第25話


「……寝れない」


 テスト休みに入って数日の真夜中。

 布団に入ったのはいいが眠気がやってくることがなかった。


「あれ以来ずっと生活のリズムが滅茶苦茶だったし」


 旅行から帰ってからは朝方に寝て昼すぎに起きるといった生活だった。

 することもないし、たまには早く寝ようと思ったのだが、この不始末である。


「蒼にぃまだ寝てないかなぁ……」


 部屋のドアを開けて目の前の蒼にぃの部屋みると、明かりが漏れていた。

 つまり、まだ寝ていないということだ。


 いつもならこの時間にはとっくに寝ているのに、ここ最近はずっと起きていた。

 なのでここ何日、彼のベッドに忍び込むことができなくなっていた。


「うぅ……蒼にぃニウムが不足してきた」

 

 自分でも何を言っているんだと思ってしまうが、端的に言えば欲求不満である。

 ずっと蒼にぃのベッドに忍び込んで寝ていたのに、突然それができなくなってしまったのでから欲求不満も溜まってしまうのもしかたない。


「……どうしよう」


 ベッドに腰掛けてから横になるが、眠くなるどころかなんだか余計に目が冴えてきたような気もしてくる。

 そう言えば人間寝ないと変なテンションになるって聞いたことがあるけど、今の私がそうだった。

 そうなってくると、碌でもないことを考えが浮かんでしまう。


「そうだ! 蒼にぃが来るのを待てばいいんだ」


 そう言って私は自分の枕を持って部屋を出て行った。


 いつもは蒼にぃが寝てから布団に忍び込んでいる。

 単に蒼にぃの寝る時間が早いだけなんだけど……。


 つまり、いつもの私は守りに入っているけど、今日はもう攻めてみよう!

 ということだ。


 

「こちらコードネーム398、目標の場所に到着」


 目の前の部屋に立ち、この前みた映画の主人公が口にしていたセリフの真似をしていた。

 言ってから今日の私、何か変かもと思ってしまう。

 こういうのは雰囲気が大事だから!


「えっと、蒼にぃは……」


 気づかれないようにドアを開けると中からカタカタと何かを叩く音が聞こえてきた。

 蒼にぃの姿が部屋の奥にあったので、おそらくパソコンの前にいるので、キーボードを叩く音だろう。

 っていうことはネットサーフィンでもしているのかな。


「ネットに夢中になってるから気づかないはず……」


 ゆっくりとドアを開けていくと、ギィィィと耳を塞ぎたくなるような音がドアから鳴り出した。


 「うぎゃあああ!!」

 

 いつもはしないのに何でこういう時に限って鳴るのー!

 

「あれ……?」


 音がしたにも関わらず、部屋の主がこっちに振り向く素振りがなかった。

 

「ヘッドフォンしてるから聞こえてない」


 蒼にぃは耳周辺をスッポリとヘッドホンが包んでいた。

 それでも多少は聞こえると思うけど、それでも聞こえないぐらいの音量で聴いているのかもしれない。

 小さく「セーフ」と呟きながら部屋の中に入り、そのままベッドの上にダイブする。


「ミッションコンプリートゥ……」


 任務成功した映画の主人公のように親指を立てていた。




「うわっ……!?」


 任務成功してから数分して蒼にぃが私の存在に気づいた。

 ひと段落ついたのか、ヘッドフォンを外してからこちらに向けて椅子を回転させた時に気付いたようだ。


「蒼にぃのベッドは占拠させてもらったよ、返してほしければ私を抱き枕のように一所懸命抱きつくがよい!」


 やっと気づいてくれた相手に対して私は不敵な笑みを浮かべていた。


「い、いつからいたんだよ……!」


 蒼にぃは驚きながらキーボードを2つのボタンを押していた。

 するとディスプレイ画面にIDとパスワードを入力する画面に切り替わる。


「30分ぐらい前だけど……」


 そう言いながら、ディスプレイの方に視線を向ける。


「……そ、そうか。 何だ怖い夢でも見たのか?」


 蒼にぃは何か気まずそうな表情を浮かべていた。

 それを見て私は確信をする。


「蒼にぃ、もしかして……!」

「な、何だよ……」

「お楽しみ中だった?」

「はぁ!?」


 蒼にぃは裏返った声で叫んでいた。

 

「言ってくれれば喜んで協力してあげたのに、まあ……色々と足りないものはあるけど、映像よりは臨場感があると思うんだよね」

「おまえは一体何を言っている……いや、頭が痛くなりそうだから言わなくていい」


 蒼にぃは左手で頭を押さえながら大きくため息をついていた。


「だって、私がいることに気づいてスリープ画面にしてたから、そうかなって」

「……そんなこと考えるのは俺の知ってる限りじゃ咲耶だけだと思うが?」

「えへへ、褒められちゃった」

「褒めた覚えは微塵もないんだが……?」


 蒼にぃは再びため息をついていた。


「で、何を見てたの?」

「内緒」

「やっぱりえっちぃものを見てたんでしょ!」

「何でそっちに繋げようとするんだよ……」

「じゃあ言ってもいいでしょ?」


 私の言い分に蒼にぃはため息をつくだけだった。


「ってか、何しに来たんだ?」


 急に話を変えてきた。

 私も聞かれたくないことや見られたくないものもあるし……。

 これ以上聞くのはやめておこうかな。

 

「蒼にぃを夜這いしに来た!」

「……真面目に聴いた俺がバカだったな」


 蒼にぃは両手で頭を抱え込んでいた。


「だって、もう何日も蒼にぃと一緒に寝てないから、欲求不満が爆発しそうなんだよ! 今日も無理だったら体が制御できなくて自分の意思とは別に蒼にぃを押し倒しちゃうかもしれない!」


 蒼にぃに迫る勢いで言葉をぶつけていく。

 正直自分でも何を言っているんだろうと思ってしまう。

 もちろん、それを聴いていた蒼にぃは呆れた顔をしていた。

 

「……わかったよ後で行くから部屋で待ってろ」


 え? 今のってもしかして……!


「あ、えっと……あれかな? 汗かいてるからシャワーとか浴びた方がいいかな……?」

「……こんな時間にシャワー浴びたら風邪引くぞ」

「そ、そうだよね……! だ、大丈夫だよ! 私、毎日念入りに体洗ってるから!」


 話しているうちに顔が熱くなっていることに気づく。


「……何を言っているのかわからないけど、大丈夫じゃないか?」


 だ、大丈夫って、あれかな? ありのままの私がいいってこと……だよね!


「う、うん! じゃあ部屋で待ってるから! 早く来てね、蒼にぃ!」


 ベッドに置いた自分の枕を持つと急いで部屋に戻ってベッドにダイブする。

 うそ、ドキドキが止まらないんだけど……!


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「……危なかった」


 咲耶が部屋を出たのを見て、俺は安堵の息を吐く。

 椅子をPCの方に向けてから、パスワードを入力してスリープ前の画面を表示させる。


「なかなか難しいな……」


 俺はため息をつきながら再びキーボードを叩き始める。


 ディスプレイには誰もが利用する検索ページが表示されていた。

 思いついたワードを入力するために検索欄をクリックすると今まで打ち込んだ「スタジオ」「安い」

 他にも自分が住んでいる市の名前が縦に表示される。


「……でも、見つけてやるからな」


 俺は検索欄にキーワードを入力すると勢いよくEnterキーを叩いた。


==================================


【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!

 

お読みいただき誠にありがとうございます。

次回もお楽しみに!


もういくつ寝たら今年も終わりかぁ……

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