第5話『別れ、そして再び……』

 「ここも今日でお別れなんですね〜」


 アウトドアサークルの活動室でただ1人、部屋の掃除をしていた。

 

 私がこのサークルに入ってから早くも1年が経った。

 その間に天城さんと柏葉さんに連れられて色々なキャンプ場に行った。

 近くのところから遠くのところにも。

 春、夏、秋。まさかとは思ったけど真冬に行くとは思わず、その時はすごく驚いていたことを思い出す。


 何事も楽しいことは永遠には続かない。

 もちろん、このサークルの活動もそう。


「2人とも卒業しちゃいましたね〜」


 季節は冬から春を迎えようとしていた。

 そんな時期にくるのは別れの時期。


 昨日の卒業式で、天城さんと柏葉さんは大学を卒業してしまったので、このアウトドアサークルのメンバーは私1人だけになってしまった。

 去年の今頃から就職活動をしていたので、いずれは今日という日が来てしまうんだろうなとは覚悟はしていたのだけれども。

 実際に来てしまうと、もの悲しさだったり、心にぽっかりと穴が空いたような気分になってしまう。

 

 もちろん私1人でサークル活動を続けるのは不可能だったので、サークルを閉めるために使用していたこの活動室の掃除をすることに。

 昨日までは2人の先輩たちも来るとは言っていたが、就職先での研修が入ってしまい、これなくなったそうだ。


「これで終わり〜」


 ゴミ袋をきつく閉めて、掃除が完了した。

 あまりないかと思ったが、やってみたらゴミ袋3袋にまでになった。

 大半はインスタントの袋やカップ麺の容器などが大半だった。

 

「そういえば2人ともよくここに泊まっていたからかも〜」


 私はくすっと笑いながらゴミ袋を持って、学生課の人に指定されたゴミ捨て場に持っていく。

 その帰りに活動室の鍵を持って学生課に返しに行く。


 ——そして、私は学生課にある部活・サークルの掲示板に目がいく。


 全ての始まりはここからだったなと。

 経った1年ちょっとではあったけど、ものすごく長くいたような気持ちになっていた。


 掲示板にはたくさんの部活やサークルの活動内容とメンバー募集の内容が書かれていた。

 あの時の私のように、素敵な出会いがあるのだろうか。


 感傷的な気分に浸りながら私は学生課を出ていった。




「ありがとうございました〜」


 私は、カウンターの奥で外へ出ていくお客様を見送っていた。

 

 数ヶ月が経った。

 

 私も大学最後の年を迎えたのはいいが、ほとんどを家で過ごしていた。

 1人になってしまったとか、そういうものではなく大学3年の時に必要単位を全て取得したので

 4年時はまったく授業を受けなくても卒業が確定してしまったからである。


 それじゃ就職活動を……と、考えるところだが、両親から今やってるカフェの手伝いをして欲しいと言われているため

 他の学生がしているような就職活動をする必要がなくなったため、こうして家のカフェでのんびりと手伝いをしている。


 あれから、天城さんと柏葉さんから連絡が来ることはなかった。

 連絡ができないほど、仕事が忙しいのだろうと思って、連絡はしていなかった。


「また……3人で出かけたいなぁ〜」


 私はグラスを洗いながら呟いていた。



 そういえば、あの2人と一緒に行動するようになって1つ変わったなと思うことがあった。

 何かというと……


 『新生活に野外生活はいかがでしょうか!アウトドアセール開催中』


 それまでは全くと言っていいほど、行くことのなかったアウトドアグッズの店に足を運ぶことである。

 最近ではよくいくショッピングセンターにも店舗があることから行きやすくもなっていた。


 そして今も、新商品と書かれたアルミ製のマグカップを見ている。

 その後も折りたたみ式のチェアやテーブルの新商品もじっくりみてしまう始末。

 


「……買っちゃった」


 レジで清算を済ませてから我に返る。

 ま、まあマグカップなら家でも使えるし、誰か来た時に使えばいいわけだし。

 

 ——ちなみにこう言いながらこれで3つ目なのはここだけの話だ。


 この後は中を物色しながら、マグカップ以外は何も買うことなく、外に出た。


 季節は夏が近づいてきていた。

 つまりは暑いわけで……。


 去年までは暑いから北の方にキャンプに行こうぜとなって、その場の勢いで行っていたかな……。

 すぐに思い出せるほど、楽しかった思い出だ。


 ——もう、あのような日々はこないのだろうか。どこでも3人で楽しむことができた日々が……。


 自分でもわからないぐらい感傷的になってしまっていた。

 このまま泣き出しそうになるぐらい……。


 そんなことを思っていると、カバンの中で何かが震え出していた。

 中身を見ると、カバンの奥底にあった携帯電話が小刻みに震えていたので、取り出して画面を開く


「えっ……うそ」


 携帯電話の画面には『天城耕史』と表示されていた。

 

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【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!

 

お読みいただき誠にありがとうございます。

次回もお楽しみに!

 

気がついたら1月ももう終わりかぁ……

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