第22話


「蒼にぃ、露天風呂最高だね!」

「そうだな……」


 露天風呂の縁に腰掛けながら足だけを浸からせて足をバタバタと動かすと、パシャパシャとお湯が跳ねる音がする。

 

「ねぇ蒼にぃ、何でずっと外の方を見ているの?」


 蒼にぃは露天風呂に入ると、私の方を見ないでずっと外の景色を眺めている。

 まあ、理由はわかっているんだけど……。


「ちゃんとバスタオルで隠れていているから大丈夫だよ?」

「おっ! あっちの風景綺麗だなー!」


 蒼にぃは私の言葉を遮るように大きな声をあげていた。

 

「それに昔はよく一緒にお風呂入ってたでしょ?」

「いつの頃の話をしているんだよ……」


 うん、私が幼稚園に入ってすぐの頃かな?


「もう、蒼にぃは真面目すぎるよー、ここにいるのは私と蒼にぃだけだよ!」


 景色をずっと眺めている蒼にぃに向けて声をかけるが、こっちを向く気配はなかった。


「仮に、身も心も開放的になった蒼にぃがこのバスタオルを剥ぎ取って押し倒したとしても私もいつでも——」

「——おっ! あっちに島があるな!」


 またもや私の言葉を遮るように大きな声をあげていた。


「むぅ……蒼にぃの石頭」


 湯船に浸かっている足で景色を眺めている蒼にぃに向けてお湯をかけるが、反応すらなかった。



 それからずっと、蒼にぃは私の方を向くことはなかった。

 私の方を向かせようといろんな手を考えて実行に移すも蒼にぃの声に阻まれてしまっていた。


「こうなったら最終手段!」


 その名も、『これもスキンシップの1つ! 体ピッタリくっつけて気分も体も最高潮』作戦!

 そうと決めたら、ゆっくりと湯船の中に入っていく。

 蒼にぃは景色を見ることに夢中というか私の方を見ないようにしているため、私がやろうとしていることには気づいてはいないようだった。


 ゆっくりと湯船の中を進んでいき、遠くを見つめている蒼にぃの背中にピッタリとくっつけた。

 両手を前の方にかけながら、彼の名前を呼ぶ。


「蒼にぃ〜!」


 いつもならビックリして大声をあげるのだが、今回に限ってはそうはならず……。

 まったく動く素振りもない……。

 もしかして、気づいていない……!?


「はっ!?」


 そんな蒼にぃをみて気づいたことがあり、ふと自分の2つの大双丘(自称)に触れてみる。

 ……小さすぎずかと言って大きともいない。

 いや、このぐらいがちょうど良いんだ! 大きすぎると肩が凝りまくるっていうし!


「って蒼にぃ無視しないでよー!」


 彼の肩を掴み、グラグラと揺らすと、力が抜けたように私の方へ倒れかかってきた。

 顔は赤く目はボーッと虚だった。


「蒼にぃ、もしかしてのぼせちゃってる!?」


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 


 まだ俺が小学校に入る前だったかな……。

 ほぼ毎日といって良いほど咲耶と一緒に風呂に入っていた。

 その頃は男と女なんて知るはずもなく、兄妹だから一緒に入るんだぐらいだと思う。


「蒼にぃ! がまんたいかいしようよ!」


 ある日、咲耶が風呂に入ってこんなことを言い始めた。

 どちらが長く風呂の中に入ってられるかというもの。

 何でこんなことを言い始めたのか、その時の俺はわかるわけもなく。


「それじゃいくぞ、せーの!」


 俺の号令で我慢大会がスタートした。

 最初はお互い余裕を見せていたが、咲耶の方がだんだん辛くなってきたようで


「蒼にぃはもうきついよね!」

「いーや、全然。 咲耶のほうこそきついんじゃないか?」

「わたしはこんなのぜんぜんへいきだから!」


 顔が真っ赤になり、顔が苦しいと言わんばかりの表情を浮かべていた。

 今考えれば、兄らしく負けてやってもよかったんだろうなと思う。


「うぅ〜」


 しばらくして、咲耶の顔が真っ赤になったことに気づいて俺は急いで母親を呼びに行った。

 どうやらのぼせてしまったようだ。


 クーラーの効いたリビングに咲耶を寝かせて、その上からうちわで扇いでいった。

 しばらくして咲耶は目をさまし……。


「蒼にぃ、しょうぶはわたしのかちね! きょうはわたしといっしょにねること!」

「はいはい、くだらないこと言ってないで寝てろ」


 何でこんなことが急に頭の中を駆け巡っているのだろうか……。

 知らないうちに俺の中で妹との良い思い出になっていたのかもしれない……。


(……にぃ……!)

 

 なんか遠くから聞き覚えのある声が聞こえていた。

 それになんか涼しい……?


『蒼にぃ!』


 遠くに聞こえていた声が今度ははっきりと聞こえてくると一瞬で視界が切り替わっていった。



「あ、起きた!」


 切り替わった先には柏葉美琴……咲耶の顔が映っていた。

 あれなんか、後頭部に何かぷにぷにと柔らかいものが当たっている?

 

「大丈夫? 蒼にぃのぼせたみたいだけど」


 咲耶は俺の顔をゆっくりとうちわで扇いでいる。

 そっか、ずっと風呂の中にいて頭がボーッとしてきたと思ったらのぼせてたのか。


「悪い、心配かけちゃったな……」

「ううん、私も気づかなくてごめん」


 咲耶は申し訳なさそうにしょんぼりとした顔をしていた。


「ってか今の俺どういう状態なんだ? さっきから頭に柔らかい感触がするんだけど」

「膝枕してるからね、しかも私の生膝!」


 だからさっきから咲耶が見下ろすように見ているのか……

 どうやら咲耶は俺をここに運んだ後、露天風呂から少し離れた場所にある横ながらのベンチに座ったようだ。

 体を起こそうと力が入らなかった。まだ頭が熱でやられているようだ。


「無理しちゃだめだよ」

「いや、おまえも辛いだろ、俺の頭を乗せた状態じゃ」

「全然、っていうかこのままにさせてくださいお願いしますって感じ!」


 どういう感じなんだよ……。


「それにさ……」

「どうした?」


 咲耶は不敵な笑みを浮かべていた。

 まったく何を企んでいるんだ?


「さっきからずっと景色みてたけど、ここからの景色も悪くないと思うんだよね!」

「……っていうと?」

「私の生膝に頭を乗っけられて、体全体を舐めるように見れるんだよ!」


 そう言って咲耶は自分の胸元に手を乗せる。

 その言葉を聞いて俺は思わずため息が漏れてしまう。


「余計なこと言わなければ最高の景色だったかもしれないのにな、残念だよ」


 俺の言葉に咲耶は「えー!」と大声をあげていた。


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【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!

 

お読みいただき誠にありがとうございます。

次回もお楽しみに!


次回は……温泉の後といったら……?

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