第15話


「どうしてこうなったんだ……」


 食品売り場のレジスタッフがカゴの中の商品を1つ1つスキャンしていく

 ……別にこれに関しても問題はない。


「あ、蒼にぃこっちのカゴ持っていくね」


 咲耶はスキャン後の商品でいっぱいになったカゴを袋に詰めるときに置くサッカー台へ持っていく。

 

 ——そもそも本来はカゴ半分ぐらいで済むはずだったのにな。


「おまたせいたしましたお会計は……」


 レジに表示されている金額を見ると、もう少しで諭吉さん1枚では足らなくなるほどまでになっていた。

 財布から諭吉さんを出したときに、財布自体が軽くなったような気がする。


「これで最後だね、さっきのはまとめておいたよ!」


 自信満々の表情でまんまるに膨れ上がった袋を見せる咲耶。


「こっちも終わらせてさっさと帰るか……」

「うん!」


 いつまでもため息をついてても仕方ないので、商品を袋に詰めていく。

 ……多少俺のバイト代からも出しておくか。


「それじゃ終わったことだし、そろそろ行くか」


 既に袋を持っている咲耶に声をかけるがそこに彼女の姿はなかった……。


「あれ……?」


 先ほどまで隣にあった咲耶の姿がなくなっていた。


「蒼にぃ、下!下!」


 足元から声が聞こえてきたので視線を下に向けると膝をまげてしゃがんでいた。

 彼女の視線の先には、ツインテールの髪型の小さな女の子が目に涙を溜めて立っていた。


「……どうしたんだこの子?」

「どうやら、迷子になっちゃったみたい」


 咲耶が話すと女の子は大声で泣き出してしまう。


「たしか、迷子センターがあったはずだからそこに行って案内してもらうか」

「うん、そうだね」


 咲耶は女の子の手を取り、フロアの奥にある迷子センターのある方へ向かっていく。


 

 迷子センターにつくとすぐに、スタッフに事情を説明して館内放送を流してもらうことに。

 その間、女の子はずっと咲耶の手を握っていた。


 「迷子センターで女の子をお預かりしております! 名前は『こくぶんじふたば』ちゃん……」


 館内放送が終わり、センターのスタッフに任せてその場を去ろうとするが……


「言っちゃダメ!」


 ふたばちゃんは目に涙を溜めて俺と咲耶のことをジッとみていた。


「わ、わかった、どこにもいかないから手を強く握らないで……!」

 

 ちなみにずっと咲耶の手を握っていた。

 気に入れらたのか1人になるのが寂しいのか、定かではないが離れたくない一心で力強く握りしめたようだ。

 

「……この子の両親がくるまで離れられないかも」

「そうみたいだな……」


 俺の口からため息が漏れてしまう。



「この度は、どうもありがとうございます!」


 あれから30分ほどして、館内放送に気づいたふたばちゃんの母親がセンターにやってきた。

 紺のスーツ姿がビシッと決まっている、キャリアウーマンって感じに見える。

 娘がいなくなって相当慌てたのだろうか、セットしたであろう髪が乱れてしまっていた。


「もう、ママったら泣かなくてもいいでしょ!」


 娘に会えて安心したのか母親の目には涙が溜めながら娘に抱きついていた。

 抱きしめられた方は抱きしめられながら母親の背中を叩いていた。


「……なんか母親がきたら態度が違うな」

「母親に会えて安心したからじゃないかな?」


 咲耶は2人のやりとりを微笑ましくみていた。


「すみません! いつもは私の両親の家に預けているのですが……今週はグループメンバーで旅行に行ってしまっていて」


 そう話しながら母親は何度もこちらに向けて頭を下げていた。


「俺たちは大したことしてないですから、そろそろ頭を上げてくださいって!」


 迷子センターのカウンターの前で何度も頭を下げているためか、他のお客がジロジロとこちらをみていた。

 どう見ても俺たちが何かやったみたいに思われてるだろ……。



「本当にありがとうございました、それでは失礼いたします!」


 ようやく母親はふたばちゃんを連れて迷子センターを後にしていく。

 だが、ふたばちゃんが母親の手を離し、こちらに向かって走ってくると……


「ありがとう! 蒼介おにいちゃん、咲耶お姉ちゃん!」


 大きな声でお礼を言うと、母親の元に戻って手を繋ぐ。


「あれ……?」

 

 2人の姿が見えなくなった頃、咲耶がふと声を上げる。


「どうした?」


 俺が咲耶の方を向くと、腕を組んで唸り声をあげていた。


「私、あの子に私たちの名前って言ったっけ?」

「……そういえば」


 さっき俺の名前と咲耶の名前を言っていたな。

 ずっと咲耶は俺のことを『蒼にぃ』と言っていたが『蒼介』とは言っていないよな?


「センターのスタッフに名前言ったから聞こえてたのかもな」

「そうかも……でもだとしたら何で私の名前を?」


 俺の名前を伝えたが、咲耶の名前はセンターにも話していない。

 泣いているあの子を止ませるために咲耶がずっとしゃがんで話していたからだ。


「ま、いいか!」


 悩んでいた咲耶だが、すぐに表情を戻して俺を見ていた。


「考えても答え出てこないし、っていうかお腹が空いてきた!」


 お腹をさすりながら微笑む咲耶

 

「おまえ、脳と胃がつながってんじゃないのか?」


 呆れ口調で思っていることを口にする。


「蒼にぃ……普通女性にそんなこと言ったら怒られるよ、私は喜ぶけど」


 喜ぶな、お前も怒れ……。

 と、言いたい気持ちをグッと抑えながらセンターのスタッフに軽く挨拶をしてそのままモールの入り口がある1階へ向かっていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「……ここにいたんだね、天城咲耶ちゃん」

「うん? 何か言った?」


 隣で手を繋ぐママが声をかけてきた。


「えっとね、今日のご飯は何かなって!」

「そうねえ、双葉ちゃんが好きなタコさんウインナーにしちゃおうかな」

「わーい! 早く帰ろう!」


 また、会えるといいなぁ……


==================================


【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!

 

お読みいただき誠にありがとうございます。

次回もどうぞ、お楽しみに!


色々あって身体中が悲鳴あげてます……orz

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