第37話
「「ただいまー」」
玄関のドアを開けると、2人揃って家の中に入って行く。
「お腹すいたあ……早くご飯食べようよ!」
我が家の妖怪腹減らしが喚き声をあげながら台所に向かって行った。
「あの4段フレンチトースト食べて、よく食べようと思えるな……」
ちなみに俺は前に食べた時にはその日、何も食べようとは思えなかったけどな……。
「それじゃ、小皿とコップを取ってくれないか?」
「はーい!」
大きな返事をすると咲耶は勢いよく棚を開けて行った。
「いっただきまぁす!」
元気よく挨拶をした咲耶は小皿を持ちながら重箱の食材を眺めていく。
中にはポテトサラダ、ほうれんそうのおひたし、筑前煮など、和洋中がごちゃまぜになっていた。
……カフェのものじゃなくて神崎家の余り物も入ってるだろコレ。
「それにしても……」
「ん?」
「よくスタジオみつけたね」
俺に話しかけながら咲耶は重箱にあるコロッケを箸で摘んでいた。
「ホント、偶然というか奇跡に近い感じだな」
答えながら俺はポテトサラダを取り分け用の大きなスプーンで取っていく。
「場所はどこなの?」
「場所は隣の市の住宅街、バイト先からバイクで20分ぐらいだから家からだと40分ぐらいか」
「住宅街の中だと、音漏れないかな?」
「スタジオは地下室で、鉄筋だから平気そうだな」
「そうなんだー!」
そう言って咲耶はコロッケを口に運んでいく。
「そうだ、咲耶明日は空いてるか?」
「うん! ふぁいえるよー」
「……聞いて俺が悪かった、ゆっくり味わってくれ」
俺も皿によそったポテトサラダを食べていく。
「うん! 空いてるよ!」
なんか勢いよく飲み込んだ音が聞こえたような気がするが大丈夫か……?
「もしかして、デートのお誘い!?」
「……何でそうなるんだ?」
「蒼にぃと行きたいところかあ……この前海に行ったから今度は山でもいいかも、帰りはもちろん2人きりで一緒にひとつのベッドで……」
何か1人でブツブツと喋り出したぞ。
大丈夫か?
「スタジオに案内しようと思ったんだよ、あとそこのオーナーが咲耶に会ってみたいと言ってたんだよ」
話すと、咲耶はがっかりした顔をしていた。
「……スタジオのオーナーさんってどんな人?」
「何か音楽やっていた人みたいだけど、バンド名は忘れたけど」
「ふむふむ」
興味があるのかないのか、当たり障りのない返事をしながら咲耶は重箱からカボチャの天ぷらを取って行った。
「変な人ではないけど、独特な人って感じがする人だな」
今度は筑前煮を適当な量を取って皿によそっていった。
「そういえば、そこのスタジオって機材ってある?」
俺が自分で使った小皿を洗っていると、まだまだ腹八分目の咲耶が重箱の中身を物色していた。
「ないな、電源とか机とかはあるけど」
「ってことは機材とか持っていかないとだよね」
「そうだな」
「そうなると、配信用のパソコンどうしようか? さすがに私のは持っていけないよね?」
咲耶のPCの中にはそれなりにいい配信用と編集に使うソフトがインストールされている。
だが、デスクトップ型のため持っていくのは厳しい。
「そこはご心配なく」
皿を洗い終わり、テーブルの方を向くと咲耶はタケノコの煮付けを箸で掴んでいた。
「親父の部屋にほとんど使っていない、ノートPCがあるからそれを使うよ」
親父が今年の新春セールで買ったのはいいが、仕事が忙しくて使う暇がないのでほとんど俺が使っているのがある。
高スペック向けの3Dオンラインゲームが軽くできるぐらいのスペックがあるので配信と編集は問題ない。
「ソフトも大丈夫?」
「安心しろ、そのPCで何度も配信と編集、実践済みだ」
俺の言葉に咲耶は驚きの声をあげていた。
「蒼にぃ、配信したことあるの?!」
「俺はないけどな、翔太が最初の頃、俺のPCを使ってやっていたんだよ」
そういえば、去年の今頃か、翔太がオンラインゲームで配信を始めたのは。
俺も興味本心で一緒に始めたのはいいが、再生数が伸びてきてから配信の頻度が増えてきたので
配信は自分でやれと言って、必要なソフトを用意させて、自分でやらせることにした。
——ただ、編集に関してはよくわからないからという理由で、俺へ頼みにきている。
こっちとしても、勉強のための題材があるから、よほどのことがない限り引き受けることにしている。
「もしかして、蒼にぃ独学で覚えたの?」
「いや、親父に教わった」
父親が勤めているのはテレビ番組の映像編集を行う会社だ。
最近は公式の動画配信者が増えてきたことから、そう言った動画の仕事もやっているようだ。
基本的なところは父親に教えてもらい、あとは調べながら覚えて行った感じだ。
「でもよかったかも、私もうまく編集できなかったから」
「配信と編集を両立するのは相当きついみたいだしな……」
それに関してはよく翔太から聞かさせていた。
「それにしても……」
咲耶は麦茶を飲むと俺の顔をじっとみていた。
「蒼にぃ、すごく楽しみって顔をしているね」
咲耶はニシシと今にもイタズラでもしそうな笑いを浮かべていた。
「まあな、好きな398の配信に関わることができるなんて夢みたいだしな」
「そ、そっかあ!」
咲耶の顔が少し赤くなっているような気がするが……見間違いかな。
「それにやっと、兄らしいことができたって感じがするしな」
「兄らしいこと?」
「……そういや話してなかったか」
俺は咲耶にずっと思っていたことを話した。
にしても、本人目の前にしていうのはとてつもなく恥ずかしいな……。
話が終わると、咲耶はさっきよりも顔が真っ赤になっていた。
かくいう俺の顔がすごく熱くなっているんだけどな……。
エアコンの聞きが悪いのかもしれないな。
「そんなことしなくても、私にとって蒼にぃは自慢の家族で最高のお兄ちゃんだよ」
「お、おう……」
思いもしなかった言葉が返ってきたので、どう答えていいのかわからなくなっていた。
「そんな蒼にぃだから私は好きなんだよ……」
咲耶は顔を下に向けて話していた。
「ん? 何か言ったか?」
「何でもない! 食後のデザートにこの前買ったプリン・ア・ラ・モード食べたいって言ったの!」
「……まだ食べるのかよ!?」
ため息混じりに呆れながらも、俺は咲耶を最高の妹だと心の中で呟いていた。
「ただいま!」
台所でデザートを食べている咲耶を見て、胃がもたれそうになっているところに玄関から声が聞こえてきた。
「え、親父!?」
驚いている間に父親が台所のドアを開けて、姿を見せた。
……なんか若干やつれているような気がしなくもない。
「どうしたんだ? こんな早く帰ってくるなんて……」
「やっとでかい案件がひと段落ついたから帰ってきたんだよ、それよりなんか食べるものないか? 昼から何も食べてなくてさ」
父親はリビングの方にカバンを置くと、空いている椅子に腰掛けていた。
「今日、弁当なんだけどそれでいいか?」
「あぁ、いいよ。 それにしても弁当なんて珍しいな」
重箱をテーブルの上に置いてから小皿と箸を父親に渡すと蓋を開けて、中身を覗き込むように見ていく。
「お、この筑前煮うまそうだな」
箸で摘んで口の中に運ぶ父親。
さっきまで元気な声をあげていたが、急に黙り出した。
「……どうした、親父?」
すると父親の目には涙が溜まっていた。
「お、おじさん!?」
目の前に座る咲耶が驚きの声をあげていた。
「すまん、筑前煮の味が……亡くなった紫の作るものにそっくりだったんだ……」
そう言って父親は台所から出て行ってしまった。
「……親父、相当疲れているんだな」
俺が重箱の蓋を閉めていると、目の前で咲耶がうーんと唸り声をあげていた。
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【あとがき】
▶当作はカクヨムコンに参加中です!!
お読みいただき誠にありがとうございます。
次回もお楽しみに!
も、もうすぐ3連休や……ぐふっ
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