第18話
「有川、岡園、星谷、えっと、それと静原は明日から補修が始まるから忘れずにくるように」
テスト最終日のホームルームで、担任から名前を呼ばれたクラスメイトは嘆きの叫び声をあげていた。
「まったく、静原はあと1点取れてれば赤点は免れたのにな、おしかったな」
「先生! その1点いくらですか! 言い値でだしますから!」
翔太の声にクラスメイトたちはドッと笑い出していた。
「よかったね、補修にならなくて」
隣で咲耶……もとい、美琴が小声で話しかけて来た。
「土日頑張った甲斐があったよ……」
だが、それに関しては1つ納得いかないことがある。
「……何で成績優秀者なんだよ、俺より全然やっていなかったのに」
補修者の前に学年で10位以内の生徒、俗に言う成績優秀者が発表されたのだが、なんとその中に『柏葉美琴』の名前があったのである。
「ふふふ、能ある鷹は鼻を隠すんだよ」
「……どうやって鼻を隠すのか聞きたいぐらいだな」
ちなみに隠すのは鼻ではなく爪だ。
「がああああああああ! 俺のテスト休みがなくなっちまったあああああ!」
ホームルームが終わり、補修者以外のクラスメイトたちはテスト休みの話をしながら教室から出ていく。
俺もその1人のつもりだったが、運悪く喚き散らかす翔太に捕まってしまう。
ちなみに美琴はLIMEで校門で待ってると行って先に出ていってしまった。
「残念だったな、まあ日頃の行いが悪かったと思って我慢するしかないな」
「俺の日頃の行いは良いにきまってるだろ! ゲームのPvPで相手を煽りながらドン底に叩き落とすぐらいしかしてないぞ!」
「……報いを受けろ」
そう言い放ち、俺はカバンを持って立ち上がる。
「ちくしょう! お前は俺の味方じゃなかったのかよぉぉぉ!」
翔太は俺の机をバンバンと大きな音を立てて叩いていた。
「あれ〜蒼介くんだ」
翔太から逃げるように教室から抜け出すと、後ろから眠くなりそうなのんびりした声が聞こえた。
振り向くと、笑顔のまま右手を自分の頬にあてている神崎千智の姿があった。
「千智か、おまえも今帰りか?」
「そうですよ〜、明日からテスト休みなのでうれしくて〜」
「……まあ、千智が補修対象者になるなんてないよな」
千智は学年で常に1位を取り続けている成績優秀者だ。
毎日カフェで業務をしているにもかかわらず、どこに勉強への時間を充てているんだ……。
そう話すと、千智はふふっと微笑む。
「もしかして蒼介くん、明日から補修ですか〜?」
「いいや、ギリギリ免れたよ……って何で補修確定の体で話してんだよ」
「冗談ですよ〜私はわかっていましたから〜」
千智は俺の手を取って上下に振り出していた。
「何の迷いもなく人の手を握るなよ、周りに勘違いされるぞ」
俺が手を離すと、千智は少しだけ残念そうな顔をしていた。
「そうですか〜? 蒼介くんとはずっと一緒なので〜!」
千智とは中学からの付き合いだ。
父親がその頃にバイクに乗り始め、今のバイクを買ったのが神崎モータースだった。
俺もバイクを乗るようになり、ほとんど家族同然の付き合いにもなっていた。
「あ、明日からお店にこれそうですか〜?」
「そのつもりだよ、テスト勉強で最近行ってなかったしな」
俺の返答に両手をポンと合わせて喜ぶ千智。
その様子を見ていると、ポケットの奥から振動がし始めていた。
振動の元はスマホで、取り出して画面を見ると咲耶からのLIMEが来ていた。
Mikoto.K
『蒼にぃはやくー!』
『おなかすいたー!』
『もうわたしがまんできないー!』
LIMEの通知を見て思わずため息が出てしまう。
これ以上待たせたら何を言い出すのやら。
考えただけで恐ろしくなる……。
「悪い、千智。そろそろ行かないと。 明日は朝から行くっておやっさんに伝えといて」
「は〜い! それじゃまた明日〜」
無理やり話を切り上げると、千智はゆっくりと手を振る。
俺もそれに返すように手を振ってからその場を後にした。
「蒼にぃ、おーそーい!」
校門に行くと、咲耶は待ちくたびれたと言わんばかりの顔をしていた。
「別に無理して待たなくてもいいんだぞ、どうせ家に帰れば顔を合わせるわけだし」
「そういう問題じゃないの! 蒼にぃと一緒に学校から帰ることに意味があるんだよ!」
咲耶は俺を指さして自信満々に話していた。
「ふわぁ……疲れたぁ!」
駅から家に向かう途中の商店街通りを歩く。
お昼に入ったばかりだからか、商店街にある飲食店にはたくさんの人が利用していた。
「明日からテスト休みだね、何しようかなー!」
休みにはいることが嬉しいのか、咲耶は上機嫌な様子だ。
「明日は蒼にぃと一緒に家でゴロゴロして——」
「残念だけど明日はバイトだぞ」
俺が横から口を挟むと咲耶は体中に電撃が駆け巡った様な驚いた顔をしていた。
「な、なんでよー!」
「ここ最近テスト勉強のために休んでたしな」
咲耶は小動物の様に頬を膨らませていた。
「えー! せっかく蒼にぃとゴロゴロニャンニャンな1日を過ごそうと思ってたのに!」
「……何だそのニャンニャンっていうのは」
「ベッドでゴロゴロしたあとにするって言ったら……って恥ずかしいこと言わせないでよ!」
「ぐおっ!」
咲耶は嬉しそうな表情のまま俺の背中を勢いよく叩く。
思わず変な声が出てくるほど痛いんだけど!?
「明日が無理なら、今日の夜お祝いしようよ!」
「何のお祝いだよ?」
「補修から免れたアーンド! テスト休みに入った祝いだよ!」
咲耶はいえーい!とVサインを俺に向ける。
「随分無理矢理すぎないか?」
「こういうのはノリと勢いだよ」
俺は思わずため息混じりに、承諾することにした。
と、いうか2人きりの時、つまり咲耶の時は上機嫌になると止められないのが事実である。
「やった! 蒼にぃ大好き!」
「はいはい、そう言うことは大きな声で言うな」
大きな声を出すから商店街にいる人たちが、微笑ましい顔でこっちを見ているじゃないか。
言った本人はまったく気にせずといった感じだ。
「やっぱお祝いと言ったらケーキだよね!」
するとすぐに咲耶は目の前のケーキ屋に入っていった。
「まあいいか……」
——ちなみにこの数分後、この言葉を口にしたことを激しく後悔する。
夕飯後に使った食器を片付けていると、咲耶が先ほど商店街で買ったケーキを皿の上に乗せる。
「……あのさ」
「うん? 蒼にぃも食べる?」
「……いらないっていうか無理」
先ほど咲耶が買って来たのはケーキはケーキでも……。
ホールケーキだった。しかも生チョコたっぷりの……。
「夕飯をあれだけ食ってよく入るな……」
「うん、育ち盛りだし、甘いものは別腹だから!」
皿の上に装ったケーキをフォークで小さく切りながら答える咲耶。
そのセリフはむしろ俺がいうべきセリフだと思うんだけどな……。
「蒼にぃはケーキ食べないの?」
そう言って咲耶はケーキを刺したフォークをこちらに向けるが、俺はゆっくりと首を左右に振る。
「咲耶の食べてる姿を見てるだけでお腹いっぱいだよ」
「え、もしかしてそのまま私を食べたいって遠回しに言ってたりする?!」
咲耶は興奮気味に俺の方に身を乗り出してくる。
「どうやって解釈したらそんな風に聞こえるんだ」
この調子でテスト休みに入ったらどうなるんだかな……。
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【あとがき】
▶当作はカクヨムコンに参加中です!!
お読みいただき誠にありがとうございます。
次回もお楽しみに!
次回からワクワクドキドキのテスト休み編はっじまるよー
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