大文字伝子が行く76

クライングフリーマン

大文字伝子が行く76

午前10時。大阪。南部興信所。本庄弁護士が来ている。

「やっと、終わりましたか、先生。」「南部興信所のお陰ね。なかなか尻尾を出してくれないから、困っていたの。これで、奥さんも新しいパートナーとやり直せるわ。」

「そうですか。そりゃあ良かった。」「ところで。」

本庄弁護士は、手をかざし、ひそひそ話モードで言った。「交番の巡査でテロリスト候補がいるんですって?」「誰からそれを?」「あなたの奥さんから。」「あいつ、しゃべりやなあ。大文字さんから。極秘で調べるように言われているのに。浮気調査のついでに、おかしな行動の巡査がいたらEITOか警察に連絡をするようにと言われたけど、今の所、見つかっていません。」

「もう、キーワードどころじゃないわね。いつどこで犯罪が起こるか分からない。しかも、犯人がお巡りさんなんてねえ。住みにくい世の中ねえ。」「先生が、それ言いますかねえ?」

「じゃ、次の仕事お願いしますね。」と、本庄弁護士はファイルを置いて帰って行った。

所員の幸田と総子が帰ってきた。「只今ああ。あー疲れた。はい、写真。」と総子がカメラを南部の机の上に置いた。

「どうやった?幸田。」「用心深い奴でねえ。お嬢が、尾行を気づかれたんとチャウかって言うさかい、往生しましたわ。」「でも、結局、首尾上々やで、ダーリン。」

「こら。会社では所長って言わんかい。幸田も『お嬢』やないやろ?南部社員って言わんかい。」

「はーい。」と二人は報告書を書きに自分の机に戻った。

「巡査なあ。気イつけてて言われてもナア。」と、南部はため息をついた。

午前11時。大文字邸。『正面』玄関。江南が犬のジュンコを連れ、散歩から帰ってきた。

「只今あ。」「お帰り、江南さん、ジュンコ。」江南と高遠はマジックミラーの陰から家の内部に入った。『どんでん返し』が分かりづらいように、EITOが設置したものだ。

リビングで待っていた伝子がジュンコにおやつを与えた。その後、江南は中庭にジュンコを連れて行った。

EITOの部屋からアラームが鳴った。伝子と高遠は移動した。理事官が画面に映っている。

「おはよう。大文字君。高遠君。越後巡査は残念だった。草薙によると、ネットカジノで大分借金があったようだ。目の前に札束を積まれて、言いなりになったという訳だ。消去法で、日本民族で、職務に熱心でなくて、金の出入りが激しくなった者をピックアップしても、誰が何をしでかすかまでは予想がつかない。ただ、公安は目を付けて監視していたようだ。所謂サラ金に手を付けたことは確認出来ていた。それと、中山ひかる君と南原蘭君の誘拐だが、『カップル誕生!』の映画について感想を聞かせてくれ、と交番に誘って拉致したらしい。パンフレットを持っていれば、観に行ったことは明白だからね。」

「交番や駐在所の数は、お地蔵さんの数よりは少ないけれど、まっとうな巡査と、そうでない巡査の区別はつきにくい、という訳ですか。プロファイリングは、どうなんですか?理事官。」と高遠は尋ねた。

「後手に回ったことは確かだ。これは詫びておこう。すまなかった。」と、理事官は頭を下げた。

「その代わり、と言っては何だが、松林警察署管内の駐在所の巡査、合田悦治巡査が、不審だと公安から報告が上がっている。プロファイリングで、犯行を未然に防げるかどうかは分からない。追って連絡する。それから、DDバッジの申請の件だが、中山ひかる君に関してのみ発行が許可された。君たちの後ろにいる警視に報告を受けてくれ。」

画面は消えた。確かに後ろに渡辺あつこ警視はいた。「今、渡してきたわ、おねえさま。何かお腹すいちゃった。朝食食べ損なったから。」

「それって、僕に要求してる?警視、フレンチトーストでいい?」「サンキュー、高遠さん。」高遠は台所に移動した。

「あつこ。愛宕の様子はどうだ?」「来る前に寄ってきたけど、かなり落ち込んでいるみたい。越後とは親しかったみたいだから、しょうがないわね。」

「いつ誰がテロリストになるか分からない世の中だからな。依田に言って、『励ます会』でもやるか。名目は『焼きそばを試食する会』とか何とかでこじつけて。」と、伝子は腕組みをして言った。

「そうね。あ。明後日、高遠さんの誕生日だったわ。」

「よく知ってるね。調べたの?警視。」と高遠が尋ねると、「私を誰だと思ってるの?警察では『偉い』部類なのよ。仲間の誕生日は全部把握済みよ。」

「あ。」「なんだ、学。」「ひょっとしたら、ヨーダのこと依田君って言っているのは、誕生日の区別?」「そうよ。私の方が先に生まれているから。愛宕君も、同じ条件ね。」

「じゃ、愛宕さんは身分での区別じゃないんだ、警部補より警視の方が偉いからって思っていたけど。」「何か問題なのか、学。」「いや、前に福本が不思議がっていたから。単純明快だね。」

「つまらん。」と言って、伝子はテレビを点けた。ニュースをやっていたが、「臨時ニュースです。大阪市阿倍野区交番で爆発事故があり。勤務していた隠岐巡査が殉職しました。警察ではテロ事件とみて、EITOと協力体制で捜査を開始すると発表がありました。」と報道していた。

伝子がテレビを消すのと、EITOのアラームが鳴るのと同時だった。

「理事官。大阪の事件ですか?」「うむ。一佐と警視連れて飛んでくれ。昼飯食べてからでいいが。」

画面は消えた。「伝子さん、カレーライスでいい?」と、高遠は確認した。

午後2時。大阪。阿倍野区夕陽丘署。花菱刑事が、総子に言った。「興信所は関係ないやろ。大体、ウチのヤマやで。」

そこへ、本庄弁護士と、大阪府警の横山刑事がやって来た。

「花菱刑事ですね。府警の横山です。あなたの相棒になりました。どうぞよろしくお願いします。」と横山は花菱に握手を求めた。花菱は渋々握手をした。

「ああ。横山さん。こいつら興信所の調査員が突っ込んで来て困るんですわ。部外者立ち入り禁止ですよね。」と、花菱は横山に応援を求めたが、本庄弁護士が「南部興信所は、EITOの調査を手伝って貰っている興信所の一つです。ああ。ご登場ね。」と言った。

制服姿のあつことエマージェンシーガールズ姿の伝子となぎさがやって来た。

警察手帳を見せながら、あつこは「副総監直々の命令です。警察はEITOと協力してテロリスト事件の解決に向かえ、と。」と言った。

「そういうことです、花菱さん。我々は我々の得意分野、例えば聞き込みなどをして協力連携して行きましょう。ですよね、警視。」「その通りです。」あつこは深く頷き、伝子となぎさに「よろしいでしょうか?EITOの行動隊長さん、副隊長さん。」と言った。

「結構です。」と伝子は言った。

午後3時。署に捜査本部が置かれ、あつこは本部長である署長の補佐として座っていた。

「本件は自爆テロの可能性が高い。時限装置は見つかっていない。それと、今、警視庁から連絡があった。東京都の練馬区松林警察署管内の駐在所の巡査、合田悦治巡査が爆死した。こちらの事案の10分後のようだ。」「同時多発テロということですね。」

署長の発言に副所長が追随した。

伝子が立って説明を始めた。「那珂国マフィアは、まるで将棋かチェスの駒のように、じわじわと我々の生活を脅かしています。今までは、我々が極秘に手に入れたキーワードをヒントにテロを未然に防いで来ましたが、その駒を事前にばら撒き、好きな時に実行させています。実行犯は、卑劣なことに警察官です。駐在所や交番の巡査です。」

なぎさがホワイトボードにすらすらと書いて、説明を始めた。伝子は座った。

「パターンは3つ。1番目は、出自が在日または親族が在日の那珂国人。消去法で約200人います。公安の監視対象ですが、今のところ、動きはありません。祖国の命令で、日本人壊滅の手助けをする可能性のある者。しかし、帰化して日本人の警察官として立派に日夜職務を遂行する者が殆どだと思います。日本を裏切る行為は、あくまでも可能性の問題です。むしろ、2番目のパターンの方が多いと思われます。2番目のパターンとは、借金または弱みを那珂国のスパイに握られ、言われるが儘に行動することです。先日、東京のあるモール近くの交番勤務巡査が借金につけこまれて、誘拐事件を起しました。陽動作戦に対処すると共に我々がテロを未然に防ぎ、誘拐された者も救出しましたが、自暴自棄になった者は、何をしでかすか分かりません。」

「2番目のパターンは、借金の洗い出しが出来れば、防げる可能性もあるのでは?」と、捜査員の一人が言った。

「おっしゃる通りです。EITOは警察の協力の下、不審な預金の出入りも洗っています。また、ネットの書き込み等で企みが露見する場合もあるので、常に調査しています。それでも、氷山の一角かも知れませんが。」と、伝子が応えた。

なぎさが説明を続けた。「3番目のパターン。これは、かつて『イスラム国』を名乗る集団が暗躍した時に、感化されあるいは洗脳された若者達がいたのですが、それに近い条件です。詰まり、那珂国の思想に同調した者が行動を起した場合です。これも、ネットで痕跡が残る場合もそうでない場合もあります。予測が困難です。」

「じゃあ、2番目のパターンの一部しか追えないじゃないですか。」と、花菱刑事が言った。

「おっしゃる通りです。」と、今度はあつこが言った。「我々の捜査は後手後手に回る可能性が高い。だが、地道に進むしかないと思います。」

「では、班分けをしよう。まず、東京の事案と関連がありそうだから、上京して連携捜査をする班、今回の巡査が拘った事件を洗い出して怨恨の線で捜査する班、巡査の交友関係で捜査する班、ギャンブル等で拘っているか捜査する班、後は待機班だ。」と、本部長である署長がまとめた。

南部興信所は、交番近くの評判と、ギャンブル捜査を受け持つことになった。

あつこの推薦で、積極的に参加することになった。

午後4時。南部の自動車車内。

「花菱刑事は不服そうやったな。」と総子は南部に言った。「東京出張でおらんようになったから、丁度ええやないか。先に下野京子に会いに行くで。」

下野京子とは、南部興信所が調査していた、大月明日菜の旦那の浮気相手と見られた相手で、交番の入っているビルの上の階の住人だ。爆発事件の際は友人宅にいて、難を逃れた。自宅にいたら、巻き添えで丸焦げになるところだった。

下野の友人、鳩山松子の家。

「そうですか。『女房やくほど亭主もてもせず』ですな。ところで、奥さん。ラッキーでしたな、交番の爆発に巻き込まれずに。あの交番の巡査のことで、何か知っていたら、教えてくれませんか。」と、南部は柔らかい口調で言った。

「奥さん。浮気の『えん罪』晴れたことやし、何か知ってたら教えてくれません?」と総子が畳みかけた。

「そおやなあ。隣の駅の前のパチンコ屋でおうたことあるわ。私服やから、初め気イつかんかったのよ。恥ずかしそうに、指を口に当ててたわ。」と、彼女は笑った。

下野京子と分かれた南部は、幸田に電話し、首尾を伝え、「その駅前にパチンコ屋と碁会所とマージャン屋があるやろ。聞き込みしてくれ。」と指示した。

ついで、捜査本部に連絡した。「そうですねん、警視はん。ネットどころか、アナログの賭け事で化けの皮剥がれそうです。部下に、他のギャンブルも当たらしています。」

「ご苦労様です。」と、オンにしたスピーカーから、あつこの声が聞こえた。

午後4時半。東京。松林警察署。捜査本部。署長の隣に久保田管理官が座っていた。

そして、その隣には、EITOを代表して副島と増田がエマージェンシーガールズの姿で、警察を代表して結城と早乙女が警察官姿で座っていた。

「まず、合田悦治巡査が爆死しましたが、時限装置は見つかっていません。遺書等は見つかっていませんが、自爆したものと判断しています。大阪の事件と、ほぼ同じ時刻なので、関連を調べて行く必要があります。交番の評判、交友関係等を当たる必要性がありますが、テロの可能性もあるとEITOでは見ています。隊長代理、説明を。」

久保田管理官に指名され、副島は打ち合わせ通りに返答した。

「実は先般、未然に防ぎましたが、自爆テロ未遂の事件がありました。もし関連があるとすれば単なる自爆ではなく自爆テロです。現にご近所が巻き添えの火災を起しています。大きな組織が背景にあると考えられます。その場合、まだ事件が続く恐れがあります。できれば未然に防ぎたい、というのがEITOのスタンスです。」

捜査員の一人が手を挙げて言った。「では、第3の自爆テロ事件が起こると?テロと言うと、もっと大規模な犠牲者が出るような印象ですが、大阪の事件も本件も交番や駐在所の付近の被害だけですが・・・。」

「日本の警察の失墜、それが背景組織の狙いかも知れません。今のところ、私見ではありますが。」と久保田管理官が言った。

午後6時。警視庁。久保田管理官の管理官室。副総監が来ていた。「背景組織のことは、まだ言わない方が良かったかもな。リークが好きな警察官もいるだろうが。」

「それが狙いです。」「揺さぶりかな?」「はい。」

「揺さぶりが効くかどうかはともかく、公安がマークしていた巡査が動きました。夏目の調査によれば、福島県のダイナマイト工場で紛失したダイナマイト。半グレを通じて購入した巡査がいます。港区の交番の小杉巡査ですが、200本購入したようです。」と久保田管理官が副総監に言った。

「何か企んでいるな。小杉の身辺調査は?」「今、中津興信所がやっています。」

「大文字君には?」「結城警部から連絡させてあります。」

翌日。午前10時。2つの捜査本部に、反社と半グレの抗争がある、という『たれ込み』があった。伝子達は、急いでオスプレイに乗って帰京した。

午後1時。ABC埠頭。小堺組と漆山商会がヘロインの取引にやって来ていた。

小堺組が、ヘロインのジュラルミンケースを見せた。漆山商会はジュラルミンケースを出したが、中は機械だった。漆山商会の社員が、近くにあった、トラックのシートを外した。トラックには、10人の制服警察官である巡査がダイナマイトを巻き付けられ、縛られていた。

「どういうことかな、漆山さんよ。」と、小堺組組長が言った。

「なあに、保険さ。そのヘロインが偽物だった場合、このトラックを自動運転で走らせる。どこかにぶつかれば、振動で引火して、どかんだ。」

「ほう。じゃあ、本物だった場合はどうなる?」「このトラックを走らせた上で、援軍にあんたらを殺して貰う。そうそう。このトラックには、あんたらがやった『みたいな』証拠がゴロゴロ。」那珂国人の一団が顔を出した。

小堺組組長の小堺新一は「何が出るかな?何が出るかな?と思っていたら、大した仕掛けだな。じゃあ、こっちも援軍を呼ぶか。」と笑った。

そして、長波ホイッスルを吹いた。長波ホイッスルとは、犬笛に似た、特殊な音波で、単純な合図を送る為の通信手段だが、普段はEITOのエマージェンシーガールズやDDバッジを持つ者が使っている。EITOに送られた電波を合図に、オスプレイが到着することになっている。

忽ち、2機のオスプレイが到着した。ある者はオスプレイからスカイダイビングをして降り、ある者は縄梯子を通じて降りた。エマージェンシーガールズが散会した。

漆山がジュラルミンケースのスイッチを入れようとした時、あかりのシューターが漆山の手に刺さり、漆山は身動き出来なくなった。

そして、ジュラルミンケースは、金森の投げたブーメランで弾きとばされた。

スカイダイビングで降りて来た、なぎさが走って来た結城にパスし、結城は機械を使用不能にするために、ペッパーガンで撃った。ペッパーガンとは、主成分が胡椒の調味料で出来た弾を撃つ銃で、普段は敵の鼻孔を攻撃することで動きを封じるものだった。

「くそっ!誰でもいいからやっちまえ!!」漆山の合図で、半グレと那珂国人達は、小堺組とエマージェンシーガールズに襲いかかった。

あつこは、大町、馬越、金森に手伝わせ、巡査達のダイナマイトを解体していった。

なぎさ、伝子、みちるは、トンファー、三節棍、ヌンチャクで半グレと那珂国人のみを倒して行った。

200メートル離れた所に駐車している自動車があった。副島と安藤が、乱闘の場所とは違う方向から、その車のタイヤに矢を放ってパンクさせた。そして、ペッパーガンとシューターを持ち、エマージェンシーガールズに加わった。闘いは1時間でケリがついた。半グレと那珂国人達は地面に転がっていた。

パンクした車の窓を叩く制服警察官がいた。青山警部補である。「ここ、駐車違反ですよ。」

警官隊のパトカーや護送車がやって来て、次々と那珂国人と半グレを逮捕連行していった。

久保田警部補がやって来た。そして、小堺に近づいた。小堺は言った。「旦那の言った通りでしたね。遠山達から聞いていたから協力した。確かに、とんでもない奴らだった。借りは、いつか返して貰いますぜ、旦那。」そして、部下に顎をしゃくってヘロインのジュラルミンケースを久保田警部補に渡した。ついで、長波ホイッスルも久保田警部補に返した。

小堺組は、自分たちの自動車で帰って行った。

久保田警部補は青山警部補に近づいた。自動車に乗っていた女は、青山警部補に逮捕され、何やら那珂国語で喚いていた。愛宕が、おもむろに、翻訳機を出した。

<<お前ら日本人は、いずれ祖国に占領され滅ぼされる。そして、犬になる。>>

久保田警部補は、女を平手打ちし、こう言った。「『おしらす』でも、同じことを言え、生島悦子。いや、ハン・悦子。警察の研修に潜り込んだ時から洗脳していたとはな。お見事だったよ。日本語で研修するインストラクターが日本語知らない筈はないだろうが。」

午後4時。大文字邸。

EITOの部屋のアラームが鳴ったので、伝子と高遠は移動した。

「研修ですって?」と伝子から理事官に尋ねた。「うむ。大阪の巡査はギャンブルにつけ込まれたと分かったが、松林警察署の巡査は怪しいところが無かった。公安はマークしていたが、考えすぎだった。違う視点での捜査が必要と言っていたところ、5年前のテーブルマナー研修のことが浮上した。2件の巡査もトラックの10人の巡査も研修に参加していた。研修は不評だったから1回切りだったが、提案したのは副総監だった。もっと早く気が付くべきだったと、反省しておられる。」

「すると、何らかのキーワードで洗脳された巡査への指令が動き出した。大人しく捕まった巡査達は、どうなるんですか?」「洗脳から解放されるには。専門家による治療が必要だ。あ、それから、タレコミは久保田管理官がやった。その前に小堺が久保田管理官に相談したんだ。怪しい取引があるんだが、と。遠山達のことがあったから、慎重になっていたんだな、小堺も。」

二人は消えた画面をじっと見ていた。やがて、二人は吹き出した。

「テーブルマナーだって。今時、フォークとナイフの使い方教わってもナア。」と伝子は笑った。

二階から降りてきた綾子が「マナーがどうした、って?」と尋ねた。

「このババアのマナーは、どうする?」「藤井さんに頼もうか?」と二人が言っていると、「呼ばれたかしら、私。」と当人が言った。

「藤井さん、ゲストルームに泊まります?」と伝子は誤魔化した。

高遠は後ろを向いて、肩を揺らしていた。

―完―







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