第16話
「よし、月曜までにどこまで詰め込めるかだな……」
本日は7月最初の土曜の午前10時、窓の外は雲ひとつない晴天なり。
外ではここぞとばかりにセミが大声を上げて泣いている。
セミの鳴き声を聞くだけで汗が吹き出しそうになるが、こんな日はバイクで朝から飛ばしたら、とんだけ気持ちいいか……。
ってこんなこと言っている場合じゃない、さっさとやらないと!
机の上には普段は学校の教室にあるロッカーの中で眠っている教科書とノートが山積みになっている。
なぜこんな状況なのかというとだ。
——週明けの月曜日に期末テストがあるからだ。
そして、この期末テストが終われば終業式までテスト休みというものがある。
だが、ここで1教科でも赤点を取ってしまうとテスト休みが補修というなの地獄の日々に変わってしまう。
それだけは絶対に避けたいところ。
そのためには、この土日で赤点を取らない程度に詰め込まなければならないのである。
「やるか……!」
テスト休みという名の栄光を掴み取るために!
「目と肩が辛い……」
教科書やノートに書いてあることを無心で別のノートに書き連ねていくこと数時間。
一区切りつきながら首や肩をまわしていくとバキバキと音を立てていた。
……大丈夫か、俺の体。
「休憩ついでに飲み物とってくるか……」
椅子から立ちあがろうとした時に腰の辺りからパキパキと音がしたような気がするが……。
部屋を出ようとする時に、コンコンとドアを叩く音が聞こえた。
「蒼にぃ、起きてるー?」
声の主はもちろん咲耶だ。
「とっくに起きてるぞ」
「それじゃ入るよー」
いった直後にドアを開ける咲耶
「……俺が着替え中だったらどうすんだよ?」
無防備すぎる咲耶に向けて呆れた口調で問いかける。
「蒼にぃの生着替え見れるなら喜んで!」
目を爛々と輝かせて答えていた。
ちゃんとした答えが返ってくると思った俺がバカだった……。
「逆に俺がお前の部屋にさっきと同じように入ったらどうすんだ? 特に着替え中とかに」
「恥ずかしいと思ったけど、蒼にぃには裸は何度も見られてるしなぁ……」
「……もう何年も前の話だ、そもそも見たのは柏葉美琴のではなく天城咲耶のだろ」
「でも中身は同じだよ?」
「……悪い、頭痛くなってきた」
これ以上話していると、さっきまで詰め込んでいたものが抜け落ちてしまいそうだった。
……っていうか、咲耶ってこんな子だったっけかな。
「あれ、もしかして蒼にぃテスト勉強してた?」
咲耶は視線は机の上に山積みになっている教科書とノートへ向けていた。
「まあな、テスト休みのためには今日と明日が勝負だしな」
「テスト休みって、赤点取ったらダメなんだっけ?」
「1教科でもあったらみんなが休んでる中補習を受けるんだぞ」
「やだー! 蒼にぃと毎日過ごす予定がパーになっちゃう!」
そもそもそんな約束をした覚えがないんだが……。
「それならちょうどよかったよ!」
「何が?」
咲耶は俺の両手をしっかりと握る。
彼女の部屋はクーラーをかけているのか、一瞬ビクッとするぐらい冷えていた。
「これから一緒にテスト勉強しよう!」
山積みになっていた教科書とノートを持ってゆっくりと階段を降りていく。
台所の奥にあるリビングで勉強会をしようとなり、必要なものを運ぶ。
「英語でわからないところがあるし、ちょうどよかったか」
柏葉美琴としてずっと海外で暮らしていたのだがら、彼女にとって英語なんて余裕だろう
——って思ってたことが俺にもありました。
「ねぇねぇ蒼にぃ、これってどういうこと?」
俺の横で何故かメガネをかけている咲耶がノートを俺に見せてきた。
ノートには筆記体の英文がずらっと書かれていた。
「むしろ俺が聞きたいんだけど?」
咲耶が指摘しているところは、後で咲耶に聞こうと思っているところだった。
「ってか海外でずっと住んでいたんだろ?」
「そうだけど、こんな文法とか学んだわけじゃなかったし、むしろ日本に来てから教科書見てビックリぐらいだよ」
そう言われれば日本語も教科書に載ってるような文法とか意識したことないもんな……
アテが外れたことにガックリと肩を落としながら納得する。
「そういえば、メガネなんてかけてたか?」
ふと、咲耶の顔を見て声をかける。
「かけてないよ?」
「じゃあなんで今かけているんだ?」
俺の問いかけに咲耶はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりにキラキラと目を輝かせていた。
「ほら、蒼にぃに教えることもあると思うし、蒼にぃってメガネ美人好きでしょ? 読んでいる漫画もそういうの多かったし」
「……最近人の部屋に来て漫画を読んでるとおもったらそんなこと調べてたのか」
咲耶はかけているメガネのブリッジの部分を人差し指で軽くクイっとあげながら「その通りよ」と普段とは違う答え方をしていた。
「メガネはいいとして美人とは程遠い気がするけど……」
そう告げると咲耶は俺の背中を叩く。
背中から結構いい音がしたと思ったら痛みが遅れてやってきていた。
「そういうこと言うなら教えてあげないから!」
それから暫く、黙々とテスト勉強に励んでいった。
だが、集中力がきれてきたのか、あることが気になっていった。
「あのさ咲耶」
「どうしたの?」
「さっきから膝が当たっているんだけどさ、近寄りすぎじゃないか?」
リビングには黒に近い茶色のローテーブルとクッションが置かれており、クッションの上に乗って勉強をしていたのだが……。
咲耶は俺の前ではなく俺の隣に座っていた。最初は別にいいかと思っていたが、気がつけば彼女の膝が何回か当たっていたのだった。
「き、気のせいじゃないかな? それにこの部屋クーラー効きすぎててちょっと冷えるからお互いくっついて暖をとるのは必然だし!」
咲耶はいつもより高い声で話しながら手をブンブンと振っていた。
「それじゃ、温度上げるぞ」
テーブルの上にあるリモコンを取ろうとするが、咲耶の手に遮られてしまう。
「べ、別にこのままで大丈夫だから!」
「……そっか? 咲耶がそういうならいいけど」
何か腑に落ちないが、本人が大丈夫というならまあいいか。
「蒼にぃの超ニブチン……」
隣で咲耶がブツブツと呟いていたが、俺は気にせず教科書のページをめくっていった。
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【あとがき】
▶当作はカクヨムコンに参加中です!!
お読みいただき誠にありがとうございます。
次回もお楽しみに!
欲しいなあ……テスト休み・゚・(ノД`)・゚・。
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