第13話
「もう398として活動する気はないのか?」
咲耶の膨れっ面が直ったのを見計らって自分が思っていることを口にする。
「うーん……」
咲耶はさきほどドリンクバーで注いできた野菜たっぷりミックスジュースをストローで吸いながら、唸り声をあげる。
「どうしようかと思ってるよ、あの時は歌う理由があったけど、今はそれがなくなっちゃったし」
「歌う理由って?」
「……ナイショ」
咲耶はこちらを揶揄うような答えに俺は思わず「オイ」と言って彼女の肩を軽く叩く。
「でもね、蒼にぃがファンって言うならもう一度やってみてもいいけどね!」
「マジ……?!」
咲耶の言葉に俺は驚きの声をあげる。
「でも、色々と問題があるんだけどね……」
咲耶はため息混じりに話を続ける。
「問題?」
「うん、音漏れとか」
「……たしかに、そういえばあっちの家だとどうしてたんだ?」
「地下室があったからそこでやってたよ」
「なにそれ羨ましい……」
さすが海外の家、スケールがデカすぎる。
「ありがとうございました! またどうぞご利用くださいませ!」
会計を済ませて外で咲耶を待つことに。
入った時は明るかったのにすっかり日が沈み、辺りは薄暗くなっていた。
その間に俺は1人で先ほどの件について考えていた。
「……398として活動できる場所か」
今の家でもできなくはないが、確実に音が外に漏れ出してしまう。
昼間はいいとしても流石に夜は近所から苦情が飛んできそうだし、漏れることで一部のファンに身バレしてしまう可能性もあるのでやめておいた方がいいだろう。
「あ、蒼にぃお待たせ!」
咲耶の声で思考が停止する。
「それじゃ帰ろう!」
そう言って咲耶は俺の腕に組み始める。
「……誰かに見つかっても知らないぞ」
「見つかったら、その時に考えればいいんだよ」
咲耶はニッコリと嬉しそうな顔で俺を見る。
それを見て俺は軽くため息をつく。
「ねぇ、蒼にぃ今日のご飯何にする?」
「冷蔵庫にあるもので適当に作るかね……って腹減ってるのか?」
「うん! 今日は久々に歌ったから!」
咲耶は自分のお腹に手を当てながら答えていた。
「……わかったよ今日は特盛にしとくよ」
「やったあ!」
空いている手を勢いよくあげて喜ぶ咲耶。
……普通それで喜ぶのは男だろと思ってしまう。
「……どうすっかな」
俺は何気なく顔を空に向けて見上げる。
「なに? もしかして今日の献立?」
隣で咲耶が楽しそうな表情で俺を見ていた。
「おまえは育ち盛りの男子小学生か!」
「どうみても可愛い女の子でしょ!」
「自分の口から可愛いとかいうな!」
そんなやりとりでも楽しく感じてしまっていた。
「もしかしてさっきの話のこと?」
「まあな……」
「別に蒼にぃがそこまで考えなくてもいいのに……」
咲耶は下を向いていた。
「……いいんだよ、俺も398の復活してくれたらなって願っていたし」
「そっかぁ!」
俺の言葉に咲耶はゆっくりと顔を上げて空を見上げる。
嬉しいのか恥ずかしいのか定かではないが、顔が紅潮していた。
「それって蒼にぃが398のファンだから? それとも398が私ってわかったから?」
咲耶は真剣そのものといった表情で俺を見ていた。
「単なるファンだったら願ってるだけだろうな」
398が他の歌い手と同じだったら「復活してくれないかなぁ」と思うだけで
月日が経つにつれて、そのことも忘れてしまっているに違いない。
でも、398に関してはそれだけで終わらせたくなかった。
だって、398は咲耶であって……姿は違えど俺の大事な妹だからだ。
——今度こそ俺は兄らしいことを妹にしてやりたい!
そう思いながら俺は右手で握り拳を作っていた。
「……俺にとっては398という歌い手は特別だ」
最後に「398は咲耶だしな」と告げてから咲耶の顔を見ると、顔が真っ赤になっていた。
……あれ、なんか俺、変なこと言ったか?
「うぅ……そういうこと言うのはズルいよ! 言われる側のことも考えてよー!」
下を向きながらも俺の背中をバシンと勢いよく叩く咲耶
結構いい音していたせいか、結構痛いんだが……。
「いきなり叩くなよ」
「もう……蒼にぃ天然すぎるよ!」
「どういうことだよ」
それから咲耶の顔の紅潮が引くことなく家に帰っても顔が真っ赤になったままだった。
家に帰ると咲耶はお風呂に入ると言ってそのまま着替えをとりに自分の部屋に向かった。
俺も制服から着替えるために自分の部屋に向かう。
着替えながら配信するための部屋をどうするか考えていた。
「今日行ったネットカフェのPCルームみたいな部屋が使えればいいんだけどなぁ……」
理想的な場所ではあったが、料金のことを考えると一介の高校生では手が出しづらい。
「……翔太なら何か知ってるかな」
そう思ってスマホを取り出して、翔太に連絡を取ろうとしてあることに気づいた。
「やっば……あいつのこと忘れてた!」
すぐに連絡をしたのはいいが、そもそも俺が部屋から出ていたことにも気づいていなかった。
『俺こそ悪かったわ、それにしてもあのPCでゲームするのは色んな意味で危険だな!』
最高峰のスペックのPCでゲームができたことに相当満足だったようで怒る気配など微塵もなかった。
翔太には明日ゆっくりと話したいことがあると伝えて通話を終了させた。
何かいい案がでてくればいいんだけどな……。
「とりあえず、妖怪腹減らしのために餌の用意するか」
自分に言い聞かせるように呟くと俺は部屋を出て台所に向かっていった。
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【あとがき】
▶当作はカクヨムコンに参加中です!!
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