第3話『初の試み』

 「そっか……そこから説明しないとか」


 私の問いに対して、天城さんは右手人差し指を額にあてて、唸り声をあげていた。

 この時の私はそんなに悩むことなのだろうかと思っていた。


 ——このことは後に耕史さんへ尋ねたところ、説明するのは楽だけど、それにどうやって面白さを伝えようかと悩んでいたらしい。

 

「だったら、一度体験して貰えばいいんじゃない?」


 天城さんの後ろで2つのアルミ製のマグカップを持った柏葉さんが話していた。

 私の前と天城さんの前にマグカップを置くと、後ろにある椅子に座っていた。


「体験入部的なやつか?」


 天城さんは柏葉さんがいる方へ体を向けていた。


「そうだね、たしか今週の土曜に予約してた場所があったでしょ? あそこなら初めての人でもいやすいんじゃない?」


 柏葉さんの言葉に天城さんは腕を組んでいた。

 しばらくして、天城さんは組んでいた腕を離すと、私の顔をじっと見ていた。


「あのさ、工月さん?」

「何でしょう〜?」

「急なんだけど……今週の土曜日って空いてたりします?」


 ——もちろん、週末の予定などあるわけもなかった。


「……えっと、たしか8時に校門に集合って言われたけど〜」


 天城さんから土曜の朝8時にくるように言われたので約束通り来たのはいいけど、2人の姿は見えず……。

 もしかして揶揄われたのかなと思いつつも10分ぐらい待っていると、目の前に白いバンタイプの車が止まる。


「ごめんごめん! 道が混んじゃってさ!」


 車の窓から天城さんが顔を出して私に話しかけていた。


「とりあえず、後ろの席に乗っちゃってすぐに移動するから!」


 天城さんに促されるまま、私は後部座席を開けるとすぐに乗っていった。


「……うーん」

 

 車の中はどんな言葉を選んだとしても綺麗とは言えなかった。

 足元にはコンビニのビニール袋が散乱としており、後ろを向くと活動室で目にしたアルミ製のテーブルや食器などが山積みにされていた。

 こっちに崩れてこないか心配になるほどだ……。


「すぐに高速乗るから、シートベルトつけておいてね」


 助手席から柏葉さんが顔を出していた。

 私が言われるがままに、シートベルトを閉めていった。


 柏葉さんのいう通り、車は高速道路に入っていく。


「それにしても、汚い車でごめんね、服が汚れたら耕史に請求してもいいからね」

「……おい、蒼詩、そう言うのだったら車の掃除をやってもらいたいんだけどな」

「おいおい、この車は耕史のものだろ、自分のものは自分で掃除しないとな」


 最終的には運転手から天城さんが柏葉さんの肩を拳で叩きつけるように殴ったところで終わりを迎える。


「あの〜?」


 2人の会話が終わったのを見計らって恐る恐る声をかける。


「どうしました?」


 私の声に反応したのは運転手の天城さんだった。

 運転中でこちらを向けないため、中央部にあるミラーで私の方をみていた。


「これはどこに向かっているんですか〜?」


 私の質問に対して、前の座席に座る2人は声を合わせ……


「うん、楽しいところだよ」


 とほぼ同じタイミングで返してきた。


 ——大丈夫なのだろうか。


 もちろん、私の身に被害が及ぶようなことは起きることはなかったのだが

 この時の私は少しばかり不安になってしまっていた。


 

「やっと到着したか!」

「まったく誰かが、寝坊しなければあの渋滞に巻き込まれることもなかったんだけどな」

「僕は過去を振り返ることはしないんだ」


 2人の声がした途端、真っ暗だった視界が一気に明るくなっていく……。

 

「う、う〜ん……」


 どうやら眠ってしまっていたようだ。

 高速道路を降りて、業務用のスーパーに寄って色々と食材を購入したところまでは覚えていた。

 たしかその後は……


「じゃり道かな〜」


 山の奥へ進むたびに道路がだんだんと舗装されていない道になり、その上を走るたびに車がゆらゆらと揺れ始めていた。

 その揺れがいい感じに眠気を誘ったのか、いつの間にか寝てしまっていたようだ。

 ……不安は一体どこへいってしまったのやら。


 シートベルトを外してからドアを開けて、外にでるとあたり一面、大きな樹木で囲まれていた。

 チョロチョロとした音がしていたので、そちらを向くと先で川があるようだった。


 ちなみに天城さんと柏葉さんは長時間車に乗ったことにより疲れたのか、腕を伸ばしたり、腰をひねったりとした軽い運動をしていた。


「好きな場所使っていいって言われてるし、この辺にしますかね」

「そうだね、決まったらさっさと準備しちゃおうぜ!」


 2人の中で何かが決まると、すぐに車のトランクを開けて山積みになっている荷物を下ろし始めていた。


「いつも通り、僕が火を起こすから、テントの方をよろしく」

「わかった」


 2人がテキパキとした動きでトランクから次々と荷物を運び出していく。

 そんな中、状況が理解できない私は、ただその場に立っていることしかできなかった。

 天城さんがそのことに気づいたのか、私の元に来ると……。


「工月さん、トランクに調理セットがあるから買ってきた食材を適当に切ってもらっていい? すぐにテーブル用意するから」


 そう言って、天城さんは持っていた道具をその場に置くと、再びトランクに向かっていった。

 私もそれについていくようにトランクへ向かっていった。


 この時は何も思わなかったけど、後々考えてみると……

 知らず知らずのうちに私も楽しんでいたのかもと思っていた。

 

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【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!

 

お読みいただき誠にありがとうございます。

次回もお楽しみに!


急に寒くなってきましたので、皆様体調にはお気をつけて……!

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