第33話


「おーい、蒼介こっちだぞー!」


 バイクにマウントしたスマホを見ながら目的の場所を探していると、遠くから聞き覚えのある大きな声が聞こえてきた。

 正面を見ると、おやっさんがこちらに向けて大きく手を振っている。

 その隣にはお客へお届けする大型バイクが止まっていた。

 

「すみません、変なところで信号に引っかかっちゃって」

「気にするな、事故られるよりはマシだ」


 おやっさんは俺の背中を叩きながら答えると、門構えに並列するインターホンを押す。

 その隣にある白と黒が混じった表札には『国分寺』と書かれていた。


「はい、どちら様でしょうか?」


 インターホンのスピーカーから女性の声が聞こえてきた。

 声からして60〜70代ぐらいだろうか、最近会ってないが父親の方の祖母に声が似ているような気がした。


「どうもー、神崎モータースです」


 おやっさんが大きな声で答えると、女性は「ちょっとまってて」と言ってインターホンを切ったようだ。

 少しして、ガチャという音と共にドアが開き、奥から黒と白が混じった髪の老婦人が姿を見せた。

 たしか、バイクの持ち主は男性だったと思ったので、その人の奥様だろう。

 

「お忙しいところごめんなさいね、それにしても暑かったでしょう? 中で休んでいって」


 どうしようかと思ったが、おやっさんが中に入っていったので、俺も続くことにした。



 外から見ても、隣の家とはひと回りも大きかったのだが、中もそれに違わず広いの一言に尽きる。

 玄関から見ても、左右に部屋が一部屋ずつあり、奥にも広そうな部屋も見えていた。

 玄関からリビングまで一直線の自分の家とは大違いだ……。

 

「主人はこちらの応接室にいますのでこちらへどうぞ」


 玄関から右側の部屋に案内すると奥様は「お茶をお持ちしますね」と一言告げて別の部屋に行ってしまった。


 応接室に入ると、大きなソファーに足を組みながら座っている男性がいた。

 おそらく、この人がバイクの持ち主だと思うが……。


「よお、忙しいところすまんな」


 おやっさんと俺がいることに気づいた男性は手を挙げて声をかけてきた。


「お、今日は1人じゃないのか? 倅か? でも前に娘って言ってたよな?」

「いやいや、こいつはうちのバイトですよ。 迎えが必要だったんで連れてきたんですよ」


 おやっさんが手を振りながら、答えると男は「そっかあ」と力強い口調で答える。

 

「立ち話もなんだし、そっちに座りな」

「それじゃお言葉に甘えて」


 おやっさんに連れられるように反対側のソファーへ座る。

 座った瞬間、体全体が沈んでいくような感覚になっていた。

 

「それにしてもどうしたんですか、その足?」


 座るとおやっさんが包帯を巻かれた足を指差していた。

 

「この前、地下室の整理をしていたら階段で滑って落っこちまったんだよ」

「うわあ……大丈夫なんですか?」

「骨は折れていないみたいなんだが、傷だらけでよぉ」


 男は豪快に笑っていた。


「お、ボウズどうしたんだ? 驚いた顔をしているが」

「あ、いえ……地下室があることに驚いてしまって」


 アニメや漫画、特にミステリーものでは地下室は定番といえるほど登場するが

 現実に見たことはなかったので、存在したのかと思ってしまいっていた。


「地下室っていうか俺のプライベートスタジオだな」

「す、スタジオ!?」


 更に聞きなれない言葉を聞いて変な声まで出てしまう。


「国分寺さんは『ザ・バラーズ』というロックバンドのヴォーカリストなんだ」


 隣に座るおやっさんが説明してくれたのはいいが、聞いたことがなかったので首を傾げてしまう。


「さすがにおまえの歳じゃわからないよな、俺が小学校の時だもんな」

「おいおいおい、これでも海外公演までやってんだぞ」


 おやっさんが笑いながら答えていると男は悔しそうな声をあげていた。


「いつまで過去の栄光にすがってるのかねぇ、この人は」


 部屋の入り口から奥様の声が聞こえた。


「昔と違って今は楽しいものがいっぱいあるのよ、あんたの音楽はそれよりも楽しいってことなのよ」


 奥様はテーブルに麦茶を置くと、男の隣に座る。


「洋子さんにそんなこと言われたらぐうの音もでねえな!」


 男はまたもや豪快に笑っていた。


「それにしても、ボウズは地下室に興味があるのか?」


 笑い終わった男は俺の方を向いて聞いてきた。


「え、えぇ……あまり見ないことのない場所ですので」


 俺が答えると、男はロックだねえと口にしていた。

 ……え? どういう意味??


「せっかくきてくれたんだ、思う存分見てくれ」


 どうやら男は上機嫌になったようだ。


「たしか双葉が地下室にいると思うから、あいつに案内させるとするか」


 そう言うと男は大きな声で「双葉こっちへこーい!」と呼びかけていた。

 ヴォーカリストだったせいか、年をとっているとは思えないほどの高い声量だった。


「はーい!」


 部屋の外から小さな女の子らしき返事が聞こえてきた。

 ……あれ? どっかで聞いたことあるような?


「おじいちゃん呼んだー?」

 

 少しすると、応接室に小さな女の子がやってきた。

 あれ……この子?


「そこの兄ちゃんに地下室を案内してやってくれ」

「うん、いいよー!」

 

 そう言って女の子が俺の方を向くと俺の顔を見て驚く。

 

「あ、お兄ちゃん!」

「……やっぱそうか」


 どうやら俺の記憶は確かだったようだ。

 目の前の女の子は咲耶と一緒に行ったスーパーで迷子になっていた女の子、『こくぶんじ ふたば』ちゃんだった。

 

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新年明けましておめでとうございます!

今年も宜しくお願いいたします!


【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!

 

お読みいただき誠にありがとうございます。

次回もお楽しみに!


新年早々ですが……

読者の皆様に作者から大切なお願いです。


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