生命体への対策本部を設置][巨大生命体は再び動き出す恐れありと政府判断][対策本部長に3人の議員を指名][迅速なる対処を臨む 総理][3人とも環境問題対策の重鎮]
「どうなってやがる、民主主義国家にしては意思決定のテンポが速すぎるぞ・・・」
「クロハ?どうしたの?」
「城戸、ちょっとテレビをつけてくれ。」
「え?う、うん・・・」
テレビをつけてリモコンを操作し、今の時間帯に放映しているニュース番組を洗いざらい確認してみたが、やはりSNSで手に入れた物以上の情報は獲得できなかった。だが、国営放送のチャンネルを回してみた所、速報でその対策本部長に選ばれた三人の名前が表示された。
「ヒノスギ議員、ヒヤマ議員、マイク=ティック・ロプラス議員・・・すごいや、みんな環境問題を取り扱う番組やコラムやSNSのタイムラインには必ず出てくる有識者なんだ、つい最近の選挙で立候補して当選したんだよ。」
「ほーん、なるほど。ますます怪しいな。」
「え?」
すると、先ほどの弱弱しさはどこへやら、勢い良く立ち上がったかと思うとクロハは避難所を後にした。後ろから城戸が慌ててドタドタとついてくる。
「ちょ、ちょっとクロハ!どこいくんだよ!今度は置いてきぼりはなしだよ!」
二人は車に乗りこみ、アクセルを踏み込んで車を発進したのを確認して、クロハは早々に自動操縦に切り替える。どうやらすでに目的地は決まっているらしかった。
「思い立ったら即行動の考えは嫌いじゃないけど、今度はどこに行くつもりなのさ?」
「城戸、今回の件、あまりにも事が上手く運びすぎてると思わないか?」
「・・・え?」
「民主主義国家は大衆の色々な思惑が代議士を通して複雑に入り組む、だから基本的に判断が遅くてなんぼなんだ。まれに利害が一致してトントン拍子に事が進むことがあるが、それを鑑みても今回の対策本部設置や三人の議員の招集のスピードの速さは異常だ。まるで最初っからそう決められていたように・・・」
「まさか・・・クロハ、あの人たちを疑ってるの!?品行方正をそのまま人にしたような人格で、民衆からも人気が高いのに・・・」
「人気だけで政治家を選ぶのはやめた方がいいぞ、大昔ヨーロッパのある国が民衆に人気のあった演説の上手い美大落ちのちょび髭オヤジを当選させて世界中がとんでもない結末を迎えたのもう忘れたか?」
「そんな、極端な例を出されても・・・」
「とにかく、あまりにも事が上手く進み過ぎている場合は必ず裏があると思え。俺は基本的に一度疑ったものは徹底的に洗い出すのがポリシーだ。例の3人は議事堂近くの会館にいるはずだ、まずはそこへ向かうぜ。」
マニュアルに切り替えてクロハたちは3人の議員がいる会館へと急いだ。どこから彼らが出てくるのかはマスコミの人だかりが示してくれているのですぐに分かったが、クロハはすぐ近くに車を止めて、窓を外側から透視できないようにしただけで出ようとはしなかった。
「どうして出ないの?」
「顔を知られないままのほうが後々楽だ、おっ、出てきたぞ!」
会館の出入り口にむかって一斉に記者たちがフラッシュをたく。ガラスのドアを押して出てきた3人の内、一番背丈が大きくてマスクをしているのがヒノスギ、背丈が一番低く、黒髪の頭に赤い色の髪がラインアクセントとして入っているのがヒヤマで、そして、明らかに日本人の風貌ではない顔つきに、何やら色とりどりの飾りを編み込んだドレッドヘアーの人物。これがマイク=ティック・ロプラスであると、城戸が説明する。
3人は記者たちの執拗な質問にのらりくらりとかわしながら、入り口前で自分たちを待ち受けていた黒い送迎車に乗り込んだ。そして、ドアを閉めるか閉めないかと言う瞬間に、クロハの目が一瞬煌めいた。彼は疑似網膜経由でその車をほんの、ほんの一瞬だけ、彼らが持っている携帯端末をハッキングしてこちら側に盗聴できるようにしたのだ。
「へへっ、あいつら車のWIFIにスマホを接続してたから簡単に枝を付けられたぜ。」
「じゃあ、早く追いかけようよ!」
「まあまああわてるな、俺の付けた枝(盗聴素子の事)は一度付けたら少なくとも日本にいる以上どこにいても逃げられやしないんだ、下手に動き回る必要はない。」
そして、車に搭載されているコンソールの画面に半径50キロ範囲を記した簡単なマップと二つの点が表示された。点滅していない青い点は自分たちの居場所を、点滅しながら遠ざかっていく赤い点は彼らの居場所を差す。二人はそれをどこまで行くものかと眺めていたが、赤点はしばらく走ったのちにマップ座標Cの12ポイントで止まった。信号待ちかと思われたが、その後10分以上たっても動く気配がない以上そういう訳ではなさそうだ。
「ん?何でここで止まってるんだ・・・?」
クロハはコンソールを操作してその座標に当たる場所に何があるのかを調べてみる為に、簡易マップを航空写真に切り替えた上で、視点を上空から等身大視点に切り替えると、そこに写ったのはビル街のど真ん中でかなり目立っている、とてもがっしりとしたつくりの建物であった。そして、その建物の門の前に掲げられた銘板に刻まれている[公安特殊検視捜査課 本部]という文字を見て、二人は驚愕し、顔を見合わせた。
「ここって・・・嘘・・・そんな・・・」
「少なくともこれであの3人が黒、だってことははっきりしたな。しかしあいつら、今度はまた何をしでかす気だ・・・!」
どうやら、クロハの勘は的中したようだ。最も、検視団が関わっていることまでは想定外であったようだが・・・
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