第17話
「蒼にぃ……」
「どうした?」
「糖分不足なう」
「さっきたっぷり食べたろ……」
俺は手にしているシャーペンで咲耶が食べたカップアイスを指す。
しかも2個。
現在時刻はとっくに夜の時間。
テレビをつけたら人気アイドルが主役を務めるドラマがやっている時間だ。
いつもなら見ているところだが……。
「もう我慢できない! 私はアイスを食べるよ蒼にぃ!」
「別にいいけど、腹壊してもしらないぞ」
「その時は蒼にぃに看病してもらうから!」
「テスト終わってにしろよ……」
咲耶はすぐに立ち上がって台所に向かっていった。
すぐにガラガラと引き戸タイプの冷凍庫を開ける男が聞こえた。
「アイス〜♪ひんやりあまあまアイス〜♪」
さっきまで辛いとか遊びたいとか騒いでいたのに今では鼻歌まで歌って上機嫌になっていた。
「さてと、集中するか……」
夕飯前に部屋から持って来たヘッドフォンをセットしてスマホから音楽を再生させてから
教科書とノートを開いていく。
「うがあああああ! 糖分不足ぅぅぅ!」
「うおっ!?」
隣に座る咲耶が滅多に出すことのない声で叫び出したので、驚きの声をあげてしまう。
さっき食べてから1時間ぐらいしか経ってないぞ……?
「アイスが私を呼んでいる〜♪」
咲耶は呟きながら台所に向かっていった。
「そんなにアイスばかり食べてると、冗談抜きで腹壊すぞ」
俺の小言など聞こえてるわけもなく、咲耶はカップアイスを持ってリビングに戻って来た。
「そんな蒼にぃに素晴らしい言葉を授けよう」
「……何だよ、素晴らしい言葉って」
咲耶は持って来たチョコミントアイスをスプーンで掬ってから口の中に運ぶ。
勢いよく飲み込んでから自信たっぷりな表情でスプーンを俺に向けて……
「甘いものは別腹なんだよッ!」
何か背景に強調線が書き込まれそうな勢いで話す咲耶。
「そんなこと自信たっぷりに言われてもな……」
「それなら論より証拠!」
そう言って咲耶はスプーンでアイスを掬うと俺の口元に差し出していた。
「蒼にぃもそろそろ糖分が不足してると思うんだよね〜」
咲耶はニッコリと微笑みながら俺の顔を見ていた。
「まったくしょうがないな……」
俺は大きく口を開けるとスプーンが口の中に押し込まれる。
チョコの甘さとミントの爽快感が口の中に広がっていった。
「どう?」
「美味しいな」
時計をみたらもうすぐで日付が変わりそうな時間になっていた。
ずっと教科書とノートを見ていたから疲れていたのかもしれないな。
……もしかしたら知らないうちに俺も糖分不足になっていたのかもしれない。
——かといってカップアイス4つは食いたくもないが
「それじゃ次は私にやって!」
咲耶はカップアイスとスプーンを俺に渡すと俺の横に座る。
「何を……?」
俺が不思議そうな顔をしていると咲耶は口を開ける。
まるで親鳥からの餌を待つ雛鳥のようだ……。
俗にいう「あーん」をやれってことだ。
そういや、咲耶がまだ生きている時にも同じことをさせられたことを思い出していた。
「……まったく、おまえは変わらないんだな」
悪態をつきながらもスプーンでアイスを掬ってから目の前の雛鳥の口にスプーンを運ぶ。
「んん〜!」
アイスが入ったことがわかると呻き声を上げながら飲み込んでいった。
「冷たかったのか?」
「ううん、蒼にぃがくれたから嬉しかったんだよ〜!」
よほど嬉しかったのか咲耶の顔はとろけそうな表情をしていた。
「蒼にぃ、もっとー!」
そしてまた咲耶は雛鳥の様に口を開けていった。
「……俺はいつから親鳥になったんだ」
さすがに良い子も悪い子も寝る時間になったので、台所で洗い物をしてからリビングに戻ると……
「咲耶、こんなところで寝ると風邪ひくぞ」
「うにゅ……ふへへ〜よいではないか〜」
咲耶は体をくの字に曲げて寝ていた。しかも変な寝言を言いながら……。
「ほら、起きて部屋に戻れ」
軽く頬をつねると触り心地の良い肌がプルプルと揺れていた。
「咲耶ちゃんは永遠に眠てしまう呪いにかかりました……むにゃ」
突如訳のわからないことを呟きだしていた。
「この呪いを解くには蒼にぃのチューが必要です」
「……ずいぶん限定的な解除の仕方だな」
「さぁ! かわいい妹を呪いから解放させてあげてください!」
咲耶はそう告げると両手を上げる。
「はいはい、くだらないこと言ってないで上に行くぞ」
よっこらせと声をかけながら咲耶の体を持ち上げる。
「うわわわわっ!」
急なことでパッチリと目を開けてしまう咲耶。
「……よかったな、呪いは解けた様だな」
「そ、そう……だけど!」
咲耶は顔を真っ赤にしながら悔しそうな表情を浮かべている。
咲耶を抱き抱えながらゆっくりと階段を上がり、彼女の部屋に入り、ベッドに下ろす。
「えー……これだけー?」
布団の中に入った咲耶は不満の声をあげていた。
「これだけって他に何があるんだよ……?」
俺が疑問をぶつけると咲耶は自分の人差し指を唇にあてながら俺の顔をじっと見ていた。
「おやすみなさいのチューとか?」
「……誰がするか」
俺はため息をつきながら部屋を出ていった。
「蒼にぃのいじわるー!」
咲耶を部屋に送り届けた後、リビングにおき忘れた荷物を取りに行ってから自分の部屋に戻った。
明日もテスト勉強をしなければならないので、先ほどと同じように山積みにする。
「さてと、俺も寝るか」
布団に入ろうとしたが、若干お腹が痛くなってきたので、トイレへ駆け込む。
「さっきまでは平気だったのに何でだ?」
そこでふと咲耶が持って来たアイスを食べたことを思い出した。
ただ、思い出したのはそれだけではなかった。
「……ってかさっき咲耶が口をつけたスプーンで食べてたな」
そう呟くと同時に顔中が熱くなっていった。
「よかったな咲耶、願いが叶って……」
関節的にだけど。
そして俺はトイレで座りながら俺は頭を抱えるのであった……。
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【あとがき】
▶当作はカクヨムコンに参加中です!!
お読みいただき誠にありがとうございます。
次回もお楽しみに!
なんか咲耶のキャラができあがってきたな(笑)
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