第8話「ファーストレディ」
最大の敵に出会った次の日。俺は夢精してしまった。
*
「ディー。いつまでそうしているつもり?」
メリルがあきれ顔で俺にそう語りかけてきた。
今日、俺は夢精してしまった。
それもルグナス公爵家の屋敷にいる時の出来事だ。
さらに俺を起こしに来たメリルが第一発見者となる。
その後、第一発見者のメリルは「ディーが精通したわ」と屋敷中に言いふらし、何故かそのままお祝いされて今に至る。
はっきり言ってこの上なくとっても恥ずかしかったのだ。
「もう生きていけない」
「大袈裟よ。男ならみんな通る道なのだから恥ずかしい事は無いわ。いい加減に機嫌を直しなさい」
「……機嫌が悪いわけじゃない」
落ち込んでいるだけだ。あとメリルが大袈裟にみんなに言いふらさなければこんなことになってないのにとはさすがに言わないが。
「もう、大人になった証なのだからいいじゃない」
メリルに後ろから抱きしめられた。
十三歳ながら、すでに胸は膨らんでいるメリル。
その胸の感触とか、甘い匂いとか。正直ムラムラする。
ただでさえ美少女なのに、十二歳の俺からすると年上の魅力的な女性なのだ。
「それにしても、ディーに経験積ませないと。ファーストレディは誰がいいのかしら?」
そんなメリルの呟きでちょっと冷静になる。なんか聞いたことあるような聞きなれない単語が聞こえてきたからだ。
「ファーストレディ?」
俺はそう聞き返した。
「そう。初めての相手は重要でしょう」
「どういうこと?」
ちょっと理解が追い付かない。
「あら、ディーはファーストレディのことを知らなかったのかしら」
「いや、その」
単語を知らなかったわけではないが。
俺が知る「ファーストレディ」とは、アメリカの大統領夫人のことだ。もっと別の意味があったかもしれないが俺の認識ではそのくらいだ。だからこの場面でその単語が出てきたという事は、この世界では別の意味を持っているのではないかと思って返事がごもってしまった。
「ファーストレディって言うのはね。貴族の男子にとっての初めての女のことを指すのよ」
俺の知っているファーストレディと全然違った。
「それにしても参ったわね。うちは大体お兄様達の手つきだし」
メリルは考え込んでいた。
「ねえ。ディー。コルネーロ男爵家の屋敷には年頃のメイドはいないの?」
「いないよ」
俺は即答した。
我が母は貴族の令嬢とは思えないくらい夫を縛ろうとする。
伯爵家で双子の妹として生まれた我が母。
ルグナス公爵家に嫁いで側室と妾を何人も認めている姉とは違う。
夫を自分で独占したいが故に、年頃のメイドを全て追い出してしまった。そのため、コルネーロ男爵家には年頃のメイドさんがいないのだ。
「うちのメイドは駄目ね。どの子がどのお兄様達のものか決まっていて所有者以外は手を出しちゃ駄目な決まりなのよ」
メイドを所有物呼ばわりする悪役令嬢。
それは今更だがメイド達を所有権決めているようなルグナス公爵家のシステムにびっくりした。
「新しい子を入れてもすぐに誰かが手を出しちゃうからやっぱりうちは無理ね」
ルグナス公爵家にお世話になって十二年だがとんでもない事実を知ってしまった気がする。長男も次男も三男も俺にとってはいい兄的存在だったのだが、これを機に見方が変わってしまったかもしれない。
「本当にどうしようかしら」
俺の混乱をよそに、俺の筆おろしの相手に俺じゃ無くてメリルが悩む。なんか変な光景だ。
「私が相手してあげたいところだけど、さすがに純潔でいないといけないから駄目ね」
心臓が破裂しそうなくらいドキッとした。
なんて発想だ。
メリルは王妃になる存在。
キスは良くても純潔ではなくてはならない。
純潔でなくてもよかったなら相手してくれたのか。
すごいドキドキしていた。
「こうなると癪だけどあの女にいて欲しかったわね」
「あの女とは?」
どの女だろうか。俺はメリルに尋ねた。
「フィロよ」
我が師匠の名前が上がった。
「フィロ先生?」
「そう。ディーの事可愛がっていたから頼めばやらせてくれたわよ」
公爵令嬢が「やらせてくれたわよ」なんて口にしてはいけない気がするが、ツッコミどころはそこではなかった。
「未亡人で条件はうってつけの相手だったのに。屋敷にとどめておけばよかったわね」
メリルは過去の事を後悔しているようだった。
でもあのままフィロが残っていたら、今日を迎える前にメリルに殺されていた気がする。
「あの子達も駄目ね」
「あの子達とは?」
俺は再びメリルに尋ねた。
「ティゼとミネルバとアンリエッタよ」
最近仲良くなった友人達(メリルの下僕達)の名前が上がった。
たしかに彼女たちならメリルが命令すれば聞くだろうが。
「ミネルバは豚だし、アンリエッタは顔面気持ち悪いし」
メリルがすごく遠慮なく二人をディスっている。
まあたしかに俺も「ミネルバとアンリエッタを抱いていい」と言われてもできる自信が正直ない。
容姿で決めるなんて最低な事だとわかっているが、容姿で考えるならティゼしか思いつかない。
「ティゼも駄目ね」
「なんで?」
ディゼは見た目も可愛らしい少女だが、なにか駄目な点があるのだろうか。
「ディーは知らないかもしれないけど、ティゼは性格最悪なのよ」
「そうなのか?」
そんな風には見えなかったし、ゲームだとただの取り巻きとしてのシーンしかない。
たしかにティゼの性格がどうだったかゲームではわからない。
「だからいずれ手込めにしてもいいかもしれないけど、今は止めなさい。ティゼをファーストレディにすることは弱みを見せる事になるわ」
「わ、わかった」
俺はそのまま頷いた。
「初めての相手には弱みを見せる事になるからね。私が用意してあげるから待ってない」
俺の初体験どうなるのかなと思いながら、そのままメリルの体温を感じながら抱きしめられていた。
あとで詳しく聞いた事だが、「ファーストレディ」とは精通した貴族の男子に性行為の手ほどきをする相手を指すそうだ。
身近な未亡人が相手になる事もあれば、自身も経験のない処女が経験者にやり方を説明されてから手ほどきを行うケースもあるという。大抵は年上の女性になるそうだ。
そんな中、ルグナス公爵家の男子は絶対ではないがほとんどが自分と同世代の世話役のメイドに手を出すそうだ。という聞かなくてもよかったと思う情報まで知ることになるのだった。
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