第34話
「どうしたらこんなに大きくなれるんや……」
カフェの中で私の目は前方にそびえ立つ双丘に釘付けになっていた。
それに比べて私のは絶p……いやいや、まだまだ成長期だから!
——そんな不埒なことを考えながら自分の胸元をさすっていた。
「どこかで見たことがあると思ったら、蒼介くんと同じ3組の柏葉さん〜?」
「……そうですよ、たしか神崎千智さんですよね?」
私も確かめるように神崎さんの名前を口にする。
にしてもすごいスローペースで話す人だなぁ……。
「あ、もしかして〜、蒼介くんに会いにきたとか〜?」
神崎さんはニコニコとした表情で話しかけてきた。
「べ、別にそんなつもりじゃなく、たまたま寄っただけですから!」
確かにその通りなんだが、心のうちを読まれたような気がしていい気分ではなかったので
平常心を装いながら、全力で否定をする。
「そうなんだ〜」
どうやら思っていたことと違ったようで、神崎さんは少ししょんぼりとした表情をしていた。
よし、うまくごまかせた!
「そうだ、案内しないと〜、こちらへどうぞ〜」
彼女が案内したのは一番奥のカウンター席だった。
1人だから仕方ないかと思いながら案内された席についてから座る。
「こちらメニューになります〜」
私が座ったのを見ると、メニューを差し出してきた。
「ありがとうございます」
受け取るとすぐにメニューを開いて、真っ先に目がいったのはデザートコーナー。
何故かというと、その中にある4段フレンチトーストの写真があったから。
昼頃までベッドの上でゴロゴロしていただけなので、お昼を食べていなかった。
そんな状態で4段、しかもとろふわの溶き卵が分厚いパンにかかっている写真をみせられたら
私のような育ち盛りの乙女は無視できるはずがない!
「す、すみません!」
すぐにカウンターの奥で洗い物をしている神崎さんに声をかけ、注文したいものを指差す。
「これ、お願いします……!」
「は〜い、お飲み物はどうしますか〜?」
「え……!?」
もう一度メニューを見ると、右下にセットで注文できるドリンクの一覧が載っていた。
「あ、アイスティのストレートでお願いします」
私が答えると神崎さんは「は〜い」と眠気を誘いそうな声で応対していた。
神崎さんが立っているすぐ横に小さな冷蔵庫があり、そこに調理用の材料が入っているのだろう。
私が注文すると、のんびりした口調とは裏腹にテキパキとした動きで冷蔵庫から取り出していた。
その後は長い食パンを取り出して包丁で必要枚数切っていく。
その間、神崎さんは鼻歌を歌いながら作業をしていた。
それを見ていた私は母親のことを思い出していた。
——柏葉の方ではなく私と一緒に亡くなった天城の方の母親を。
あの人もよく、料理をするときに鼻歌を歌っていた。
近くに私がいた時は、私が知っている曲だったり。
歌っている曲がわかった時は私も一緒に歌っていた。
昨日、蒼にぃが『神崎さんは亡くなった母さんに似ている』と話していた。
最初見た時はそうかなと思ったが、調理している様子を見ているとそうかもしれないと思い始めていた。
「そういえば〜」
神崎さんは鼻歌をやめたとおもったらすぐに私の方を向いていた。
「……どうしました?」
私が返事をすると神崎さんはふふっと笑っていた。
「朝からいる時は、蒼介くんのお昼をつくるんだけどね〜」
「……そうなんですか?」
「うん〜、すごく美味しいって言ってくれるの〜 さすがに4段に挑戦した後は休憩中苦しそうにしてたけど〜」
何も気にしないふりして返事をする。
いいもん! 私はいつも蒼にぃのご飯食べているし!
「蒼介くん、毎回フレンチトーストを頼むのよね〜」
そう話す神崎さんは嬉しそうだった。
「おまたせしました〜4段フレンチトーストになります〜」
彼女の手際が良かったからか、注文してそんなに待たずにお目当てのフレンチトーストが目の前に置かれる。
まんべんなくトースト全体がきつね色に焼かれており、卵黄と一緒に牛乳が混ざっていたり、バターで焼いているためか
乳製品の匂いが私の鼻をくすぐっていた。しかも表面にはシナモンが振り掛けられている。
私のお腹の虫が鳴ったような気がしていた。
「いただきます……!」
フォークとナイフを使ってパンを食べやすいサイズに切ってから口の中に運んでいく。
カリッと音がすると同時に口の中に甘さが広がっていく。
うそ……蒼にぃっていつもこんな美味しいのを食べてるの!?
美味しいと思うと同時に何か懐かしい気持ちが出てくる味でもあった。
ママがおやつの時間に作ってくれたあの……
——フレンチトーストに。
「柏葉さん、涙出てるけど……舌、火傷しちゃった?」
「……みたいです」
懐かしいと思った時から自分でも気づかないうちに涙が流れていたのである。
神崎さんはおしぼりを出してくれたので、受け取ると目尻を拭く。
……ファンデーション落ちなきゃいいけど。
「ごちそうさまでした……」
食べている最中、ずっと涙が止まることはなく、自分でもびっくりするぐらい涙が出続けていた。
よくドラマで「おふくろの味」をたべた男性が懐かしさで涙を流すシーンをみかけるが、実際に自分がそうなるとは思わなかった。
「柏葉さん〜」
「は、はい……!」
横から神崎さんの声がしたので、そちらを振り向くと顔全体にふわふわとした感触がしていた。
なんか気持ちいい……っていうかちょっと苦しい!?
必死にもがきながら顔をあげる微笑む神崎さんの顔が見えた。
「泣きたい時は泣いちゃってもいいんですよ〜」
そう言うと同時に「よしよし〜」と言いながら私の頭を撫でる神崎さん。
たしか鶴嶺さんが、彼女に撫でられると幼児退行をしてしまうと話していたことを思い出す。
噂は確かなようで、私はそのまま子供のように泣き出してしまっていた。
「ごめんなさい……もう大丈夫です」
大声を上げて泣き、なんとかして涙が治ってきたので、神崎さんにお礼を言って離れようとしていた。
……ホント他にお客さんがいなくてよかった。
「……味覚えてくれてたんだね」
「え?」
神崎さん、今……咲耶って言った?!
私は顔を上げる。
私の行動を見ていた神崎さんは動じることなく私をずっと見ていた。
「大好きな『蒼くん』のお嫁さんになる夢、叶えられそう?」
「んな!?」
神崎さんが発した言葉に自分でもわかるぐらい目を大きく開けて驚くと
私は突き放すようにして彼女から離れていった。
だって、今のは……!
——私とママしかわからない2人だけの秘密なのに!
「神崎さん、もしかして……」
神崎さんはふふっと微笑む。そして……
「お久しぶりね、咲耶ちゃん」
その時の神崎さんの顔は記憶の奥底にある母、
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【あとがき】
▶当作はカクヨムコンに参加中です!!
お読みいただき誠にありがとうございます。
次回もお楽しみに!
最近何かを食べているシーンを書くことが多い気がしてきた(^q^
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