第2章 最終話 愛しています

「……しかし、驚いたな。何か病気を持っていたのかと思ったぞ」

「ええ。お医者さんが言うには、寝不足と疲れが緊張の途切れで一気に来たらしいですが。大事がなくて何よりです」


 お父様とお母様の言葉を聞いて……私は、顔を上げた。


「あの、お父様。お母様」


 そう言うと。二人は私を見てくれた。


「……色々と、心配をお掛けしました。そして、申し訳ありませんでした」


 お父様とお母様の思いに気づけず。色々と空回りをして。


「私がもっと自分の気持ちを押し出していれば。もっとたくさん、お話をしていれば……」


 そう言うと、お父様が柔らかく笑った。


「良いんだ、凪。歩み寄る事が出来なかったのは私達の原因でもあるし。何より私が悪いのだから」


 そう言って、お父様の手が伸び……私の頭に置かれた。



 何年ぶり、だろう。お父様に頭を撫でられるのは。


 嬉しくて。視界が滲んできた。


「……あの。お父様、お母様。無理を承知で一つ、お願いがあるのですが」

「なんですか? 何でも聞きますよ、凪。貴方はもっとわがままになるべきなんですから」



 そんなお母様の言葉に私は頬が緩み。滲む視界に二人を捉えながら。


「……家にいる時は、ママとパパとお呼びして。良いでしょうか」


 そう、言った。



 昔から、そう呼びたかった。でも、最初にお父様とお母様と呼んでしまったから。言えなかった。


 二人は驚いた顔をして……笑顔で頷いた。


「ああ、もちろんだ。凪」

「是非呼んでください。その方が私達……ママとパパも嬉しいですよ」


 その言葉に。私はまた笑顔になった。


「はい! パパ、ママ!」


 それが嬉しくてニコニコとしていると。……二人は驚いた顔で私を見ていた。


 ああ、そっか。こんな顔、二人に見せるのは初めて……ううん。久しぶりだ。


「海以君のお陰、か。彼には本当に感謝しなければ」

「そうですね」


 そう言って。お父様……ううん。パパはさて、と私の頭から手を下ろした。


「凪は彼を見ていてくれ。私は先方に話を伝えてこよう」

「……ぁ」


 そうだ。縁談の事があったのに。


「お父様、私も謝罪に「凪」」


 パパが私を呼び。ニコリと笑った。


「気持ちはありがたく受け取っておく。しかし、凪を見ると相手の方が強く出ようとするかもしれないし、激高する可能性だって……ないとは思うが、ゼロとは言えない。正直に言うと、私一人の方が動きやすいんだ。被害も最小限に抑える自信がある」


 その隣に居たママも深く頷いた。


「そうですね。それが良いと思います。……ですが。近々謝罪の手紙は出して貰う事になりそうです。その時はお願いしますね、凪」

「……はい、分かりました」


 二人が言うのなら、そちらの方が良いのだろう。私が頷くと、パパが満足したように頷いた。


「それでは準備をしてこよう。凪、海以君によろしくな」

「はい。行ってらっしゃい、パパ」


 そうして、パパとママと別れて……私は蒼太君の眠る部屋に向かった。



 部屋の前には須坂さんが居た。



「須坂さん」

「お嬢様……その」


 須坂さんは少し申し訳なさそうな顔をした。……恐らくあの事だろう。


「蒼太君と私の知らないところで会っていた事、ですか?」

「……申し訳ありません」


 そう言う須坂さんに私は笑う。


「ふふ。良いんですよ。……謝るべきは私の方です。たくさん、たくさんご迷惑をお掛けしました。須坂さん。すみませんでした」


 私は頭を下げ。……また須坂さんを見て。


「そして、ありがとうございます。……蒼太君を家に招き入れてくれて。須坂さんが居なければ、蒼太君は門前払いをされていた事でしょう」

「……いえ、私はそこまでの事は」

「須坂さん」


 謙遜する須坂さんを私は呼んだ。



「こういう時は『どういたしまして』で良いんですよ」

「……どういたしまして」

「はい! ありがとうございます! これからも私達の事、よろしくお願いしますね!」

「はい、もちろんでございます……お嬢様がそんな顔をされるようになって、私はとても嬉しく思います」


 ハンカチで目尻拭う須坂さん。彼女のそんな言葉を聞いて嬉しくなって。挨拶を程々に、私は部屋に入った。


 蒼太君はまだベッドの上で眠っていた。



 私はベッドの隣に正座をして。ベッドの上に居た彼を見た。



「蒼太君」


 まだ眠っている蒼太君の名前を呼ぶ。すやすやと眠っている蒼太君は少し可愛く。愛らしい。


 そんな蒼太君を眺めて。私は言葉を続ける。


 まだ、聞こえていないはずだけど。


「大好きです、蒼太君」


 その布団に手を忍ばせ。暖かい手を握る。


 蒼太君の暖かさが、手から血管を巡るように伝わってくる。


「絶対に。絶対に幸せにしますからね」


 その顔を見ていると。

 とても嬉しく、優しく。


 そして。胸がとても痛くなる。


「こんな私ですが。……蒼太君が選んでくれた私なんです。ですから、絶対に。誰よりも幸せにします」


 ぎゅっと手を握り。眠っている蒼太君へ語りかける。


「これから先。高校生活も、大学生になっても。大人になって働いても、ずっと……ずっと、蒼太君を支えますから」


 蒼太君の手に重ねた手を一つ取り出し。蒼太君の頭へ置いた。


「……子供が出来て、子供が大きくなるのを見届けて。おじさんおばさんになって、おじいさんおばあさんになっても。ずっと、幸せにします。……そして、最期の時が来た時に。言わせるんです」


 私は蒼太君へ微笑む。



「『この世で誰よりも幸せな人生だった』と。……そして、看取って。私も近いうちに後を追いかける形になりますから。あの世に行っても、ずっと幸せにします」


 自然と暖かい気持ちが溢れ出してくる。


「……叶うことならば。来世でも、その次でも。蒼太君と出会い、一生涯を共にしたいですね」



 そして、また。幸せにする。絶対に。


 そう言っていると。蒼太君の耳が赤くなっている事に気づいた。


 それを見た私は……微笑んだ。


「愛しています、蒼太君。この世に居る誰よりも愛しています」

「……俺もだ」


 小さく、蒼太君は返してくれた。私は嬉しくなって思わず。



 ベッドに入り込んだ。


「ちょ、凪!?」

「おはようございます、蒼太君。起きて早速ですが、抱きついちゃいますね」


 そのまま私は慌てる蒼太君をぎゅっと。



 ぎゅうっと、音がなりそうなくらい強く抱きしめた。



「……もう、我慢しませんから」

 蒼太君の耳元で私は囁きかける。


「大好きだって、いっぱい伝えます。……何度も、何度でも。飽きても言いますから」

「……飽きる訳、ないだろ」


 蒼太君がもぞもぞと動き。私の方を向いた。


「大好きだぞ、凪」


 そうして、私を抱きしめ返してくれた。暖かく、落ち着く……しかし、ドキドキする空気で肺が満たされていった。



 ――ああ、私。



「幸せです。すっごく」

「俺もだよ、凪」


 そんな蒼太君の声が嬉しくて。私は幸せで胸がいっぱいになって。



 それが涙になって溢れてしまって。


「……本当に。生まれてきて、これまでの人生を過ごしてきた中で。一番幸せです」


 そう言って、蒼太君の胸に顔を埋めて。幸せを深く。深く噛み締めた。



 蒼太君の抱きしめてくれる手は暖かく、力強くて。



 上を向き、蒼太君と目を合わせ。唇を重ねれば、もっと幸せになった。



 ――何度でも、何回でも言います。蒼太君。



「大好きです。大好きなんです。蒼太君。誰よりも、大好きです」

「ああ。俺も大好きだ」


 これから先、色々あるはずだ。パパのお仕事を継ぐのかとか、他にもたくさん。



 ――でも、それが。今は怖くない。


 ――蒼太君と一緒なら、全部楽しくなる。……そして、幸せになれるから。



 そう確信して、私はまだ見ぬ未来に思いを馳せる。



「これから先も、よろしくお願いします。蒼太君」

「ああ、よろしくな」



 蒼太君の笑顔を見て。私も嬉しくて、笑顔を見せたのだった。












 他校の氷姫を痴漢から助けたら、お友達から始める事になりました

 第二章 氷姫 ??を知る <〜完〜>


―――――――――――――――――――――――


 あとがき(長くなっていますので、最後の方に要点をまとめています。苦手な方はそちらまで飛ばしてください)





「他校の氷姫を痴漢から助けたら、お友達から始める事になりました」を読んでいただきありがとうございます。作者の皐月陽龍です。


 一章と二章が終わりました。ここまで長くも短い物語となりましたが、先に一つ伝えておきます。


 氷姫、終わりません。


 本来は二章で終わる予定でした。元々この二章の最後が書きたかったんです。私。


 続く理由は一つ。



 可愛い凪ちゃんが書きたい。ただそれだけです。



 宣言します。三章以降の凪ちゃんはとんでもねえです。まだ書いてませんが。絶対とんでもねえ事になります。


 そして。凪ちゃんはその後も二度、さらに可愛くなります。攻撃力バフをまだ二度重ねがけ出来るのです。しかも永続バフ。


 ということですので、三章以降も「他校の氷姫を痴漢から助けたら、お友達から始める事になりました」をよろしくお願いします。二章のような大きな起伏のあるストーリーにはならないと思いますが。後は二人が幸せになるまでのお話です。


 あ、ですが縁談を予定してた彼。南川君は出てくるかもしれませんね。


 そして。二つお知らせがあります。


「他校の氷姫を痴漢から助けたら、お友達から始める事になりました」を一話から三十四話程まで改稿します。

 改稿する、と言っても内容を変えるとかそういう話ではありません。


 ただ少し、空行が多すぎるかなと。かなり減らす予定です。

 この作品は空行で間を表現していましたが、それだとWeb小説に寄りすぎて書籍化が難しいかもしれないと読者様から指摘を受けたので。受賞を目指すために行います。


 元々はその方が読みやすいかなと思っていました。しかし、他の作品を読んでこの作品は空行が多いなと思ったので減らしていきます。


 そして、二つ目は更新頻度が少し落ちるよという報告です。

 現在毎日投稿を続けていますが。私自身の力量が不足しており、他の作品に手が回せていません。恐らく毎日投稿から二、三日に一度の投稿になると思います。ご了承ください。ですが、これからの空気感をお伝えしたいので明日は投稿すると思います。


 お知らせは終わりましたが。後は読者様方にお礼を言いたいと思います。


「他校の氷姫を痴漢から助けたら、お友達から始める事になりました」

 嬉しい事にかなりたくさんの人に見られ、ラブコメの週間月間ランキングでも数日の間上位を取ったり。一ヶ月近くも週間トップ10に居る事が出来ました。


 過去一の伸びです。本当にありがとうございます。


 読者様への恩を報いる為の一番の方法が書籍化だと思っていますので。カクヨムコンの受賞及び書籍化を目指して頑張ります。


 という事で、三章からも可愛い凪ちゃんが見れますので! 応援よろしくお願いします!


 長くなりましたが、この辺で終わらせていただきたいと思います。


 もう一度、皆様方にお礼を。


 この作品に出会って、そして読んでいただき。本当にありがとうございました。


 これからもよろしくお願いします!






 あとがきのまとめ


 ・【氷姫】まだまだ終わりません。これからはもっと凪ちゃんが可愛くなります

 ・【氷姫】を少し改稿します。空行の調整をします。内容は変えません

 ・読んでくれてありがとうございます。これからもよろしくお願いします

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