第2話『邂逅』
「咲耶ちゃん、左手は猫の手よ〜」
「猫の手……にゃあ!」
咲耶ちゃんは右手には三徳包丁を持ち、もう片方の手ではキュウリを教えた通りの手の形にして抑える。
「そ、それじゃ切るよ……」
「はい〜、急がなくていいからね〜」
私が告げると、サクっと音を立てながらキュウリを切っていく音が聞こえ始めた。
「それじゃわたしは〜」
ガスコンロの上に水がたっぷり入った鍋を乗せて火をつけた。
しばらくすると鍋の水がグツグツと音を立てて沸騰し始めていた。
事前に切っておいた里芋を下茹でをするために鍋の中に入れ、その間に切ったこんにゃくを塩揉みしていった。
この作業をしながらも、隣ではキュウリを切る、サクッという音が聞こえていた。
切っている本人に目を向けると、キュウリにこれまでの恨みをぶつけるかの如く、人様にはみせられない形相の咲耶ちゃんが見えていた。
「左手は猫の手、右手でしっかりと包丁を握って……」
必死にキュウリを切っていく咲耶ちゃんを尻目に私は、茹でた里芋を取り、先ほど塩揉みしたこんにゃくを茹でていく。
「そういえば〜」
自分でも気づかないうちに声に出してしまっていたようだ。
「え!? どうしたの……?」
隣で咲耶ちゃんが驚きの声をあげていた。
「あ、ううん〜。 ちょっとね思い出したことがあってね〜」
「何を?」
「耕史さんに初めて料理を作ったときのことかな〜」
「何それ、聞きたい!」
咲耶ちゃんは食いつくように私の顔を見ていた。
……本人は気づいていないと思うけど、右手にはガッチリと包丁を持ったままで。
「そんなに面白くないと思うけど〜」
「そんなことないよ! ママからそんな話聞いたことなかったし!」
「は〜い、わかったわよ〜」
咲耶ちゃんに急かされるように私は、話を始めていった。
——あれはたしか、大学生2年生の時だったかな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ようこそアウトドアサークルへ!」
都心から少し離れた郊外にある大学にて。
キャンパス内の最奥にある部室棟と呼ばれる建物がありそこには課外活動を行う部活やサークルの部屋が用意されていた。
私が向かったのはその中にある『アウトドアサークル』と少し汚れた白いプレートが貼られた部屋だった。
そもそも何でここに来たかと言えば……今考えてみれば暇だったのからだ。
これまでは友人と一緒に行動をしていたが、その友人が好きな人と付き合うこととなり、その人と一緒に過ごすことが多くなってしまったのである。
私も友人みたいに、そう言う人を探してみようと思ってみたりしたが、そもそも今までそんな経験などなかった私には無理な話だったのだが。
それで、ここに来た理由に戻ると……たまたま用事があってきた学生課で見つけた部活・サークル掲示板に目を引くものがあったからだ。
『料理得意な人募集中! アウトドアサークル』
料理に関しては両親が共稼ぎだったので、料理は私が担当だったことから得意とは言えないがそれなりに自信はあった。
この時は、サークルなので、みんなで料理について何かするのかなぐらいに思っていた。
そもそもこの時の私はアウトドアについて理解すらしていなかった。
部屋の中に案内された私は折りたたみ式の椅子に座る。
部屋は4畳ぐらいの小さな部屋に小さなアルミ製のテーブルで椅子と同じように折りたためるのか真ん中に大きな線が入っていた。
奥には小さな本棚があり、目についたものでは『炭火焼き料理』や『チップの選び方』と書かれた本が数冊置かれていた。
「わざわざ来てくれてありがとうございます」
私の目の前の椅子に座ったのは寝起きなのだろうかと思えるぐらいボサボサの髪型と中途半端に生えた髭が印象に残る男の人だった。
「あ、俺は一応このサークルを取り仕切ってる天城っていいます」
「取り仕切ってるといってもメンバー2人だけなんだけどね」
天城さんが話していると、その隣に持ってきた折り畳みの椅子を広げて座るもう1人の男の人が揶揄う。
「ちなみに僕は柏葉っていうんだ、っと、飲み物用意してなかったね」
そう言って柏葉と名乗った男の人はすぐに立ち上がって奥の棚の方へ向かっていった。
「あ、そうだ名前を聞いてもいいですかね?」
天城さんは屈託のない笑顔で私の顔を見ながら話かけてきた。
「あ、えっと……児童学科2年
「2年生ってことは1個したか……ちなみに何でこのサークルに?」
「学生課の掲示板にあった『料理得意な人募集中!』に目が入って〜……」
私が正直に理由を述べると、後ろでコップを洗っていた柏葉さんが「よっしゃ!」と言ってガッツポーズをしていた。
その光景を見ていると、天城さんは苦笑いをしながら「ごめんね、あのテキスト、アイツが考えたものだから」と話していた。
「ってことは工月さんは料理が得意?」
「得意と言っていいかわからないですが、基本的に毎日しているので」
「それはいいねえ!」
私の言葉に喜びの声をあげる天城さん。
「あの……一つだけ聞いてもいいですか〜?」
私が手を挙げると、天城さんは笑顔で「なんだい」と口にしていた。
「そもそもな話で申し訳ないんですが〜……」
この時のことは今でも忘れはしなかった。
——アウトドアって何ですか?
と、いう言葉を私が言った時の耕史さんの困った顔を。
今思えば、これが私、工月紫と天城耕史さんの最初の出会いだった。
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【あとがき】
▶当作はカクヨムコンに参加中です!!
お読みいただき誠にありがとうございます。
次回もお楽しみに!
たまには自然の中でのんびりとしたいと思える今日この頃……
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