第10話


「蒼介、昨日とんでもないことが起きた……」


 いつもより早く登校してきた翔太が俺の席の前に立つと、この世の絶望を味わったかのような沈んだ表情をしていた。


「どうしたんだ? さてはゲームで気になってた子が実はオッサンだったことが発覚したとか?」

「そんなこと起きたらそもそも学校に来ていない」


 威張っていえることではない気がするが……


「って、そんなことはどうでもいい! PCがぶっ壊れた!」


 翔太はオンラインRPGをプレイすることに生きがいを感じている。

 それをするためのPCが壊れたとなればこんな顔になるのは仕方ないことだろう。


「当分の間プレイはできないとなると、配信もできないってことか」

「いや、PCは夜中に注文しておいた、かなり痛い出費だったけどな」

 

 翔太は盛大なため息をつく。

 

「目の前でため息つくなよ。 俺の幸せまで飛んでいったらどうしてくれるんだ」

「おまえの幸せは俺のもの! 俺の不幸はおまえのものって言葉しらないか?」

「おまえと運命を共にしたつもりは一切ない」


 俺の言葉に翔太は笑顔を見せながらサムズアップしていた。

 ……殴りたいこの笑顔。


「でも明日届くなら今日1日我慢すればいいだけだろ?」

「1日もプレイできないなんて俺にはとっては苦痛なんだ!」


 我慢できない子供か。


「先に行っておくが俺の家のPCを使うのはダメだからな」


 そもそも美琴のこともあるので悪友とはいえ家にあげることはしたくない。

 バレた時に何を言われるのやら……。


「蒼介ならそういうと思って、別案を考えたよ」


 そう言って翔太はスマホの画面を俺に見せてきた。

 画面には……


『複合型サイバーネットカフェOPEN!』


 という大きい見出しが一番最初に目に付くウェブサイトだった。


「これよく広告でみかけるな」


 見ている時に突然現れるし、スライドしても追従してくるから鬱陶しいことこの上ないわけなんだが。


「西口にできたみたいなんだよ、しかもスペックの高いPCもあるし、EoDの提携ネットカフェだから特典もらえるし!」


 翔太の顔はいかにもワクワクしているといった表情をしていた。

 先ほどの絶望的な顔はどこにいったんだ。


「行ってらっしゃい」

「いやいや一緒に行こうぜ!」

「それぐらい1人でいけるだろ」

「今ならオープン記念でハイスペック専用部屋の料金が半額なんだよ!」


 翔太は先ほどのウェブサイトの画面をスライドして部分的にアップにしていた。

 そこには『2名様以上ご利用で』と書いてあった。


「……頼む! 俺からの一生のお願い!」

 

 目の前で両手を合わせながら体を直角に曲げる翔太。

 なんかクラスメイトからの視線が俺に集中していた。

 どうみても俺が悪いように見られているだろコレ!?


「わかったよ一緒に行けばいいんだろ! いいからさっさと顔あげろよ!」

「さすが蒼介だ、恩に切るぜ!」


 顔を上げた翔太はニシシと笑いそうな表情で俺の顔をみていた。


「そんじゃ放課後な!」


 ちょうどよくホームルームを告げるチャイムが鳴り出し、翔太は自分の席に戻っていった。


「めんどくさ……」


 俺は思わずため息をついてしまう。

 もしかしたら俺の幸せはとっくにないのかもしれない……。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 今日の授業が終わったので蒼にぃと一緒に帰るためにLIMEを送る。

 ……学校で堂々と言えるようになれればいいのにな

 

 Mikoto.K

 『蒼にぃ校門でまってるから一緒に帰ろー!』


 Sousuke.A

 『悪い、今日は翔太に拉致られる』

 

「ええーっ!」


 何でよ!昨日も帰れなかったのに今日もなんて……!

 

 すぐ隣にいる蒼にぃはカバンを持つと私の方を向き、「すまない」と言いたそうな顔をして

 静原くんと一緒に教室から出ていってしまった。


 LIMEで好きなキャラクターが大泣きしているスタンプを蒼にぃに送ってから重い足取りで教室を出ていった。



「ただいまー」


 玄関を開けるが、返事が戻ってくることはなかった。


 すぐに階段を上がって自分の部屋に入り、制服から私服に着替える。

 どこも出かける気はないから適当でいいかな。


 クローゼットに制服をしまうと、昨日の帰りに買ってきた小説の続きを読む。

 開くとあちらの国の言語で書かれていた。

 クラスの女の子たちと本屋に行って、この本を買おうとした時はものすごく驚いていたことを思い出す。


 しばらく小説の内容に没頭していたが、ちょうどよく章が終わると同時に現実に引き戻されてしまう。

 昔からこうなると集中して読むことができなくなってしまうので、本を閉じ、ベッドの上に倒れ込んだ。


「うぅ……暇だー!」


 叫ぶと同時に体を起こす。


「たまには出歩いてみようかな……」


 内心、途中で蒼にぃとバッタリ会うことができたらいいなと思いつつ……

 

 クローゼットから薄手のジャケットを取り出すと、そのまま家を出た。



「って外に出たのはいいけど、どこに行こう……」


 この街にきてから1ヶ月も経っていないため、どこに何があるのか全くといっていいほど理解していなかった。


「適当にあるけば何かしら見つかるよね」


 何事もポジティブに考えよう。

 もしかしたら蒼にぃを誘っていけるようなカフェとか発見できるかもしれないし!


 天城家は閑静な住宅街の中にあるせいか、周りは大小問わず一軒家が多い。

 海外にある実家と比べたらどれも小さく見えてしまうけど……。


 住宅街を抜けると商店街に入っていった。

 小さなスーパー、学習塾など地域に寄り添っているようだ。

 

 その商店街を通り抜けると、駅につながるロータリーに辿り着いた。

 その通りで私よりも少し年齢が上だと思える女性が「本日オープンです!ぜひご利用ください」と言いながら小さなビラを配っていた。


 目の前にビラを出されてつい受け取ってしまう。

 ビラには『本日OPEN!複合型サイバーカフェ!』と大きな文字で書かれていた。

 どうやら開店のお知らせのようだった。


「カフェって何があるんだろう」


 ビラを見て確認すると、ネット、ビリヤード、ダーツと書かれていた。

 俗にいうネットカフェのようだ。

 美味しい食べ物があるようなカフェなら蒼にぃを連れていくのにと思いながら再度ビラをみる。


「あれ……」


 ビラに書かれている内容に目が留まる。


「カラオケもあるんだ」


 昨日クラスの女の子たちと一緒にカラオケに行ったが、恥ずかしさや緊張とかで中々歌うことができずにいた。

 けど歌うことは好きなので、正直消化不良な感じ。


 ビラのカラオケのところには「ヒトカラ用の部屋もあります!」と書かれていたので、ここに行くことにした。

 1人なら満足いくまで歌うことができるし!


 私はビラを配っていた女性に場所を聞くとすぐにそこに向かって歩き出した。


==================================


【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!

 

お読みいただき誠にありがとうございます。

次回もどうぞ、お楽しみに!


たまには咲耶視点もいいかなと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る