第14話


「動画の撮影場所?」


 次の日の昼休み、翔太と一緒に学食に来ていた。

 いつもは教室で前日の余り物を弁当に詰め込んでいるが、妖怪腹減らしが珍しく平らげてしまっていた。

 まあ、たまには学食で食べるのも悪くないだろう。


 ちなみに、件の妖怪はいつも話しているクラスメイトの女子たちに囲まれながら教室で食べている。


「いつもやってる翔太なら、知ってるかなと思ってな」

「っていうか、蒼介も動画配信やるのか?」

「いや、そういうわけはないんだけど……」


 俺ははっきりしない感じに濁して行く

 配信するのは俺ではなく398なんだけどな!

 って言えたらどんだけ楽なんだか。


「別に家でいいんじゃないか?」

「いやいや、昼間はいいかもしれないけど夜はさすがにマズいだろ?」


 もちろん天城家は防音工事などやっていないので、確実に音が漏れる。

 そして一番の問題は、それによって398の顔が広まってしまうことである。

 

 ファンの中には歌だけを聞いていないので中身には興味ないって人もいるが、声から398が女性っていうのは周知の事実で、どんな顔をしているのか知りたがるファンもいる。

 考え方は人それぞれなので後者の方を無碍に否定することはできないんだけど……。


「そうか? 俺なんか夜中でも結構叫びながら実況しているぞ」

「おまえは周囲に気を配れ」


 翔太の実況動画はとにかくうるさいの一言につきる。

 あまりにもやかましいため、見る時はヘッドフォンが必須になるが、たまに最小音量にしても耳がいたくなることがある。


「家でできないなら、どこか部屋を借りるしかないよな」


 カツカレーのカツを勢いよく飲み込んだ翔太はセットでついてきたコーヒーのような飲み物に口につける。

 カレーにコーヒーに合うのかと聞くと、実はコーヒーではなくインド式のお茶であるチャイらしい。

 ……カレー専門店ならまだしも、高校の学食でだすか普通。


「まあそうなるよな……この辺だとどこにあるんだかな?」

「昨日行ったネカフェのPCルームは?」


 そう言って翔太はスマホでネカフェの料金表にページにアクセスする。

 縦長に表示されたページの中に『PCルーム』専用の枠がつくられていた。


「1時間1000円でご利用可能だってさ」

「いや普通に高いだろ……」


 一介の高校生が簡単にだせる金額ではない。昨日はオープン直後で半額で利用することができたが、それでも充分財布にとって優しくない値段だ。


「あ、でも6時間パックで4500円ってのも」

「1回で済むならいいが何回もやるとなったら赤字もいいところだ」

 

 広告収入をやれば多少たりともお金が入ってくるが、元が取れるようになるのはいつになるのやら……


「お、みろよフリーパスもあるんだってよ」


 翔太は詳細ページを俺にみせてきた。


「えっと……1ヶ月8万って無理に決まってるだろ」


 俺が答えると翔太は腹を抱えて笑っていた。


 この件に関してはじっくりと時間をかけていかないと無理そうだな。

 俺は深くため息をついてから食べかけの豚丼を勢いよく食べていった。


 放課後、すぐに家に帰りたいところだが、冷蔵庫の中が空に近いことを思い出しショッピングモールに行くことにした。

 

「あれ、蒼にぃ?」


 モールの入り口で妖怪腹減らし……もとい、咲耶に声をかけられた。

 彼女の手には書店のロゴが入った茶色い紙袋が。

 どうやら上の階にある本屋に行っていたようだ。


「何を買ったんだ?」

「えっとね、読んでいた小説の続きだよ、見る?」


 咲耶は紙袋の口を止めてあるセロテープを剥がして中身を取り出すと本の表紙を見てくれたのはいい、タイトルが流れるようなフォントの外国語で書かれているため、どんな内容の本なのか検討がつかなかった。

 

「蒼にぃはどこに行くの?」

「下の食品売り場、どっかの妖怪がたくさん食うから冷蔵庫が空に近いしな」

「えへへ、そんなに褒めないでよ。 恥ずかしいよ〜」


 咲耶は顔を赤くしながら下を向いていた。

 ってか今の会話で褒める要素あったか?

 

「私も一緒に行っていい?」

「ダメだと行っても来るんだろ?」

「さすが蒼にぃ! 私のことわかってきてるね!」


 満面な笑みで俺の腕にしがみつく咲耶。

 

 入り口から目の前にあるエスカレーターで食品売り場のある1階へ降りていく。


「今日の夕飯は何にするの?」

「特に決めてないな……何か食べたいものはあるか?」

「蒼にぃの作ったものならなんでもいいよ」


 ニコニコと溢れる笑顔で返す咲耶。

 よく『夕飯何が聞いた時になんでもいいと返されるのが一番困る』とテレビに映る奥様方が話しているのを見るが、まさにいまその状況である。


「適当に見ていくか……」


 エスカレーターを降りて、ショッピングカートを取って歩き始めていく。


 夕方前なのか食品コーナーの人の数はまばらだった。

 もう少ししたらタイムセールとかが始まる。それを狙ってくる人もおり、人がごった返してくるのでその前には済ませたい。


「昨日は油が多めだったから今日はサッパリ系でいくか」


 となると、魚介か。

 そう思って生鮮コーナーに行こうとするが……。


「蒼にぃ、あれみて!」


 咲耶が指差す方には試食コーナー。

 お肉コーナーと書かれたプレートの下で鉄板プレートを使って何かを焼いていた。


「こちらセール品のサイコロステーキになります! 是非、お召し上がりくださいませー」


 女性スタッフが店内に響く声で案内をしている。

 徐々にこちらに焼けた肉の匂いが鼻の鼻に入っていく。


「食欲をそそられるけど……昨日も肉だったしなぁ」


 横に立つ咲耶に話しかけようとするが、先ほどまであった姿はそこにはなく……


「蒼にぃ! 美味しいよコレ!」


 気がついたら試食コーナーでサイコロステーキを味わっていた。


「おや、そんなに美味しいかい? よかったもう一つ食べる?」

「食べます!」


 咲耶の目に宇宙でも広がっているのかと思えるぐらい目が輝いていた。

 

 俺は試食コーナーに向かうと、女性にスタッフに声をかける。


「……すみません、一袋ください」


 そう告げると女性スタッフは笑顔で袋詰めされたサイコロステーキを手渡した。


 ……我が家のエンゲル係数がとんでもないことになりそうだ。


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【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!

 

お読みいただき誠にありがとうございます。

次回もどうぞ、お楽しみに!


これ書いてる時の時刻、正午を過ぎた頃(^q^)

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