第2話
「えっと、ここが美琴さんの部屋ですね」
一通り話をした後、父親は会社からの呼び出しがあり、こりゃ今日は戻れないなと呟きながら
慌てて家を飛び出していった。
仕事なので仕方ないとはいえ、会ったばかりの男女を家に置いていくかと思ってしまう。
っていうか、これからどうすればいいんだよ!?
そう思っているとLIMEで父親から「美琴ちゃんの部屋はお前の向かいになるから案内よろしく」と連絡が入ったので美琴さんを2階へ案内することに。
階段をあがると部屋が横並びになっている。
上がってすぐ左手に俺の部屋、その隣がほとんどいないので使ってない同然の父親の部屋がある。
で、彼女に案内するのは俺の部屋の向かいの部屋。
ドアには「さくやのへや」と書かれた手作りのプレートが掛けられている。
「この部屋って……」
「妹が使ってた部屋ですよ」
「妹さんは……」
「亡くなってますよ、10年前に」
俺が答えると美琴さんは言葉を失っていた。
10年前のあの日、母親と妹の咲耶は買い物帰りに交通事故に遭った。
あの日の夜、慌てて帰ってきた父親に連れられて警察に行き、静かに眠る母親と咲耶に面会した。
父親が警察で聞いた話では相手は飲酒運転で意識朦朧としながら車を運転していたようだ。
あの時は幼かったせいか、人の死というものが理解できずにただ2人は眠っているのだと思っていた。
待っていれば起きて4人で帰れるよねと言った俺に対し、父親は黙ったまま俺を抱きしめていた。
父親の顔から2人がもう戻ってこないことを悟ったのか覚えていないが、俺は大声で泣き出した。
部屋のドアを開けると中には何も置かれていない空間になっていた。
美琴さんは部屋に入ると、部屋中を見て廻る。
「何もないですね」
「最近までは少しはあったんですけどね」
最近までは当時、最新のものだった学習机や本棚、子供用のベッドが置かれていたのだが、年月が経つにつれて老朽化していったため、仕方なく処分していった。
咲耶のことを忘れないためにできることなら残しておきたかったけど……。
「ここは好きに使って構わないので、親父も好きに配置していいと言っていますので」
「ありがとうございます!」
元気な声で返事をする美琴さん。
「あ、窓!」
持っていた荷物を部屋の隅においた彼女は天井にある天窓を指差していた。
「あぁ、ここにベッドがあって、ちょうどよく朝日が差し込むから寝起きがいいからって……」
ちなみに全部の部屋にこの天窓があるが、寝起きのいい朝を迎えたことはほとんどない
大抵、眩しいからと言って布団をかぶってしまう。
「綺麗な星空!」
彼女の声に反応して顔をあげると天窓から無数の星空が広がっている。
気がつけば美琴さんは俺の横に立って、一緒に星空を見ていた。
咲耶が生きていた頃、こうやって星空を見ていたな。
ベッドに寝っ転がるとちょうど目線にこの天窓があり、ボーッとみていると気がついたら寝られるからだ。
その間に枕を持ってきた咲耶がやってきて……
「蒼にぃ……」
そうそう、俺のことをそう呼んで……
「え!?」
って今ホントに聞こえたんだけど!?
「蒼にぃ!」
どこから……!?
「ここだよ」
声のする方を向く、その方向には美琴さんしかない。
でも声はたしかにこっちから……
「蒼にぃ!!」
美琴さんははっきり聞こえるように……
咲耶と同じ呼び方で俺の名前を呼んでいた。
何で美琴さんがその呼び方を知っているんだ……
「あ、もしかして親父から聞きました?」
まったく親父も変なことを教えなくてもいいのになぁ
「違う!」
美琴さんは大きな声をあげていた。
「どう見たって私だってわかるでしょ!」
さっきまでの大人しさはどこへ行ったのか、美琴さんは頬を膨らませながら俺に顔を近づけてくる。
「いやいや近い近い!」
「ここまで言っても気づかないなんて、天性の鈍感さだよ!」
美琴さんは更に顔を近づけていた。
俺は手を前に出しながら触れないようにする。
この距離の詰めかたは記憶に残っている。
何かあると咲耶は俺に近づいてきて至近距離で俺の顔を睨んできていた。
「そんなこと絶対にありえないと思うけど、まさか……咲耶なのか?」
「うん!」
自信満々に答える美琴さん。
「急すぎて脳みそが追いつかないんだけど、俗にいう転生とかそんなものなのか!?」
「今風に言えばそうかもしれないね!」
美琴さんというか咲耶と名乗る目の前の女性の話では10年前の事故の後、目が覚めたら全く違う場所にいた。
そこにいる人全員が「美琴」と呼んでいたらしい。
両親の話では柏葉美琴という人物は幼少の頃から重い病気を患っており、海外で治療を受けていたようだ。
だが、その治療も虚しく、柏葉美琴は命を助からないと思われていた。
その時、まばゆい光がしたと同時に美琴は息を吹き返したらしい。
「たぶんその時に私の魂が美琴ちゃんの体に入ったと思うんだけどね」
話の流れは掴むことができたが、信ぴょう性がなさすぎて素直に納得することができなかった。
……なんというか非現実的すぎるんだよな。
「って、そんなことはどうでもいいの!」
美琴さんはそう言うと全身を使って俺の方に向かってダイブしてきた。
「やっと帰ってこれたよ、蒼にぃ!会いたかったぁぁ!」
「うおっ!?」
そのまま俺に抱きつく美琴さん……いや咲耶と言っていいのか
っていうかどっちにしろこの状況はマズイだろ!?
抱きつく美琴さんを引き剥がそうとする。
「なんでよ、久々の再会だからいいでしょ!」
「そんなわけあるか! ってか本当に咲耶だと認めたわけじゃないから!」
もしかしたら偶然ってこともありえる。
うん、むしろそうに違いない……
咲耶はあの時に……!
「蒼にぃ覚えてる?」
美琴さんは突如話を始める。
「な、何を……?」
「大雨が降って雷がゴロゴロとなっていたある夏の日……」
「……え?」
「ちょうどママとパパが用事があって出かけちゃって、雷が怖いからって蒼にぃ、押し入れの中で閉じこもってたよね」
たしか小学校に上がる前の話だ……
「ちょ、ちょっとまて……なんでそれを!?」
その先に起きたことを起きたことを思い出し、美琴さんを止めようとするが……
「たしか近くに雷がおちたかで、ものすごい大きな音がした時にお漏らししちゃったんだよね」
そもそも何でそのことを知っているんだ。
それを知ってるのは俺と咲耶だけのはず……!
たしかそのあと、咲耶が俺のパンツを持ってきてくれて、粗相をしたところを一生懸命拭いてくれていた。
そのおかげで両親にバレることなかったんだが……。
「どう、これで私が咲耶ってことが証明されたでしょ?」
「そうだな……」
その話を知っている時点で認めざるおえなかった。
いまだに美琴さんの中に咲耶の魂があることに理解できないのだけど。
「それならもう一度いいよね!」
美琴さんは勢いよく俺の体を押す。
放心状態になっていた俺はそのまま倒れて尻餅をつく。
痛みが走る尻を手でさすっていると、その上から美琴さんが馬乗りの状態で座り出していた。
「蒼にぃ……」
美琴さんは艶のある声を出しながら体を俺の顔の方へ倒していた。
彼女の体が俺の胸板に当たり、大きくないししろ多少の柔らかさが伝わっていた。
「さ、咲耶……離れろって!」
「やーだー!」
小さな声で答えた美琴さんは顔を俺の首筋に近づける。
彼女の吐息が俺の首筋に触れるたびに俺の体がビクッと反応する
「蒼にぃ意外と敏感なんだね……」
「いい加減にしろ咲耶! こんなこと許されるわけ……!」
「平気だよ」
「平気なわけあるか! 俺たちは……!」
「俺たちは? 今のわたしと蒼にぃは赤の他人だよ、だから……平気なんだよ」
美琴さんは体を起こすと俺の顔を見ながらワンピースの背中にあるファスナーをゆっくりと下げていった。
「いやいやいや! ストップストップ!」
「やめない、もう私、我慢できないから……!」
美琴さんが着ているワンピースがゆっくりと下がっていき、もうじぎ下着が見えようとしていた。
「おーい! 蒼介、美琴ちゃんいないのか!?」
下の階から父親の声が響き渡っていた。
美琴さんはその声に驚いた表紙に横に倒れてしまう。
その隙をついて俺は立ち上がると同時に部屋から出ていった。
「会社行ったんじゃないのかよ?!」
急いで階段を降りて、台所に行くと父親の姿があった。
「いやさカードキー忘れちまって取りに来たんだよ!」
父親はキッチンテーブルに置きっぱなしだったカードキーを取ると
ジャケットのインナーポケットに押し込んでいった。
「そういや美琴ちゃんはどうした?」
「あ、あぁ……部屋に案内してからずっと部屋にいるよ」
「そっか、これから一緒に暮らすんだから仲良くしてやってくれよ」
「……わかったよ」
「そんじゃ、会社に戻る、今日は帰ってこれないから戸締りしっかりしとけよ!」
「親父もあまり無理するなよ」
父親は「大丈夫だ」と言わんばかりに右手をサムズアップしながら家を出ていった。
「……美琴さんが咲耶か」
俺はボーッと天井をみつめながら1人呟いていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……ちょっとやりすぎちゃったかな」
ワンピースの背中にあるファスナーを上げながら私は一人呟いていた。
「蒼にぃ……暖かかったなぁ」
先ほどの感触を思い出して、自分の鼓動が早くなっていた。
「やっともう一度、蒼にぃと一緒に暮らせるんだ……」
ファスナーをあげ終わると天窓の方へ顔を上げる。
昔、蒼にぃと一緒にみた星空。
あの時は兄妹だけど、今は違う。
そして、私は届くはずのない自分の思いを夜空に向けて呟く。
「会いたかったよ、蒼にぃ……」
==================================
【あとがき】
▶当作はカクヨムコンに参加中です!!
お読みいただき誠にありがとうございます。
次回もどうぞ、お楽しみに!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます