一緒に住むことになった美少女は転生してきた妹のようです

綾瀬桂樹

1st Season

第1話


「蒼くーん! お買い物にいくわよー」


 下の階から母親が僕の名前を呼んでいた。

 そういえばお昼食べてるときに後で妹を含めた3人で買い物に行こうって言ってたことを思い出した。


「ゲームしていたいから僕、いかなーい!」


 テレビ画面を見ながら大声で答えると、「もうしょうがないわね」と母親の呆れた声が聞こえてきた。

「蒼くん行かないみたいだから、2人で行こうか」

 

 母さんは妹に声をかける。

 妹は「蒼にぃと一緒がいい!」と泣きそうな声をあげていたが

 母さんが帰りにフードコートでアイスでも食べようかと言うと、妹は喜びの声を上げていた。今考えればちょろい妹だなと思う。


 

 それから数時間してゲームが一区切りついたので、階段を降りて台所へ向かった。

 台所は真っ暗だったのでどうやらまだ母親と妹は帰っていない。

 

 さっき言ってた通り、ショッピングモールのフードコートでアイスでも食べているのかと思うとぐぅぅとお腹から情けない音が鳴りだす。

 今更ながらついていけばよかったかなと思いながら、棚を開けてお菓子を取り出した。

 

「遅いなあ……」


 お菓子を食べながら夕方のアニメを見ていたがまだ2人は帰ってこなかった。

 いつもはこの時間帯のアニメを見ながら夕飯を食べているのにどうしたのだろう……。


 いつもと違う状況に僕は少し寂しさを感じていた。

 ゲームなんかしないで一緒に行けばよかったかな……。


 そう思っていると、玄関の開く音が聞こえた。

 やっと帰ってきたと思って、急いで玄関に向かう。


「おかえりー! おなかすいた……ってあれ?」


 玄関に立っていたのは母さんと妹ではなく、父さんだった。

「あれ、お父さん、どうしたの?」

 

 正面に立つ、スーツ姿の父親は前かがみで、両手で膝を抑えながらぜぇぜぇと息をきらしていた。

 いつも帰ってくるのは僕が寝た後で顔を合わすのは土曜か日曜ぐらいなのに。


「そ、蒼介!」


 父さんは僕の肩を両手でがっちりと掴む。

 なんかちょっと震えている感じもする。


「母さんと咲耶さくやが……!」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 体がゆらゆらと揺れている……ような感じがする。


「おーい、起きろー!」

 

 変な声が聞こえると同時に揺れが強くなっていく。


「蒼介くーん! 起きないと学校に泊まることになっちまうぞ!」


 その直後にゴツンと頭に何かあたりすぐに今度は痛みが広がっていく。


「っつ……!」


 俺は痛みが発生している頭のてっぺんを抑えながら顔を上げた。

 目の前にはボサボサの茶色の髪をした何かが顎を抑えながら「うおぉぉぉ!!」とうめき声をあげていた。


「……何やってんだ、翔太?」


 目の前で悶え苦しむ悪友の静原翔太しずはら しょうたに声をかける。


「おまえがいきなり顔をあげたから顎にぶつかったんだよ! しかも舌まで嚙んだし!」


 どうやら自分の頭の痛みは翔太の顎とぶつかって起きたものらしい。


「ってか早くでないと閉められちまうぞ!」


 翔太は窓のほうを指していた。


「……マジかよ」


 窓の外は夕日が沈み、夜になろうとしていた。

 左手につけたスマートウォッチを見ると夕飯を食べていてもおかしくない時間だ。


「何でもっと早く起こしてくれなかったんだよ!」

「授業終わってからもずっと起こしてたっての!」


 翔太と一緒に大声をあげながら教室から飛び出していく。


 下駄箱で靴を履き替えていると、用務員の人にもうすぐ校門締めるから早くしなさいと声を掛けられたので、急いで校門を後にする。


「ちょっと飲み物買っていいか? 走ったから喉かわいた……」

 

 校門を出て少し歩いたところにある自販機の前で翔太が足を止める。

 教室から校門まで走ったため、喉が渇いていた。


「それじゃ俺も買うか」


 自販機で目についた「カカオ120%ミルクココア」を購入する。

 ……カカオ120%ってどういうことなんだ?

 しかもこれホットなのかよ、何で6月なのにホットが置いてあるんだよ!?


「6時間目から爆睡してたけど、寝ていないのか?」

 

 買った飲み物のフタを開けていると隣で翔太がペットボトルタイプの炭酸飲料に口をつけながら話しかけてきた。

 

「まあ、そんなところだな」


 俺は翔太の問いに曖昧な形で返す。

 

「何だよ、意味ありげな感じだな」

「お前と違って悩み多き高校生なんでな」

「それは聞き捨てならないな、俺にだって悩みの1つや2つあるんだぞ?」

「例えば?」

「ずっとやってるネトゲで欲しい武器が手に入らなかったり、片手間でやってるソシャゲでルナティックレベルのボスが倒せなかったりだな」

「真面目に聞こうとした俺が愚かだったよ」


 翔太は悔しそうな顔をしながら飲み干したペットボトルを自販機横のゴミ箱に押し込む。

 

「にしてもさ」

「どうした?」

「何でこの暑さの中、ホットココア何か買ったんだ?」

「俺の心が冷え切ってるからじゃないか?」


 俺は最後に知らんけどと言って、少し冷めたココアに口をつけていった。



 ココアを飲み終わる頃には辺りはすっかり暗くなっていった。

 翔太とは途中で別れて、そのまま家に向かう。


 にしても、あの頃の夢を見るとはな……。

 歩きながらふと見ていた夢の内容を思い出していた。


 ——何度も見た、思い出したくないあの時の夢。


 見るたびに、自分の胸が張り裂けそうになる。

 あの時から10年経とうとしているがそれは今でも変わらない。


「最悪だ……」


 俺はぐっと唇を噛みながら歩き続けているうちに自宅へと辿り着いていた。

 

「あれ……?」


 家の中には灯りがついていた。

 今は父親と2人で暮らしており、基本的に父親が帰ってくるのは夜中のため、最初に帰ってくるのは俺だが……。

 

 ドアノブをまわしながら引くと、すんなりドアが開いた。

 玄関には父親が使っている革靴が置いてあった。

 奥の台所の方をみると灯りがついているので、どうやら父親が帰ってきているようだ。

 

「……こんな早く帰ってくるなんて珍しいな」


 そう思ったのも束の間、父親の革靴の隣にあるものをみて、足が止まる。

 父親の革靴の隣に見慣れない薄いピンクが基調のスニーカーが置いてあった。

 先に言っておくと自分のではない。サイズや色からしてレディース用だと思う。


「誰か来ているのか……?」


 俺には家に呼んで来れるような親しい女はほとんどいない。

 ……そもそも来るなら俺に連絡を入れるはず。


 

 家に入り、すぐに灯りがついている台所に向かう。

 ドアを開けるとすぐに父親の姿があった。

 整髪料を使って毎朝髪をオールバックにしているが暑さで落ちてしまったのか、髪が乱れている。

 

 ……久々に顔を見たが、前よりも白髪が増えてる気もする。

 

「やっと帰ってきたか、どこに行ってたんだ? 今日は早めに帰るようにって言ったろ?」

 

 そう言えば、LIMEで父親から今日は寄り道しないで早めに帰ってこいと言われていた。

 あの夢のせいですっかり忘れていた。

 

 で、気になったのがキッチンテーブルを挟んだ奥にいる人物。

 茶色と赤色の中間の色をした長い髪。後頭部でシュシュを使って1つにまとめて後ろに垂れ流す、俗にいうポニーテール

 に水玉模様のワンピース姿。座っている背もたれにはジーンズ系のジャケットがかかっていた。

 

 どっからみても女性なんだが、そもそも何で父親と一緒にいるんだ?

 

「蒼介、こっちにきなさい」


 考えていると父親が俺を呼び、自分の隣の椅子に座るように促す。

 父親の隣に座ると、女性は俺の方を見てニッコリと微笑む。


 女性は美人と思える全体的に整った顔をしていた。

 年は俺と同じぐらいだろうか、もしクラスにいたら男子連中は放っておかないだろうな。


「遅くなってごめんね、美琴ちゃん」


 父親が話し始める。

 

「で、コイツがさっきから話している息子の蒼介」


 そう言って父親は俺の顔を見る。

 

「あ、えっと……天城蒼介あまぎ そうすけです」


 緊張しながらも自分の名前を名乗る。


「初めまして、柏葉美琴かしわば みことです」


 対面の席に座った女性……美琴さんはこちらに頭を下げながら名乗っていた。


「えっとたしか、美琴ちゃんは16歳だから蒼介と同い年か」

「はい!」


 美琴さんは元気よく答えると、すぐに俺の方をみていた。

 

「これから宜しくお願いしますね、蒼介さん!」

 

 美琴さんは再度和かに微笑んでいた。


「親父……?」

「どうした? 美琴ちゃんに一目惚れでもしたか?」

「はいはい……ってか状況がうまく飲み込めないんだけど?」


 たしかに美琴さんは美人だけど、今はそれよりもこの状況がまったく理解できなかった。


「あれ、言ってなかったか?」 

「ここ最近親父とまともに顔合わせてなかったんだけど?」

「言われてみればそうだな」

 

 父親は今の会社でそれなりの立場なのか、毎日仕事に追われている。

 そのため朝は早く、夜中といえる時間に帰ってくるのもザラだ。

 下手したら泊まりがけが続いて何日も帰ってこない時もある。

 

 今日、こうやって顔を合わすのもたぶん数週間振りだ。

 

「美琴ちゃんは高校の時の友人の娘さんなんだ」

「なるほど……」

「色々あって海外で暮らしていたんだけど、美琴ちゃんが日本の高校へ編入することになったそうだ」

「それはよかった」

「それで、うちで預かることにしたんだ」

「預かるって……まさか?」

 

 父親は腕を組みながら「そうだ」と言いだし……


「今日から美琴ちゃんは俺たちと一緒に暮らすんだ」

 

 何か後ろで火山が爆発しそうなぐらい自信たっぷりに答えていた。


「……え?」


 突然のことすぎて俺の脳みそは熱暴走を起こしかけていた。


==================================

【あとがき】

お読みいただき誠にありがとうございます。


カクヨムコンに参加いたしました!

受賞目指して頑張りますのでこれからどうぞ、宜しくお願いいたします!

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