第19話
「それじゃ行ってくる。 たぶん夕方には帰ると思う」
「むー……いってらっしゃーい」
テスト休み初日、蒼にぃ作った朝ごはんを食べてから、バイトに行く彼を玄関で見送った。
ちなみにこの数時間前、久々に会ったパパを見送っていた。天城家にきて数えるぐらいしか顔を合わせていなかった。
……体壊さなきゃいいけど。
玄関の鍵をかけてから自分の部屋に戻って前にかった本の続きを読んでいく。
と、言っても数ページしか残っていなかったので、1時間もしないうちに読み終えてしまう。
「うわあ、すごいいい所で終わってる……」
主人公である兄がヒロインの妹に自分の思いを告げようとしているところだった。
「もうこれじゃ蛇の生殺しだよー!」
この主人公は妹に一体、何を言おうとしているんだ!
っていうか、そんなこと私も言われたいー!
と、思うと同時にベッドにダイブしてジタバタと暴れていた。
「……はぁ、蒼にぃじゃそんなこと言ってくれないしね」
仮に言われたら、私自身どうなるかわからない。
嬉しさのあまり彼を押し倒してとんでもないことをやってしまうかもしれない。
……何せ初日にあんなことをしてしまったのだから、絶対にないとは言い切れる自信がない。
「蒼にぃと一緒にいたいなあ……」
ベッドで大の字になって天井を見ながら思わず呟いていた。
せっかくのテスト休みなんだからゆっくりすればいいのに……。
「もしかして、バイト先に気になる子がいるとか!?」
衝動的にどうしようもないことが脳裏に浮かんでしまう始末である。
「……だめだ、1人でここにいるとネガティブな考えしかでてこない」
こうなった時は、外にでるのが一番。
窓からは燦々と輝く太陽が見えるほど、外は晴天なり。
散歩がてら歩いて汗を流せば、悪い考えなど吹っ飛ぶに違いない
「……できることなら蒼にぃと別のことで汗を流せれば最高なんだけど」
口に出してから気づいた。
今、さらっととんでもないこと呟いたなと……。
日焼け止めクリームをたっぷり塗り、薄手のパーカーを羽織って外に出る。
出た瞬間、嫌になるくらいの日差しと耳を塞ぎたくなるようなセミの鳴き声に歓迎をされる。
これだけで背中に汗がふきだしそうになる感覚になっていた。
「続きがあるかもしれないから、ショッピングモールに行こうっと……」
しばらく歩いていくと駅へと続く商店街に入っていった。
お昼前のためか、人通りはそこまで多くなかった。
「ホント今日は暑いわね〜」
「こうも暑いと水分摂っててもすぐなくなっちゃうわよね〜」
日陰で初老の女性たちが日陰に入って話をしていた。
それなら家に帰るか店に入るかすればいいのにと内心思ってしまう。
商店街通りを通りすぎてからしばらく歩くと駅に到着した。
すぐに階段を上がってロータリーに向かう。
ロータリーからショッピングモールまでは屋根があるので眩しい日を気にせずいくことができるからだ。
「……どうせなら、周りも囲ってほしいんだけどなあ」
思ったことを口にしながら1人歩いて行く私である。
ショッピングモールに入ると外とはうって変わり、パラダイスかと思えるぐらいの涼しさ。
夕方までここにいようかと思ってしまうほどだった。
かと言って行きたいところは限られているのだけど。
「とりあえず、本屋かな……」
目の前のエスカレーターを上がって目的の本屋がある4階へ。
『有林書店』と書かれた本屋に入り、他のコーナーを通り過ぎてまったくと言っていいほど人がいない洋書コーナーへ。
「軽くネットで調べてみたら続きはでているみたいだけど……」
棚を指差しながら確認していく。
目的の本の1巻を見つけることができたので、横にスライドしていけばあるはず……
「あった!」
目的の本を見つけるとすぐに取り出して、パラパラと中身を確認していく。
ちょうどよく、気になっていた主人公が妹に思いを告白する箇所が綴られていた。
「これは楽しみ〜!」
勢いよく本を閉じ、一目散にレジに向かっていった。
「只今、抽選を行なっておりますので、よかったら挑戦してみください」
レジで清算すると、カバーがついた本と一緒に抽選券が渡された。
「ありがとうございました、またどうぞお越しくださいませ!」
レジスタッフに見送られながら店を後にする。
「抽選会どこでやっているんだろう……?」
受け取ったチケットを見てみると、小さく1階中央と書かれていた。
「せっかくだしやっていこうかな」
呟きながら下のエスカレーターに乗っていった。
抽選会場がある1階中央は女性向けのアパレルショップが並んでいる場所だった。
名前の通り、その中の真ん中で行われていた。
平日のお昼頃とあって、並んでいる人も多くはなく、前の人たちもテンポよく進行していた。
最後尾に並びながらスタンドに建てられた景品一覧を見て行く。
1等には隣の県の温泉街にある老舗旅館1泊2日旅行券と大きく書かれていた。
「温泉かぁ……そういえば日本の温泉は行ったことないから行ってみたいなぁ」
旅行券は2名様までと書かれているので、蒼にぃと一緒にいきたい。
のんびりとした空間で、2人きりでまったりした後は2人で温泉へ。
天然の湯に浸かり、体が火照てってきたところで蒼にぃと私は——
「あの〜?」
夜の旅館が見えていたはずが突如、モールの一画に切り替えられる。
声がする方を向くと、白いワンピース姿で真っ白の肌の女性が立っていた。
わ……超美人さんだ!?
「順番きてますよ?」
その女性に言われるままに抽選会場のほうを向くと、抽選のスタッフが私の方を見て「こちらへどうぞ〜!」と声をかけていた。
「あ……ありがとうございます!」
声をかけてくれた女性に頭を下げるとすぐに案内された場所へ向かう。
「それではゆっくりと回してくださいね」
抽選券をスタッフに渡し、ガラガラと音のする抽選機をグリップを握って回していく。
一周したところで、排出口からポンと小さな玉が飛び出してきた。
色は水色、どう見ても当たりには見えなかった。
「おめでとうございます!!!」
目の前でスタッフが持っていたハンドベルで使う様なベルを勢いよく降り出していった。
「え……?」
その音とスタッフの声で私は驚いてしまっていた。
「1等! 老舗旅館1泊2日旅行券です!」
周りのスタッフと抽選会の周りにいた人は一斉に拍手をしていた。
——突然のことすぎて状況が理解できず、私は驚いた顔をしているだけだった。
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【あとがき】
▶当作はカクヨムコンに参加中です!!
お読みいただき誠にありがとうございます。
次回もお楽しみに!
突然ですが、2人には旅行させます(笑)
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