第4話『これからも……』
「いただきまーすっ!」
天城さんのバンのトランクと重ねるように設置したテーブルの上には3人分の出来立ての焼きそば。
トランクの屋根の部分から幌と呼ばれる火除けの布をかけられているためなのか、部屋の中にいるような気分になっていた。
ちなみに柏葉さん曰く、ここはオートキャンプ場と呼ばれる場所で、車で乗り入れていい場所らしい。
「相変わらず、耕史の隠し味が聞いてるな」
柏葉さんはトングで大量の焼きそばを自分の皿に装っていった。
ちなみに焼きそばは私が素材を切るところから始まり、調理をしたものだ。
柏葉さんの言う隠し味というのは、出来上がる直前に生ビールを全体にかけて熱でアルコールを飛ばすことで
麦のモチモチ感が残って食感がよくなると言ったものだった。
たしかに食べてみれば、モチモチとした食感が後を引いていつも以上に食べてしまっていた。
「……2人とも寝ちゃってる」
焼きそばを食べつつノンアルコールビールを飲みながら談笑していた2人だが、少し席を外しているうちに
寝てしまったようだ。
天城さんはバンのトランクの中で横になり、柏葉さんは椅子の背持たれにもたれかかるように寝ている。
そう言えば、さっきは昨日はレポートをするのにほぼ徹夜に近い状態とか言ってたような……。
「それなら無理しないほうがよかったのに……」
そう思いながらも、しばらくの間ボーッと辺りを見ていたのだが飽きてしまっていた。
どうしようか悩んだ結果、辺りを歩いてみることにした。
おそらくだけど、2人が当分起きることはないだろう。
キャンプ場内を歩いていくと、受付兼売店があり、入り口には大きな犬が座っていた。
首輪がついているので、もしかしたらここで飼われているのだろうか。
恐る恐る、頭を撫でてみるとくぅーんと可愛らしい声をあげていた。
受付の建物を後にして奥に進むとバンガローエリアと書かれた立札があり、周りを見てみると一軒家のような家が立ち並んでいた。
立札にある説明では、バンガローとは簡易的な宿泊施設のことのようだ。
いくつか見ていると半分近く宿泊客がいるようで、建物の前で火を起こしているのが大半だった。
その中にも先ほどの天城さんや柏葉さんのように椅子にもたれかかって寝ている人もいた。
ちょうど日が当たっているので気持ちよさそうにも見える。
「うん〜……これ以上はいけないんだ〜」
もっと奥へ進もうとしたが、立ち入り禁止になっており進むことができなかったので
2人が待っている場所へ戻ることにした。
バンに戻ると柏葉さんは先ほどと同じように寝ている。
……あれ、口が開いているけどさっきも開いていたかな?
「あれ〜、天城さんは〜?」
キョロキョロと辺りを見渡すと、遠くに天城さんらしき姿を発見した。
「天城さん〜」
彼がいたのはバンが止まっている場所の奥にある川の方。
私の声に気づいた天城さんはこちらを向くと大きく手を振っていた。
「起きたら、工月さんいなくてビックリしたよ」
天城さんの言葉に、私は謝りの言葉を述べながら、辺りを見ていたことを話していた。
「天城さんはここで何をしていたんですか〜?」
「目を覚ますために川の水で顔を洗ってたんだよ、ここって山からの雪解け水だからかなり冷たくてさ」
そう言われて、気になってしまい川の中に手を入れると手が痺れると思えるぐらい水が冷たかった。
「それにしても、蒼詩のやつはまだ寝てるか。 あいつさ人がレポートで苦しんでる中、ずっとゲームやってたんだぜ?」
天城さんはバンがある方をみて、呆れた様子の声を漏らしていた。
「お二人は仲がいいんですね〜」
「まあね、何だかんだ……中学からの付き合いだしな」
天城さんと柏葉さんは元々、ゲーム好きの共通点があり、そこからの付き合いだと話す。
「アウトドアも大自然の中でゲームやったら気持ち良くないか? ってくだらない理由から始まったんだけどね」
最近はゲームよりもアウトドアそのものが中心になりつつあるらしい。
話を聞いていた私は2人の関係性が羨ましく思っていた。
……私も親友と言える人がいないわけではないけど。
——悲しいことに、その友人も今は友情よりも恋愛を優先している。
「ってか、工月さん今日は楽しめたかな……2人揃って爆睡してるからこんなこと言うのもアレだけど……」
天城さんはバツが悪そうな顔をして頭をかいていた。
「う〜ん〜……」
正直なところ、どう答えていいのかわからなかった。
アウトドア自体が今までない経験だったので、決してつまらないわけではなかった……と思う。
「よくわからないですね〜」
「……だよね」
私の答えに天城さんはガックリと肩を落としていた。
「でも〜……天城さんと柏葉さんの2人を見ていて羨ましく思いました〜」
そう答えると天城さんは「どういうこと!?」と目を大きく開いていた。
ここへ来る途中の2人の会話や、こうやって趣味を共有しているところなどが羨ましいと思っていたことを話す。
——だから、私が2人の中に入ってしまっていいのだろうかと思っていることも話した。
「俺らは趣味があえば別に男女区別なくウェルカムだけどね」
そう思っていたが、結局来たのは私が最初のようだが。
「まあ、工月さんがよければ、一緒に楽しんでもらいたいけどね」
天城さんは少し照れた表情で話していた。
「では、よろしくお願いします〜」
私は彼に向けて深く頭を下げていた。
最初は戸惑っていたが、すぐに平静に戻る。
「こちらこそ、これからよろしくね!」
天城さんは笑顔でそう告げた。
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【あとがき】
▶当作はカクヨムコンに参加中です!!
お読みいただき誠にありがとうございます。
次回もお楽しみに!
朝、外を見て全く変わりないことを確認してちょっと寂しさが……
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