第7話〈ある事実〉
日を跨いだ頃、月折夕都のアパートの部屋にて。
貴一は、神無殻の二人と室内を確認していた。
これといって目新しいものは見つからず、眉をひそめた司東に注目する。
実は何を探しているか、いまいち分からなかったのだが、月夜からは、気になるものがあれば声をかけるように言われたので、否応なしに従っていたのだ。
司東が月夜に向き直り顔を振る。
月夜は顎に手を当てて俯いた。
「やはり、こんゆうちゃんは、彼らに攫われたのでしょうね」
顔を曇らせた様子を見つめていた貴一は、こんゆうというのは、夕都の愛犬であると理解して心配したが、首を傾げつつ尋ねる。
「あの、どうして犬を攫うんですか? それに、あの子は部屋を荒らした犯人と関わりがあるのでしょうか?」
貴一の質問に対して、二人が顔を見合わせて頷きあう。
荒れた部屋のドアをしっかり施錠した上で、司東が貴一をソファに座らせて、見下ろされる形となる。
隣には月夜が並ぶ。二人の身長差は大人と子供といった風体なために、傍から見るとなんとも和む。
二人が真面目な顔をしていなければ、うっかり笑いそうだ。
貴一は顔を振り、咳払いをしてから居住まいを正した。
祖父に厳しく躾られたのもあり、おふざけは、顔にはおくびにもでていないだろう。
司東が神妙な面持ちで口を開いた。
「月折夕都の部屋を荒らして、愛犬を攫ったのは、恐らく冨田の差金だろう」
「え? どうして……」
何故、冨田が夕都を狙うのだろうか。
まさか愛犬を攫ったのは、夕都を脅すつもりで……視線を彷徨わせていると、月夜になげかけられる。
「貴一くん、夕都さんの事は知ってますよね」
その口ぶりには、確信が込められていたので、素直に頷いた。
まだ貴一が中学生の時に、神田明神でなんどか見かけていた。
その時に一緒だったのが、数人の子供達と……司東だったのだ。
貴一は司東を見据える。
神無殻と佐伯一族は縁深いために、祖父も顔見知りである。
茉乃と逃げていた際に、神田明神でよそよそしくしていたのは、夕都の様子を訝しんでいたからだ。
司東を知らない様子だったので、記憶をなくしているのだと悟った。
貴一は、夕都とは顔を合わせたのことはないので、知らないと言われても不思議ではない。
――司東さんと、夕都さん、仲良さそうだったのに。
押し黙るしかなくて、冷や汗が背中を伝うのを感じる。
月夜が言葉を続けた。
「実は、こんゆうちゃんは、私達から夕都さんに渡るように仕向けたんです」
「え?」
「首輪には、小型カメラをしかけている」
「はい?」
月夜と司東に交互に説明されるが、その内容に声を上げてしまう。
目を見開いて憤った。
「犯罪ですよ!?」
堂々と盗撮をしている事実を、良い大人に宣言されてしまい、戸惑うのは仕方ないだろう。
貴一の荒い語気を聞いた二人は、正反対の反応を示す。
「奴を守る為だ、問題はない」
「まあ確かに。あまり良くはないですよね」
片方は泰然として悪びれず、片方は顔を赤らめて舌を出す。
性格の違いが如実に出た二人に対して、小さく唸る。
――人を守るために盗撮せざるおえないって?
どのような状況なのかと思考を巡らせる貴一に、さらに司東の告げた言葉が疑問を抱かせた。
「夕都と冨田には、因縁がある」
「因縁?」
貴一は、司東を見上げて口を開いて固まる。
脳裏には、かつての夕都と、あの子供達が蘇り、その子供の一人が、先程シャワーで司東を攻撃していた子供と似ていると認識した。
ある予感に鼓動が早まる。
思わずあっと声を上げた。
合点がいった貴一に、月夜が厳しい顔つきで言った。
「夕都さんが一緒にいたあの子は、冨田氏に狙われているんです、それに、茉乃さんのお兄さんも関わっていると思います」
「……茉乃さんの、お兄さんも」
貴一は瞳を伏せた。
またしても、茉乃の兄がからんでいる。
その事実に、唇を噛み締めた。
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