レイ、餃子祭
出汁と鶏ガラスープにゼラチンを溶かして冷蔵庫に入れる。
皮は強力粉と熱湯で捏ねて休ませ、その間に肉や野菜をフードプロセッサーに放り込み、調味料とごま油を少し入れて冷蔵庫で
台に打ち粉をして生地を棒状に伸ばし、回しながら切り分ける。次は中央が厚くなるよう円形に伸ばしていく。
この時の厚みが包みやすさからモチモチ食感まで左右する。
重要な行程だ。
完成したら濡れ布巾を掛けておこう。
ブーブーとスマホが震え『農業科・畑』を表示させた。
さっきニラをくれた友達だ。
園芸サークルで意気投合し、たまに空いたスペースで育てた野菜をくれる。
貧乏一人暮らしには神のような存在だ。
だが、今応答することはできない。手は粉だらけ、電話に時間を要したら乾燥してモチモチ食感が損なわれてしまうかもしれない。
「ごめん、後で分けてあげるから許せ」
レイはスマホから目をそらし作業を再開した。
冷蔵庫から固まったスープを取り出しフォークで思い切りかき混ぜてから餡に加える。
大きめのスプーンで軽くあえると、一気に宝石のような輝きを放つ。
これを包んでいくのだが、どうも餃子らしい香りが足りない気がする。
「ニラが少なかったか?」
ちゃぶ台の上にはもう一
首を傾げながら包み、あと数個というところで今度は妙に臭い。
ネギ類の腐ったような鼻に染み付きそうな嫌な匂い。
「もしかして……」
レイには心当たりがあった。
部屋の隅に鎮座するまだ開封していない小包。一ヶ月近くいる気がする。
母直送便またの名を【
食べ物や野菜は入れないでくれとあれだけ言ったのに……絶対入ってる。
パンドラの箱を目の端に残りの餃子を仕上げて濡れ布巾を掛ける。
さて、覚悟を決めて箱に手を掛ける。直線が曲線に変わった段ボール。少し押せばユラユラと揺れる。
伝票には『お母さんより』と書いてある。
毎回思うがよくこれで宅配業者も受け付けてくれたものだな、怪しいだろ。
どこで買ったのかピンク色のガムテープを剥がすと待ってましたと口を開く。
元凶が現れた。
玉ねぎ。
潰れた場所から白くホワホワと綿毛を生やしている。幸か不幸かビニール袋に入っていたため液漏れはなかった。
レイはそっとそれを掴むと玄関から顔を出した。元々住人の少ないアパートだ、当たり前に
次の生ゴミの日まで外にいてもらおう。
もちろん近隣の迷惑にならない場所を選ぶ。トラブルはごめんだ。
捨ててもまだ少し部屋は匂った。
換気しようかとも考えたが、やっぱり寒い、食べて体が温まってからにしようと決めた。
部室から拝借してきたカセットコンロを窓辺のローテーブルに置く。
動作確認は部室で既に完了している。
青い炎がチロチロと燃える様はIH育ちには格別。炎だけ見ていても飽きない。
「ここで初めて役に立つ」
間違ってポチッとした大きなフライパンを取り出す。箱に入ったままなので数年眠っていても埃一つなくキレイなまま。
「IH対応してない物があるなんてあの頃は知らなかったからな」
初めての一人暮らし、フライパンなんて実家の大きい物が全てでそれ以外のサイズも種類も知らなかった。
新生活への夢と希望と勢いでポチッとしてしまうのだ。説明文も見ずに……。
「準備はできた」
カセットコンロの両脇にポテッと丸い餃子が並ぶ。昔おばあちゃん家で作った雪うさぎを思い出す。
我ながら上出来だ。
少し離れたダイニングテーブルではタレも白米も出番を待っている。
胸が高鳴る。
レイはカセットコンロに手を伸ばす。
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