第32話
「おわった……」
午前最後のお客様を見送るってからカフェに戻ると、千智が声をかけてくれた。
疲れてる時にこののんびりした声を聞くとなんか癒される感がある。
来客が誰もいないため、カウンター席に座ると、テーブルに突っ伏していた。
「お疲れ〜蒼介くん〜」
千智は突っ伏している俺の横にコップを置いていた。
コップの中は麦茶がほどよい量で注がれていた。
「ありがとう……」
すぐに俺はコップを取り、ゴクゴクと音を立てて飲んでいった。
「すごい飲みっぷりだね〜」
「そりゃ休む間もなく動きっぱなしだったしな」
本日最初のお客である汐見さんが帰ってからすぐに次の客が来て、終わったと思ったらまたその次の来客——
と、言った感じで一息つく時間もなくずっと動きっぱなしだった。
「午後は少しゆっくりできるんじゃないかな〜」
「たしか夕方前まで来客の予定はなかったから、午後はカフェの方の手伝いできるぞ」
バイトは整備工場とカフェの両方の業務補佐。
カフェの方は千智がいれば充分対応可能ので、基本的にはおやっさんの方の補佐になる。
「うん〜、こっちはそこまでやることもないから、のんびりしてても平気だよ〜」
千智はニッコリと微笑む。
店内の掃除でも適当にやってるか。
そんな他愛のない話をしているとカフェの方に電話が入る。
電話の傍にいた千智が電話を取って応対していた。
「はい〜、少々お待ちください〜」
千智は保留ボタンを押すと、俺の顔を見ていた。
「蒼介くん〜、お父さん呼んできてもらっていい? お父さん宛だから〜」
「わかった」
コップをカウンターに置いてから、工場にいるおやっさんに声をかけた。
カフェに戻ると、額の汗を手の甲で拭いながら受話器を取る。
「お電話変わりました、神崎です!」
大きな声で対応するおやっさん。
たまに俺のスマホに連絡がくることがあるけど、最初の第一声は大声かと思えるぐらい大きな声で話す。
……俺もそうだが、最初は誰もが絶対にビックリしてると思う。
「あー、なるほどですね、車検は通ってるので、よかったらこれから納車しましょうか?」
その後も少しおやっさんが話をすると、受話器を電話口に置き、俺の顔を見る。
「蒼介、この後の予約どうなってる?」
「夕方前まで予約のお客さんはいないですよ、どうしました?」
「明日引き取りにくる、国分寺さんが怪我したとかで来れなくなったみたいだ」
「それで、納車するって言ってたんですね」
「おう、お客のバイクをずっと預かるのは好きじゃないからな」
ここに置いといて、何かあればこちらの責任になっちまうからなとおやっさんは帽子の上をかいていた。
「そんなに遠い場所じゃないから、バイクで後をついてきてくれないか?」
「いいですよ、ちょうどよく手空いてましたし」
帰りは2人乗りで、帰ってくるというわけか。
「助かるぜ、それじゃさっさと行くするか!」
俺は自分のヘルメットを持って、おやっさんの後ろを着いていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ひーまー!」
私はベッドの上で大の字になりながら1人で呟いていた。
時刻はもうすぐお昼になろうとしていた。
朝、バイトに行く蒼にぃを見送ったのはいいがそれ以降、やることがなくてずっとベッドの上でゴロゴロとしていた。
「何で夏休みに入ったのに蒼にぃ、バイト入れちゃうのー!」
昨日も結局は蒼にぃと甘い夜を過ごすことなく終わってしまった。
毎度のごとく布団の中に潜り込んだけど、それだけで私の欲求を満たすことはできるわけがない。
それに加えてすることもなく、現在に至る。
「うぅ……寂しいなあ」
そう思っていると、スマホからLIMEの通知が入ったことを告げるポン!という音が鳴り出した。
もしかして蒼にぃかもと思いスマホを取り、画面を見る。
Rika.T
『やっほーみこっちおきてるー?』
送信先は愛しの蒼にぃではなく鶴嶺さんだった。
やりきれない気持ちを抑えながらLIMEで『おきてるよー』と返信していく。
Rika.T
『さっき彼氏がバイクの引き取りに行ったんだけど、天城くんバイトみたいだね』
鶴嶺さんの送信内容に対して、知ってるよと思いながらも白々しく「そうなんだー」と送る。
Rika.T
『いっそのこと行ってみてもいいんじゃない?』
Mikoto.K
『でも私、バイク持ってないよ?』
蒼にぃのバイト先はバイクの整備工場のため、バイクを持っている鶴嶺さんならともかく
免許すらもっていない私が行っても、何しに来たんだと下手すれば怒られてしまいそうだ。
Rika.T
『あそこ、カフェも併設しているんだよ。 カフェだけの利用も大丈夫だって言ってたよ』
また、鶴嶺さんの話では蒼にぃはそっちでも業務を行っているらしい。
しかも、件の神崎さんと一緒に。
Mikoto.K
『よかったら場所送ってもらっていい?』
Rila.T
『神崎モータースで検索かければ出てくるよ』
言われるとすぐにブラウザを開き、検索ワードに『神崎モータース』と入力する。
すると、マップと一緒に住所が表示されていた。
ここから歩いてもそんなに遠くない距離だった。
MIkoto.K
『でてきたよ、ありがとう!』
Rika.T
『よかった! 検討を祈ってるよ!』
最後にバイクで豪快に走っているブルドックのスタンプを送ってきた。
LIMEを閉じると、すぐにクローゼットから適当に取り出した服に着替えると足早に家を出た。
「あったぁ……」
家を出て歩くこと30分。
途中で迷ったため、ネットで表示された時間よりかかってしまったが目の前に『バイク整備・修理 神崎モータース』と書かれた看板を発見した。
いかにもテレビや写真で見る町工場といった感じの佇まい。
その工場と隣り合わせで工場とは正反対と思える洋風の建物が建っていた。
入り口には『コーヒー・軽食 カフェKANZAKI』と書かれた看板がかけられている。
「本当に工場とカフェが一緒になっているんだ……」
不釣り合いの2つの建物が並んでいることに不可思議とも不釣り合いと思える感覚を覚えながらカフェのドアをゆっくりと押す。
カランカランと鐘のような音が店内に響いていた。中にはテーブル席が2つに横長のカウンター席が4つとそこまで狭いとも広いとも言えない感じの広さだった。
「いらっしゃいませ〜」
カウンターの奥から、ゆったりとした声で出迎えられる。
声の方へ顔を向けると、おっとりとした女性がカウンターの奥に立ち、私を見ていた。
もしかしてこの人が神崎千智さん……?
神崎さんらしき人は私の方へ来ると、「こちらの席へどうぞ」と案内をしてくれた。
その時に全身を見ることができたのはいいけど……
「くっ……!」
彼女のと、ある部分を見て悔しさがそのまま口に出てしまっていた。
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【あとがき】
▶当作はカクヨムコンに参加中です!!
お読みいただき誠にありがとうございます。
次回もお楽しみに!
【お知らせ】
大晦日と元旦はバタバタしますので、投稿はお休みとなります!
次回は1/2になります。
今年1年ありがとうございました!
来年もどうぞよろしくお願いいたします!
皆様、よいお年を!
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