第6話『あなたのために……』


 「もしもし〜?」


 通話ボタンをおして、なぜか恐る恐る声をかける。


「お、工月さん久しぶり!」


 スピーカー越しに変わらぬ先輩の声が聞こえてきた。


「お久しぶりです〜、どうしたんですか〜?」

「いやあ、久々に仕事が早く終わって、しかも土日休みで、誰かと顔合わせたくなってさ」


 その後すぐに、今どこにいるんだ?と聞かれたので、ショッピングセンターにいると答えた。


「俺もさっき駅について近くにいるから、よかったら今からいつものファミレスにいかないか?」


 天城さんの話す、いつものファミレスというのはサークル活動の時にスケジュールとか場所決めの時に使った場所だ。

 ちょうどこのショッピングセンターの裏手にある。


「いいですよ〜、それじゃ入り口に待っていますね〜」


 心なしか、天城さんの声を聞いた途端、さっきまでの沈んだ気分がなくなったような気がする……?



「おーい、こっちこっちー!」


 ファミレスに近づくと、見覚えのある顔の人が私の方に向けて大きく手を振っていた。

 ……いつもはパーカーにジーパンとラフな服装だったのに、今日はちょっとくたびれたスーツ姿だった。


「お久しぶりです、天城さん〜」


 彼のそばに行くと、私は頭を下げて挨拶をした。

 顔をあげた際に彼の顔を見ると、なんか疲れがでてるような気がしなくもない。


「あぁ、久しぶり、なんかあまり変わらなさそうだな」

「そうですか〜」

「工月さんはいつみても変わらない気がするな」


 そう言って天城さんは微笑んでいた。


「暑いし、さっさと中に入るか、昼から何も食べてなくて腹減って」


 お腹をさすりながら、ファミレスのドアを開いていく天城さん。



「よし、俺はヒレカツ定食ご飯大盛り!」


 天城さんは店のスタッフに案内されると、すぐにメニューを開いていた。

 ちなみに『ヒレカツ定食ご飯大盛り』はこのファミレスで彼が必ずと言っていいほど注文するメニューだった。

 ……その度に、メニューを見る必要あるのかなと思ってしまう。


「工月さんはどうする?」

「わたしはパンケーキと紅茶セットで〜」

「……相変わらずだな」


 なぜか、ここにくるとこのセットを注文してしまう。

 私も人のことが言えた義理ではなかった。


「さすがに社会人になると、大学の時みたいに簡単に顔合わせるのは難しいな」


 セットで頼んだ注文したドリンクバーをとってくると、徐ろに話し始める。


「今日もさ蒼詩も呼ぼうと思ったんだけどさ、あいつ出張でこっちにいないんだよ」

 

 寂しそうな口調で話していた。私はいつものようにそうなんですかと頷いていた。

 話すたびに少しため息混じりに話していたことが気になっていた。

 ……それに、少し顔に疲れが浮かび出ているような。


「天城さん〜」

「……どうした?」

「何か顔が疲れていますね〜」


 私が告げると天城さんは「ははは……」と乾いた笑いを浮かべていた。

 

「やっぱ、そう見えるか?」

「お仕事大変なんですね〜」

「まあな、最近忙しくてロクに寝れてないんだけどさ、もっとキッツイのがさ」


 その後すぐに「まともな飯食べれてないんだよ」とため息混じりに呟いていた。

 ちなみに活動室にいる時でも、天城さんも柏葉さんの基本的な食事はインスタントかカップ麺だった。

 たまに私が家でお弁当を作ってもっていくと飛びつくように食べていた。


「前まではガッツリ睡眠は摂っていたから、食事がアレでもどうにでもなれたけど、両方だめだと体持たないな」


 ほんとそうだと思ってしまう。

 このままだと、倒れてしまうのではないかと心配になってしまう。


「天城さん、明日はお休みでしたよね〜?」

「まあな、出かける気は全くないから、朝から酒でも溜まった録画物消化しておわりかな」


 最後に寂しい土日の過ごし方だなと笑っていた。

 むしろそれなら好都合とも言えるかも知れなかった。


「それなら〜」


 私は天城さんの顔をじっと見る。


「明日、天城さんの家に行ってもいいですか〜!」


 ドリンクバーのコーラを口に含んだまま、赤城さんの症状は固まっていた。


「ちょ、何だよ突然!?」


 ゴクリと音を立ててコーラを飲み込んだ天城さんは慌てた表情で私のことを指差して大きな声をあげる。

 

「たしか、天城さんの家、大学の時から変わってないですよね〜?」

「お、おう……できるなら引っ越そうかとも考えているけどな」


 前に一度だけ柏葉さんに連れられて行ったことがある。

 はっきりと場所は覚えていないが、近くを歩けば思い出すと思う……。


「いやさ、前は蒼詩の奴がいたから、あまり気にはしなかったけどさ……さすがに女1人で男の部屋にくるのは色々と抵抗あるんじゃないのか?」

「……そうですか〜」

「あー……」


 天城さんは私の返事になぜか、頭を抱えてしまっていた。


「とりあえず明日の朝に家に行きますので〜!」

「……わかったよ、何でくるか知らないが、無理しなくてもいいからな」


 天城さんはコップに残ったコーラを飲み干すと、立ち上がってドリンクバーコーナーに向かっていった。


 この時の私は全く気にしていなかったのだが、後になって私がとんでもないことを言ったことに気づく。

 でも、この行動のおかげで私は自分の気持ちに気づくことができたので、ヨシとしよう!

 ……と、思うことにしている。


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【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!

 

お読みいただき誠にありがとうございます。

次回もお楽しみに!

 

自分が社会人の最初の時どうだったかなぁ……

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