第26話


「……あったと思ったのに条件が厳しいな」


 家事を済ませてからずっと、PCの前でずっとディスプレイとにらめっこをしていた。

 ……これが本当に見ているだけならどれだけよかったことか。


 テスト休みに入ってからずっとスタジオを探していた。

 使うのは俺ではなく咲耶……正式には398と言った方がいいのか。


 さっき、よさそうなところを見つけたのだが、使用条件の中に『未成年は親の許可が必要』とかいてあった。

 それがなければ料金そこそこでホームページの写真の見た感じよさそうだったんだけどな……。


「今日も見つからないか……」


 PCのディスプレイの右下にある時間に目をやると、真夜中をとっくに過ぎていた。

 いつもならまだいいかと言いたいが、明日は1学期の終業式で登校しなければならない。


「さすがに今日は寝るか……」


 明日我慢すれば本格的な夏休みだし、午前中耐えればいいだけだしな。

 PCをシャットダウンしてから部屋の灯りを消して布団に入る。



「ふわあ……眠すぎる」


 布団に入ってすぐ起きた様な感覚のまま布団から抜け出して洗面所で顔を洗う。

 外の気温が高いのか、蛇口からでてくる水が温い気がした。

 タオルで顔を拭いてから台所に向かう。


 テーブルの上には急須と湯呑みが置かれていた。

 どう見ても父親のなのだが、飲んでそのまま仕事に向かったのだろうな

 ……ホント体平気なのか心配になってくる。


「たしか、昨日買っておいたパンがあったはずだな」


 食器棚の隣にある棚を開けると、袋詰めのクロワッサンがでてきた。

 もっとあった気がしたんだが、咲耶が食べたのか……。


「とりあえず食べるとするか」


 冷蔵庫から市販の紅茶とコップを取り出して注ぐと袋からクロワッサンを取り出して食べていく。

 音がないのが寂しかったので、テレビをつけると報道番組が始まっていた。

 学生は明日から本格的に夏休みに入るためか、海や山のレジャー特集をやっていた。


『みなさん海ばっかりいいますけど、山もいいんですよ!』


 1人の解説者が山の素晴らしさについて力説していた。

 俺もどちらかと言えば海より山のほうが好きかもしれない。

 単純にバイクで山道走ってるのが楽しいからなんだが。


 しばらくの間、山と海の論争が続いていたが、時間がきたのか司会者が無理矢理、話を切って次のコーナーへと進んでいった。

 キリがいいので着替えるために部屋へ戻ることにした。


「……そう言えば咲耶起きてないよな?」


 部屋の前に来て、今まで姿がなかったことに気づく。

 

「……まさか忘れているんじゃないだろうな」


 すぐに開けて確認したいところだが、着替えている可能性もあるのでまずはドアをノックすることに。

 3回ほどノックするが返事どころか足音すら聞こえなかった。


「……寝てるな」


 すぐにドアを開けて中に入ると、ベッドの上で最近買った抱き枕に抱きつきながらくの字で寝ている咲耶の姿を発見した。

 ちなみに暑かったのか、布団がとんでもない方へ落ちていた。

 

「おーい咲耶、今日は終業式だぞ」


 声をかけるとすぐに「うぅ〜ん」と何かが詰まった様な声をあげる。

 そしてすぐに体を起こすが、脳まで完全に覚醒していないのか、目は遠くを見つめていた。


「起きたか、洗面所いって顔洗ってきたらどうだ?」


 咲耶は俺の方を見ると、近くに寄ってくる


「蒼にぃ……」


 そして呂律が回らない声で俺の名前を呼ぶと、俺の体を抱きしめ……。


「一緒に寝よう〜」


 そのままベッドに倒れ込む、もちろん抱きしめられていた俺もそのままベッドに倒れ込んでしまう。

 手と足を使ってガッチリと固められているため逃げることはほぼ不可能だった。


「こんなことしてたら遅刻するだろうが!」


 今の俺にできることと言えば……


「ふぇ〜いひゃいよ〜」


 この状態で唯一、自由に動かせる手を使って咲耶の頬を引っ張る。

 きちんと毎日手入れしているためか、ずっと触りたくなる様な弾力のある肌だった。


「学校なんかいきたくなーい! 今日はずっとここで蒼にぃとゴロゴロニャンニャンしていたいー!」


 ベッドの上で子供のように手を足をバタバタとさせていた。



 何とか、咲耶を制服に着替えさせることまでできたが、ずっと咲耶は不貞腐れていた。


「テスト休みの間、蒼にぃと全然ニャンニャンしてない!」

「……前にも聞いた覚えがあるがニャンニャンって何だよ!」


 コップに紅茶を注いでから咲耶の目の前に置く。


「そんなこと朝から言えるわけないでしょ!」

「……使ったのそっちなんだけどな」


 咲耶は紅茶を一気に飲み干すと俺の顔を見ていた。


「蒼にぃ、今日はバイト?」

「いや、今日は休みだな」

「ホント!?」


 ほんのちょっと前まで世界の絶望を味わった様な顔をしていたが、一気に平和が訪れた様な明るい表情へと戻っていた。


「ってことは今日は帰ってきたらずっと家にいる!?」

「まあ、出かける用事ないしな」


 咲耶は子供のように両手をあげて「わーい」と叫んでいた。


「午前中我慢すれば蒼にぃと一緒にいられる……! しかも明日からは夏休み!」


 何か急に1人で叫び出したぞ、大丈夫か?


「それじゃ先に行ってるから! 遅刻しちゃダメだからね!」


 そう言って咲耶はカバンを持つと勢いそのままに玄関を飛び出して行った。


「……相当ちょろいな我が妹は」


 ちなみに狙って言ったのではないのであしからず。


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【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!

 

お読みいただき誠にありがとうございます。

次回もお楽しみに!


今日は普通の土曜日です。もう一度いいます今日は普通の土曜日・・・。

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