第18話「着地点」
「ディゼル・コルネーロ子爵を伯爵に叙する」
俺はアーサー陛下からそう任命された。
手のひらの上にいるとわかってから、もとい子爵になって三年が経過した。
アーサーは若くして王位を継いだ。先代国王が病気になったからであるが、それまでも勤勉で若くして政務にも携わってきたアーサーが王位を継ぐ事に反対する重臣は誰もいなかった。
アーサーは優秀な男だ。ガルダムを眺めている以外はずっと国の事を考えている。
そして俺も戦場に何度か出ては戦果を上げてきた。
先日も二つ目の勲章を手に入れた。
アーサーほどじゃないが若くしてコルネーロ男爵家の当主となるのにあたり、元々の実家の男爵領を引き継ぎ拡大した領地に併せて同時にこれまでの功績で伯爵になった。
「ディゼル。これからも頼むぞ」
アーサーがこっそり耳打ちする。
「もちろんです。陛下」
俺はそう答えるが、アーサーは不満げだ。
「アーサー。公式の場だ。そんな顔するなよ。相棒」
こっそりそう言うと、アーサーは満足げに頷いた。
アーサーは公式の場でも友人感を出すからたまに気まずいのだ。
後で大臣に怒られるんだよな。何故か俺が。
「頼むぞ。我が友よ」
アーサーは小声で言ったつもりだろうけど響くんだよな。大臣とか絶対聞こえているよ。
怖いので俺は周囲の様子は見なかった。
盛大な拍手を受けて叙任式は終わった。
*
俺は伯爵になった。
男爵家の跡取りだった俺が今では伯爵だ。
伯爵になった今だったら大公姫を妻にしても良かったのではないだろうか。
「どうしたの。ディー?」
「メリル」
俺は妻のベロニカに話しかける。
なんだかんだで夫婦で社交の場に出る事は多い。
ベロニカ・コルネーロとしての妻の呼び名を間違えないように日々気をつけている。
反動からか、二人の時はいつものメリル呼びだ。二人きりじゃ無くてもミネルバとアンリエッタだけだったらベロニカ呼びでなくメリル呼びだ。
「ありがとう」
「……どういたしまして。……何に対して?」
俺の突拍子のないお礼に対してメリルは返してくれたが同時に疑問をぶつけてきた。
メリルには理解してもらえないかもしれないが。俺はメリルに感謝しかない。
メリルは俺のために死んでくれた。
乙女ゲームの悪役令嬢は死んだ。
メリルレージュ・ルグナスは俺が殺したのだ。
大公姫としての華やかな人生を捨ててまで俺と結婚してくれたメリルには感謝しかない。
このゲームの舞台は、俺の理想の世界になっている。
最初はどうなることかと思ったが、無事に着地することができた。
伯爵としての公務と将軍としての軍務をこなし、家に帰れば愛する妻達と子供達。
メリルとの間に跡取りの長男と長女が生まれた。長女は生まれた瞬間にアーサーの長男である王子殿下との婚約が決まったが。
ミネルバとの間にも子供が生まれた。二人だ。こちらはどちらも男の子だ。
アンリエッタは中々妊娠できずに悩んでいたようだが、二人に一年遅れで妊娠した。ようやく妊娠したらなんと三つ子だった。
そんなことを考えていた俺がボーっとしているように見えたのか。メリルは俺の頭を撫でる。
「どうしたの。ディー」
心配そうに覗き込むその表情は卑怯だ。可愛すぎる。美しすぎる。
「メリル。結婚してくれてありがとう」
「そんなこと感謝しなくていいわよ。可愛い弟の頼みだもの」
メリルの俺への愛ってなんなのだろうか。
その後もメリルの性格は変わる事は無かった。性根が腐っているとしか思えないくらい最悪な性格だった。そして俺のだけはずっと優しかった。
乙女ゲームの悪役令嬢メリルレージュ・ルグナスは性格最悪のままだが、弟分の俺にだけ優しいのだった。
乙女ゲームの悪役令嬢は性格最悪のままだが弟分の俺にだけ優しい @kunimitu0801
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