お知らせに参りました
視界が白く塗り替えられたように白い。
室内なのか室外なのかすら分からない。
一歩踏み出すと片栗粉の上を歩くような感覚。
雪だ。
直感的にそう思った。
よく見れば見覚えのある景色が広がっている。
家の数より畑の数の方が多い土地と古い家。
隣の家まで雪玉を転がせば小学生の身長を超える雪だるまができるような田舎。
最近は行かなくなったおばあちゃん家だ。
雪が積もれば真っ先に飛び込んだ畑も、雪うさぎを並べた
懐かしい。まだ何にも追われず純粋に楽しかったあの頃のあの場所。
━━ああ、これは夢なんだな。
今のあの場所は開発が進み、田畑はビルやマンションや商業施設になっている。
田舎の風情のへったくれもないのだ。
おばあちゃん家も今はおしゃれな新築の洋館。
よく見ると少し離れた場所に人影が一つ立っている。
「初めましてシラセです。お知らせに参りました」
人影が近づいて来るにつれてそれが女の子だと理解できる。距離が変わっても声は同じ音量で脳に直接流し込んでいるのかと思うほどにクリアだった。
はっきりと見えるようになってレイは息を呑む。
おばあちゃん家で見た、ガラスに入った日本人形そのものだった。
ただ一つ違うのは異常に白いということ。
白髪のおかっぱに白い肌、白い着物には白で柄があり、草履まで白い。
というより、色がない。
唇も瞳も雪のように真っ白だった。
レイは得体のしれない恐怖に身を固めた。
人形なのか人間なのかも分からない女の子の透明な瞳に自分がくっきりと浮かび上がる。
状況が全くのみ込めない。
今の今まで自宅で大量の餃子を作っていたはずだ。雪なんて今の時期では山の頂上ですら降っているか怪しい。
「普通ではない状況に驚かれたと思います。でもこれは紛れもなく現実です」
やっぱりこれは白昼夢。
いつもレイは眠りが浅く、夢にまでクラクションが割り込んできて……。
そこまで考えて初めて気づいた。
クラクションがない。
ここに住んで初めての静寂。
シラセと名乗る女の子の言葉が腑に落ちた。
「大丈夫ですか?」
レイは頷き、深呼吸をする。これほどの雪景色にも関わらず、肺に入る空気は全く温度を感じなかった。
目の前でシラセも深呼吸をしている。数回その小さな唇をパクパクとさせると色のない瞳に再度レイを捕らえた。
「本日、あなたに死の予定が入りました。最短で三十秒後です」
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