第21話


「後どれくらいで着く?」

「まだまだ全然……っていうかここどこだかわかるだろ」

「うん、近所のコンビニ」


 勢いよくバイクを発進させたのはいいが、咲耶が花を摘みたいと言い出したので仕方なく近所にあるコンビニでバイクを停めた。


「今度こそ行くぞ」


 バイク用のホルダーに自分のスマホをマウントさせる。

 画面には目的地に着く到着予定時間と距離数が記載されている。

 ……ちなみに現時点だと夕方前には着くようだ。


「今度こそオッケーだよ!」


 咲耶はヘルメットを被ると勢いをつけて俺の後ろに座った。

 俺にしっかりと掴まっているのを確認してから再びバイクを発進させた。



「ようやく半分ってところか……」


 途中の道の駅で休憩とちょうどいい時間だったので昼食を取ることに。


「特盛海鮮丼にアサリの味噌汁、あとどうしようかな……」


 飲食店に入り、案内されたのは窓側だった。

 外に映る海の景色は素晴らしいのにも関わらず、目の前の妖怪腹減らしは相変わらず食の優先度が高めのようだ。


「あまり食いすぎると夕飯食べれなくなるぞ」

「これで充分抑えてるよ、我慢しなくて良いなら海鮮丼を超大盛りにしてるし!」


 そんなのあるのかと思ったらメニューに載っていた。


「もういい、これ以上聞くと食欲失せそうだ……」

 

 咲耶が注文した特盛海鮮丼を見て、空いた口が塞がらなくなったのは言うまでもない。


「うーむ……このタコ煎餅もいいけど、こっちの醤油たっぷりのイカ焼きも捨てがたい」

「……どんだけ食えば気が済むんだ」


 出発するために店の外にでたのはいいが、咲耶が香ばしい匂いに釣られてしまう。

 釣られた先は外にある屋台の前。


「そろそろ行かないと夕方すぎるからこれ以上はダメだ」


 腕を掴み、バイクが停めてある駐輪場の方へ歩いていく。


「うわああああん! 蒼にぃのいじわるぅぅぅ!」



 駐輪場につくとすぐにバイクのエンジンをかける。

 思っていた以上に時間がかかってしまった。

 ちょっと急がないとまずいかもしれない……。

 

「ここからは休憩なしで行くぞ」

「はぁい……」


 先ほどまで元気に返事していた咲耶だが、おあずけされたのがショックなのか気分が急降下していた。


「……帰りもここに寄るから、そん時に食べような」

「わーい!! 蒼にぃ大好き!」


 さっきの返事が嘘だったかのように大喜びをする咲耶。

 

「……やっぱり脳と胃袋が直結してるだろ」

「もー! 褒めすぎだってばー!」


 ……まったく褒めてるつもりはないんだけど?



「と……到着」


 道の駅以降、どこにも立ち寄らずに走り続けて、目的地である旅館に到着した。

 夕方前に到着できてよかった……。


「うわあ……すごいね」


 咲耶は旅館を見て語彙力を失っていた。

 バイクで走りながら俺も同意見だった。


 100年以上続く老舗旅館であることはホームページに載っていた

 そこで外観の写真が載っていたので、見た時はすごいとしか言えなかった。

 そして、実物をみたとしても出てくる言葉は変わらなかった。


 派手なところはないのだが、歴史の長さから高級感を醸し出していた。

 旅館の目の前には広大な海が広がっている。調べた限りでは旅館は9階建となっている。

 高いところから海を眺めたら爽快だろうなと思ってしまう。


 バイクを駐車場の隅に停めてから旅館の中に入ると、奥から着物姿の女性がこちらに向かってきた。

 見た感じ30代ぐらいだろうか、テレビの着物教室のCMに出てくる女性のように和服に合うように髪を結っていた。

 

「本日宿泊の天城様でしょうか?」

「あ、はい……そうです」


 俺が答えると女性は丁寧に挨拶をする。


「本日、天城様のお世話を務めさせていただきます、九重ここのえと申します」

「よ、よろしくお願いいたします……!」


 今まで受けたことのない丁寧な対応をされて、戸惑ってしまう。


「それではお部屋までご案内させていただきます」


 九重さんは俺と咲耶の持っていたバッグを両手で軽々と持ち、エレベーターへ案内をしてくれた。



 

「本日のお部屋はこちらになります」


 九重さんに案内されたのはなんと最上階の部屋。

 部屋の中を見て俺も咲耶も言葉を失ってしまう。

 どう見ても2人で使う広さではないからだ。家の俺と咲耶の部屋を足しても若干足らないぐらいだ。

  

「あ、あの……?」

「どうなさいましたか?」 

「お部屋……間違えてないですよね?」

 

 俺が聞くと、九重さんは「大丈夫ですよ」と穏やかな表情で答えていた。


 部屋に入ったのはいいが、あまりにも場違いすぎて落ち着くことができなかった。

 ちなみに咲耶も同じようで、教室でいる時のように何も言葉にせず下を向いていた。なぜか正座で。

 

「何かございましたら、内線でご連絡くださいませ」


 旅館内の説明とお茶菓子の説明をすると九重さんは丁寧に挨拶をすると襖をゆっくりしめて部屋から退出していった。


「つ、つかれたぁ……」


 すると咲耶は正座をしていた足を解きテーブルの上に頭を乗せた。

 俺も同じように足を伸ばす。

 

「すごいところに来たな……」

「うん、なんか場違いって気がするよ」


 そう言って咲耶は立ち上がり、部屋の中を物色していく。

 奥の襖を開けると「おぉー!」と声をあげる。

 その声に反応すると、襖の奥には小さなテーブルと椅子が二つ置いてあった。


「……すごいな」


 壁一面の窓からは周りの景色が一望できた。

 先ほど駐車場でみた海が遠くまで見渡すことができていた。


「ね! 夜とかすごいきれいかも! 楽しみ!」


 そのままこちらに戻ると思ったが、もう一つ扉があることに気づくと開けて扉の奥に行ってしまう。


「うそぉぉぉぉ!!」


 咲耶は大声をあげていた。

 何か起きたのかと思って慌てて咲耶が向かった先に行くと……


「……ろ、露天風呂!?」

「客室露天風呂だよ!」


 正方形の形をした露天風呂があり、コポコポと音を立てて湯が貼られていた。

 周りは植木で囲まれているため、外から見られることはなさそうだ。


「咲耶……」

「な、なに……?」

「俺は大浴場にいくから咲耶はここでゆっくりしてくれ」


 そう言ってその場を去ろうとするが、袖を掴まれてしまう。


「ふっふっふ……この私から逃げようなんて10年早いよ、蒼にぃ」


 咲耶は何かを企んでるような表情で俺の顔をじっとみていた。


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【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!

 

お読みいただき誠にありがとうございます。

次回もお楽しみに!


次は待望(?)の温泉回です!!!

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