第14話「攻略対象」

 マイネームイズ、ディゼル・コルネーロ。

 ヴェルザード王国貴族。コルネーロ男爵家の跡取りだ。

 そんな俺は貴族の跡取り息子としてありえない行動を取った。

「アーサー・ヴェルザード。剣聖として貴殿に決闘を申し込む」

 俺はヴェルザード王国の第一王子にして王太子であるアーサー・ヴェルザードに決闘を申し込んだのだ。

 舞台は闘技場。

 そこにはだれもいなかった。俺とアーサー二人きりだ。メリルもいなければアーサーの護衛のキャロットもいない。

 そんな場所で次期国王に剣を向ける下級貴族の跡取りが一人。我ながらありえない状況を生みだしたものだ。

「いきなりどうしたんだい。ディゼル」

 アーサーは困ったようにそう尋ねて来る。

 向こうもきっと俺の行動が常軌を逸していると感じているのであろう。それを攻めるよりは純粋に友人として心配してくれるように見える。本当にいい奴だ。我が次代の王は。

 だが、それでも俺はやらないといけないのだ。

「貴殿から奪いたいものが一つだけある。そのために決闘を申し込む」

 言葉の通りアーサーから奪いたいものがある。

「何が望みだい?」

 アーサーは真面目な表情になってからそう尋ねてきた。

「貴殿の婚約者。メリルレージュ・ルグナス公爵令嬢を私に譲ってもらいたい」

 そう。俺の望み。それはメリルを俺の嫁にすることだ。

「メリルレージュを?」

 そんなことを言われるなんて全く思っていなかったのだろう。アーサーがそう呟いた。

 それから少し考え込んでから、アーサーが再び口を開いた。

「君の望みはわかった。ディゼル。メリルレージュを賭けろと言うが、婚約者を賭けて負けたら私の面子は丸つぶれだな。そこまでのことだ。君は代わりに何を差し出すと言うのだい?」

 アーサーの指摘は至極まっとうなものだ。

「何もない!」

 俺ははっきりとそう答えた。

「私にはメリルレージュ様に見合うだけのものを持っていない。だから負けた時に貴殿に差し出す対価を持ちあわせていない」

 素直にそう告げた。メリルに釣り合うようなものを俺は持ちあわせていない。

「そう思っているのならば何故決闘を申し込むのだい。受けなければ私との友情を終わらせるとでも言うつもりかい?」

「それも考えた」

 だが、それは本当に最終手段だ。そんなことはしない。

「決闘を申し込むに当たり、メリルレージュ様に見合うだけのものは用意できませんでしたが、その代わりに貴殿が決闘を受けているであろう対価を見つけたからです」

 そう言って俺はある物を取り出した。

「そ、それは?」

 アーサーの顔が驚愕の表情になる。決闘を申し込んだ時よりも驚いている。

「これがわかりますか?」

 そう言ってさらにそれをアーサーに近づける。

「まさか。幻の……Cガルダム」

 アーサーは正解を口にした。

「さすがです。その通り」

 俺が出した対価。

 先日遺跡から発掘したCガルダムだ。

 アーサーはA~Gまでのほとんどのプラモを所持しているが、Cだけは持っていなかった。

「アーサー殿下。決闘を受けてくれますか?」

「受けよう」

 即答だった。

 メリルの対価がガルプラなのに、と言う気持ちもある。自分でやっているくせに、その事にイラっとしたものの、これで勝負する事が出来る。

 だが、ここでいきなり勝負するつもりはない。

 俺は今すぐ勝負になってもいいように準備しているが、アーサーは俺に急に呼ばれたばかりだ。

 さすがにこれでいきなり勝負しろというのは卑怯すぎる。

 ではどうしてわざわざこんなことを闘技場で伝えるのか。

 それも一応理由がある。闘技場まで呼んだのは、そうしないと意思が変わりそうだからだ。

 次期国王にこんな事を言う。本当にどうかしている。実はさっきから心臓がやばいくらいバクバクしている。

「いきなり呼び出して勝負はさすがに卑怯ですので、貴殿の準備ができ次第お相手願います」

 ここでは王子と貴族跡取りではなく、同じ剣聖同士として話している。

 それでもこれだけで立派な不敬罪ものだが、そこはアーサーの友情に賭けた。

 さらに、Cガルダムを欲しているアーサーは絶対に乗って来ると思った。

 この企みのせいでアーサーには大変な目にあわせてしまう。

 そこだけは申し訳ないが、それでも俺は、メリルが欲しい。

「その心づかいは不要だ。今でいい」

「えっ?」

 アーサーの言葉に思わず聞き返した。

「ディゼル。いや、ディゼル卿が宜しければ今すぐ戦おう」

 こんなこともあろうかと万全の準備で来た俺だ。

「本当によろしいのですか?」

 俺は念のため一度聞き返す。

「次期国王に二言は無いよ。ディゼル卿」

 男だ。

 アーサー・ヴェルザードは素晴らしい男だ。

 男に二言は無い。言い方は違うがたしかにアーサーはその旨の発言をした。

「早くそれをコレクションに加えたい」

 あっ。本音が出た。

 男だと思っていた発言だが、単純にガルプラが欲しかっただけだった。

 だが、これはこれで計算通りだ。

全てが俺の理想通りに進んでいる。

「それではお相手をお願いします」

 すまない。アーサー。俺が勝ってもCガルプラは渡す。

 俺は剣を構えた。

 アーサーも剣を構える。

「行くぞ。ディゼル」

「来い。アーサー」

 アーサーとの戦いが始まった。


          *


 戦いは一分も立たずに終わった。

「私の勝ちだ。ディゼル卿」

 俺はあっさりとやられてしまった。

 攻略対象の筆頭アーサー王子。

 俺みたいなモブ転生者とはケタ違いの実力を持っていたのだった。

 アーサーは俺に何も言わずに、そのままCガルダムを持って立ち去った。

 俺はそのまま一人きりになった闘技場で倒れたまま涙を流していた。

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